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記憶喪失令嬢と公爵様の婚約生活  作者: すず
第二章 婚約生活編
49/64

11.敵地潜入です!

ブックマーク、評価ポイントありがとうございます!


誤字報告もいつも助かっております!

 結局賭博場には、ルイス・セシリア・ロイドの三人が行くことになった。本当はディルク・ロイド・セシリアで行くつもりだったのだが、セシリアにベタ惚れで超がつくほど過保護なルイスがそれを許すはずもない。


「あーぁ、サイラスは貴族と軍関係者が大嫌いなんだけどなぁ」

「ルイス様はどっちも当てはまるからなー。変装したって貴族にしか見えないし」

「あんなんでもセシリア様の安全のためにいてもらわないと困りますぅ~」


 賭博場の近くに控えるのは、ディルク・アシュトン・エマだ。隠密行動が得意な三人は、元々来る必要がなかったのだが勝手についてきていた。ディルクとアシュトンはルイスがブチ切れないか、エマはセシリアが危険に晒されないかが心配だったのだ。


 ルイスは領主だとバレないよう変装をしている。今回は賭博場を取り締まるわけではないのだ。領主とバレるといろいろ面倒くさいため、茶髪のカツラにメガネを付けて、服装もより領民らしく着替えていた。こんな変装用具が普通に孤児院にあるあたり、あそこは普通ではない。


「ロイド、なにかあればディルク達がついてきているからすぐに呼びに行け」

「えっ、ディルクさん達いるんですかっ!?」

「隠れてるつもりのようだが…まぁ、緊急時は出てくるだろう」

「分かりました!セシリアさんの安全が最優先ですね!」


 ひたすらセシリアの心配をする二人と違い、セシリア本人は特に危機感を抱いていなかった。頼れるルイスがいる事もそうだが、ディルクの言っていた事も信用しているからだ。


「こちらから何もしなければ大丈夫なのでしょう。ルイス様も剣を抜いてはダメですよ?」


 ね?と小首を傾げるセシリアは、愛らしくもどこか力強い。押し黙ったルイスを見て、ロイドは『案外尻に敷かれてるなぁ』などと思ってしまった。


 そうして三人は賭博場のある建物へと足を踏み入れた。


「らっしゃーい!!」


 店内へ入ると愛想の良い元気な声をかけられる。賭博場という名前とは裏腹に、中は酒場になっていた。


 まだ昼過ぎだと言うのに、むわりとしたアルコールの匂いが室内を満たしている。ガヤガヤした賑わいの中、酒に酔った男達の大きな声が時折聞こえてくる。


 店内はカウンター席が数個、あとは丸テーブルがいくつか設けられていた。よくある酒場と変わりはなく、どちらかと言えば少し狭いというところだろうか。よく見ればカードゲームに興じている人達もいた。


 領民も気軽に足を運ぶくらいだから犯罪を匂わせる感じはしない。賭けといってもエール一杯を賭けたりする程度なのだ。あとは腕相撲やおしゃべりなど……違法性は全く見当たらない。


 三人はさっと店内を見渡した。今のところ見る限りでは赤髪は見当たらない。ルイスに先導されて空いている席へと移動する。


「何にしやすー?」

「エールを二つと彼女にはアルコールではないものを」

「あいよー」


 どうやら領主だとはバレていないようだ。愛想の良い定員は人混みをぬってカウンター内へ消えていった。そしてすぐに飲み物を持って戻ってきた。セシリアにはブドウジュースが出された。見た目だけならワインにも見える。


「あら、とても美味しいです」

「隊ちょ……ルイさんもエール飲むんですね」

 

 隊長と言いかけたロイドは慌てて言い直した。今回もルイスは偽名に『ルイ』を使っている。安直ではあるが、分かりやすいからとのことだ。


「俺を何だと思ってるんだ。エールくらい普通に飲む」


 そう言ってルイスはエールを口にした。


 ロイドが言いたかったのは、『公爵の身分でも庶民の飲み物飲むんですね』という意味であった。ルイスとて十五歳から士官学校に入ったので、社交界以外の知り合いは多い。同僚や上司と王都の酒場に繰り出すこともあるのだ。


