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記憶喪失令嬢と公爵様の婚約生活  作者: すず
第二章 婚約生活編
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9.お宅訪問

 店じまいをしたイェンスと共に、ルイスとセシリアは孤児院へとやってきた。孤児院は街の外れにある。子供達が駆け回れる広い敷地が必要なため、この場所に作られたそうだ。


 外観は教会のような造りで、円柱状の塔が特徴的だ。小塔があるのもより教会っぽさを感じさせていた。


 広い庭の芝生もキレイに手入れされ、青々と輝いていた。少し開けた所には、遊具や花壇もあった。


「あれ、ルイス様じゃない。アシュトンかエマにでも会いに来たんですか?」


 出迎えてくれたのは洗濯物を取り込んでいたハンナであった。ルイスは、この孤児院の教育改革をした張本人なので、子供達とはもちろん面識がある。


「今日は見学に来たんだ。セシリア、彼女はここの院長のハンナだ」

「あ、ルイス様のお嫁さんですね。初めまして。いつもうちのアシュ(にぃ)とエマがお世話になっております」

「ハンナさん、初めまして。セシリアと申します。突然お邪魔してすみません」


 院長と紹介された女性は、セシリアとそう変わらないような年齢であった。前院長が高齢で辞めたあと、彼女が引き継いだそうだ。勝ち気な笑みが清々しい女性であった。

 

「見学ならアシュトンかエマを呼びましょうか?」

「せっかくだからセシリアを紹介したいんだが……今は誰がいるんだ?」

「ディルク以外の全員いますよ。アシュ(にぃ)達が帰ってくるってので、アデルとリンダも休みを取って帰ってきましたし」

「へぇ、全員いるとは珍しいな。それなら全員呼んでもらえるか」

「はいよ」


 ハンナが軽快な返事をしたと思ったら、セシリアはルイスに耳を塞がれた。何事かと思ったが、苦笑されるだけであった。よく見れば隣のイェンスも耳を塞いでいる。


 訳の分からないセシリアをよそに、ハンナはくるりと孤児院の方を向き、大きく息を吸い込んだ。


「ーーー全員、今すぐ庭に集合・整列っっ!!!」


 大音声とはまさにこのことだろう。空気を震わせるようなビリビリと響く声は、耳を押さえられていてもはっきり何と言っているのか分かるほどだ。お腹にずっしりとくる重みのある声。彼女のどこからあんな声が出るのか不思議でならない。


 手を離したルイスは、驚いているセシリアに説明をした。


「あー……ハンナはここのボスのようなものでね。彼女に逆らうと飯抜きの刑にされるから誰も逆らえないんだよ」


 くつくつと喉を鳴らして楽しげに笑うルイスだが、セシリアは状況についていけていない。孤児院でボスとは何か違くないだろうか。


 セシリアが困惑している間に、建物から次々と人がやってきた。その中にはエマもいて、こちらを見て嬉しそうに手を振ってくる。


 やがて二人の前には横並びに一列、十人がきちんと整列した。その間、僅か数分。迅速で無駄のない動きは、孤児院というより軍隊のようである。ハンナとイェンスもいつの間にか列に並んでいた。


 全員が揃ったのを見計らってルイスが口を開いた。


「急に悪いな。全員いるなら挨拶にちょうどいいと思って集まってもらった。知っているやつもいると思うが、彼女は俺の婚約者のセシリアだ」

「初めまして、セシリアと申します」


 セシリアは緊張しながらぺこりと頭を下げた。未来の公爵夫人であれば頭を下げずともいいのだが、ここがセシリアのいいところでもある。


「とりあえず軽く自己紹介をしてくれるか。じゃ、そっちから頼む」


 ルイスが示したのはハンナの方であった。ハンナは先程も挨拶をしたのだが、もう一度挨拶をしてくれた。


「改めまして、ハンナです。ここを卒業してそのまま院長を引き継ぎました。料理と薬草調合が得意です」

「あら、もしかしてエマから貰った酔い止めって……」

「あ、私のお手製です」

「まぁ。あれ、とてもよく効いたわ!」


 褒められたハンナは嬉しそうに笑った。薬草調合は主に対人戦用の物騒なものだとは誰もツッコまなかった。


 次に隣の青年が声を上げた。とても見覚えがあるのだが、彼も一応挨拶するらしい。


「え~アシュトンです。ご存じの通り、とっくに卒業して公爵家で庭師をしてます。このメンバーでは一番年上ですが、誰も労ってくれません」

「じじくさいぞ……。だいたい、お前は挨拶しなくてもいい」

「ほら、俺の扱いってかなり酷い~……」


 アシュトンとルイスのやりとりにセシリアはクスクスと笑った。子供達も同じように笑っているので、いいお兄さんのようだ。


 その次に声を上げたのは目元に傷のある青年だ。


「アデルでーす。卒業して今は軍の第一部隊で隊長補佐やってます。ちなみにセシリアさんが軍に来たときチラッと見かけましたよ~」

「まぁ、知らなかったわ」

「回廊で遠目に見かけただけでしたからねー。エマがいたからすぐ分かりましたよ。ルイス様の婚約者ということで常々噂にはーーー」

「次っ!!」


 噂とは?