 三人は他愛ない会話をしながらしばらく店内を窺っていた。今だに『情報屋』らしい姿は見当たらない。


「お店の方に聞いてみましょうか?」

「警戒されるのもマズイんですよ。誰が『情報屋』に関わりがあるかまだ分かりませんし」

「そうだな。今日無理ならまた明日来るしかない」


 そういうものかとセシリアは納得した。人探しなのだから、最終的には誰かに聞くのかと思っていたのだ。


 そんな時、セシリアに一人の男が話しかけてきた。


「よーぅ、お嬢ちゃん。男二人と来てんのに酒飲まねぇのか~」


 ひょろっとした痩せ型の男で、酒に酔っているのか若干ろれつが回っていない。一気にルイス達が警戒をするのが分かったが、ここで事を荒立てては『情報屋』には辿り着けない。セシリアは男の顔を見てニコリと笑顔を向けた。


「残念ながら私はお酒があまり飲めないので。でもこのブドウジュースも美味しいです」

「あぁん?飲めねぇのにこんなとこ来たのかよ~」


 ただの酔っぱらいのようではあるが、セシリアには引っかかることがあった。この男には見覚えがある。こうして話しかけてきたのだから、もしかすると……。


 セシリアは、探りを入れるようにわざとらしく頬に手をあてて困ったように首を傾げてみせた。


「ええ、お会いしたい方がいまして。街でお見かけしただけなのですが……」

「へぇ……?」


 男の目が興味深そうに光った。ルイスもロイドも、セシリアの意図が掴めずただ黙っていた。先程、『誰かに聞く』ということが簡単に出来ないのは話したばかりなのだ。


「赤い髪の男性なのですが、()()()()()()()?」


 セシリアの言葉に男は目を細めた。その目はどこか探るようにセシリアを見ている。


 セシリアは『いますか?』ではなく『会えるか?』と言ったのだ。ここに目的の人物がいると確信しての言葉であった。


 しばらくセシリアを観察した男は、ニヤリと口角を上げて笑うと(あご)で店の奥を示した。その姿は、先程の酔っぱらいぶりは感じさせない。おそらく酔っぱらいのフリをしていたのだろう。


「いいぜ、会わせてやるよ。ついてきな」

「まぁ、ありがとうございます」


 二人のやりとりにルイスとロイドは内心で唖然とした。セシリアの堂々とした態度も見事な探りも目を見張るものがあった。


 実はセシリアとしては、この男が街でサイラスと一緒にいたのを記憶していただけであった。話しかけてきたということは、交渉の余地があるのではと考えたのだ。


 三人は男に連れられて店の奥へと進んだ。先程の酒場の賑わいが遠のくほど奥へ来たとき、開けた場所へと出た。


 倉庫を部屋として使っているのか、窓は一つしかなく薄暗い。テーブルは四つほどしかない。ほのかな灯りの中、賭け事に興じる男が数名いた。


 こちらは酒場メインの表とは違い、賭けをメインにしているようだ。あまり雰囲気が良いとは言えなかった。ルイス達もそれを感じて、さりげなくセシリアを守るような立ち位置を確保していた。


 そんな中、場に似つかわしくない明るい声が響いた。


「あっー!街にいたかわい子ちゃん!」


 こちらへ近付いて来たのは、陽気な雰囲気の青年であった。年の頃はルイスよりも年上のようだが、人懐こい笑顔は少年のようにも見えた。


 軽薄そうな見た目に(たが)わない服装。長い髪は後ろで一つにまとめている。その髪色は、まさに燃えるような赤色であった。おそらくこの男が情報屋・サイラスだろう。


 セシリア達を案内してきた男は、サイラスと思しき男に何かを耳打ちをすると表の酒場へと戻っていってしまった。 


「何々~、オレに会いに来てくれたんだって?」

「ええ、街で手を振って頂いたので会いに来てしまいました」

「わー、嬉しい!超運命感じるー!」


 この二人の会話にイラッとしたのはルイスだ。人の妻(まだ結婚していない)に勝手に運命を感じるなと言ってやりたい。しかし、任務……しかも『王家の秘宝』に関することであれば心を無にして我慢するしかない。


 ロイドも隣のルイスが苛立っているのは、ひしひしと感じていた。目の前では赤髪の男がセシリアと親しげに話しているのだ。口説いているようにも聞こえるから、正直ルイスがブチ切れないかハラハラしてしまう。


 二人がけのテーブルへと席を移した一行は、セシリアとサイラスだけが席についた。ルイスとロイドはセシリアの左右に控えている。


 表面上は和やかだが、実はセシリア達の周囲にはこちらを窺うような男が数人いた。おそらく赤髪の男の仲間だろう。ルイスもロイドもいつでも動けるように警戒する。


「セシリアちゃんって言うだ~。かーわいい~。オレの事はサイラスって呼んでー」

「サイラスさんですね。私の事を覚えていて下さり光栄です」

「いやぁ、こんなかわい子ちゃんだったら一生忘れないよー」

「まぁ、お上手ですね」

「本心だってば。男連れなのが残念。どうせなら二人っきりで会いたかったなぁ~」


 やはり予想通り、赤髪の男はサイラスと名乗った。この男が『情報屋』で間違いなさそうだ。女好きという特徴とも、ものすごく一致している。サイラスは、出会い頭からずっとルイスとロイドには目もくれず、セシリアだけに話を振っていた。


「こんな美人が会いに来てくれるなんて……手を振っておいて良かったー」

「ふふ、ウインクまでされましたね」

「うわー、気付いてくれたんだ。いやぁ、誘ってみるもんだねー」

「ええ、思わずここまで来てしまいました」


 二人はルイスとロイドを差し置いて、どこか甘さを感じさせる会話を続けていた。セシリアも情報を得るために相手を不快にさせないよう気を付けて話しているのだ。


 そんな中、ニコニコと楽しげな笑みを浮かべていたサイラスが突然雰囲気を変えた。笑顔はそのままだが、瞳に鋭さが増したのだ。


「で、セシリアちゃんはオレに何の用?そっちの二人は軍人だよね?オレ、軍人大っ嫌いなんだよね」


 サイラスの言葉で周囲の男達もこちらに殺気を向けてきた。ピリッとした空気に危険を察知してルイスが口を出そうとした時、場にそぐわぬ可愛らしい声が響いた。


「先程も申し上げましたでしょう?サイラスさんに会いに来たのです」


 ピリつく空気もものともせず、微笑みながら答えたのはセシリアだ。おそらくセシリアはこの刺すような敵意に気付いていないのだろう。


「……ふぅん、何か知りたい事があるの?」


 セシリアの答えに毒気を抜かれたのか、サイラスの雰囲気が元の軽いものへと戻る。それと共に周囲の警戒も一気にとけていった。


 今や会話の主導はサイラスとセシリアだ。サイラスがセシリアにしか話しかけないのでそれも当然だろう。ルイス達が口を挟むことは許されていない。それは、時折感じるサイラスの敵意からも明らかであった。


「欲しいものがあるのです。とても貴重なもので、とても大切なものです」

「…………オレがそれを知っているとでも?」

「ええ。サイラスさんはとても()()()なのでしょう」


 ニコリと微笑んだセシリアにサイラスはとても楽しそうに笑った。その笑顔は無邪気な少年そのものであった。


「いいね、セシリアちゃん。気に入ったよ。それで、何の情報が知りたいの?」

「大昔に失われた貴重な指輪が欲しいのです」


 セシリアの言葉にサイラスはますます笑みを深めた。セシリアは『王家の秘宝』とは口にしなかったが、十分通じたようだ。


 ルイスとロイドも固唾を呑んでサイラスの答えを待つ。


 サイラスは満面の笑顔で一つの提案を持ちかけた。それはセシリア達の予想の斜め上を行くものであった。


「じゃあ、情報を賭けてオレとセシリアちゃんでゲームしない?」

情報屋サイラス登場~!


イメージはチャラ男です(笑)

明るく話し上手で人当たりもいい。

ルイスの前でもセシリアを堂々と口説く物怖じしないヤツです。

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