 ルイスが話を遮ってしまい話を聞く事は出来なかった。なぜかアデルはニヤニヤしている。


 次に挨拶をしたのは、背筋をピンと伸ばした女性であった。


「リンダと申します。私も既に卒業致しまして、現在は王城で侍女をしております。おなじく噂はかねがねーーー」

「次っ!!」


 またもルイスが話を遮ってしまった。先程から話に出る噂とは何なのだろうか。そしてリンダまでニヤニヤしているのがとても気になった。


 次に挨拶したのは、大人しそうな女の子だ。


「シーラと言います。まだ孤児院にお世話になってますが、服飾店の店長をしてます」

「さっき街で入った服屋の店長がシーラだ。王都に支店も出している。ちなみにセシリアの服は全部ここで作ってもらっている」

「まぁ!私、どの服も好みです!着心地がよくて大好きです!」

「うわぁ、嬉しいです!今度ぜひ王都の支店にもいらして下さい」

「はい!」


 思わぬ出会いに、セシリアはついはしゃいでしまった。周りからの優しい視線で我に返る。


 次に挨拶をしたのは、先程も会ったイェンスだ。


「先程も会ってますがイェンスでーす。俺は今年ここを卒業します。経営学が得意なんでそっち方面の仕事をしてます。あ、ニック。例のやつ、指輪タイプでお買い上げ頂いたからあとでサイズ測っておいて」


 商魂たくましい自己紹介である。そして、そのままの流れで隣の男性にバトンが渡る。この男性があの雑貨屋の店主なのだろう。


「お買い上げありがとうございます。僕は卒業して小物とか家具とか売ってます。アクセサリーとか小物入れとかもオーダー出来ますんで、どうぞよろしく」

「あの……セシリア様が夜会に行った時のイヤリングはニック作なんです」


 シーラの遠慮がちな補足にセシリアは夜会の時に贈られたイヤリングを思い出した。青銀の美しいイヤリング。大きな青銀の石の周りは銀細工で見事な装飾がされていた。


「すごいです!あのイヤリング、とてもキレイでした!」

「へへっ、ありがとうございます」


 手放しで褒めるセシリアに、ニックは照れくさそうに笑った。


 次に挨拶をしてきたのはセシリアもよく知っている人物だ。今日はお仕着せ姿ではなく、パンツスタイルの私服であった。


「エマで~す。アデルとリンダの話に出た『噂』と言うのはセシリア様のお美しさの事なので悪いことじゃないですよぉ~」

「…………えっ?」


 ルイスに遮られる前にとエマはいつもより早口で話した。噂について気になっていたセシリアだが、エマの言葉がいまいちよく分からなかった。誰の美しさ……??


「そうそう。セシリアさんに求婚したいって令息、結構いるらしーよ」

「屋敷にもそういう手紙が届いてるけどルイス様が握りつぶしてるからねー」

「粘着質な男って嫌ですねぇ~」

「アデル、アシュトン、エマ……!」


 余計なことを言うなとばかりにルイスに睨まれた三人は『やばっ』という顔をした。蛇に睨まれた蛙とはこういう事だろうか。しかし反省しているようには見えなかった。


 セシリアは馬車で聞いたルイスの言葉を思い出した。『セシリアが他の男のところへ行ったりしないか不安なんだ』……あれは、ここから来ていたらしい。というか、婚約している人に求婚をするなどおかしいのではないだろうか。


「次、オレー!イザークです!暗殺者の卵でしたー!」

「はいはーい!私も!覚えてないけど私も暗殺者の卵でしたー!」


 十歳ちょっとくらいの男の子と女の子が片手を上げながら元気よく挨拶をしてくれた。この二人は他の子達と比べると少し年下のようだ。


「ブリジット、肝心の名前を言い忘れてんぞー。はい、もう一度ご挨拶」

「あっ!ブリジットでーす。暗殺者の卵でしたー!」


 アシュトンに指摘されてやり直したブリジットだが、二人とも自己紹介内容が大分おかしい。無邪気な分、とつてもない違和感を感じてしまう。


「イザーク、ブリジット……暗殺者のくだりは言わなくていい。お前達はもう暗殺者じゃないんだ」


 呆れ顔のルイスに二人はとんでもない事を言い出した。揃って首を傾げるしぐさだけはとても可愛らしい。


「えー、こう言うとウケるって聞いたよ?」

「ディルクが言ってたー」


 ルイスが半眼になったのをセシリアはおろおろしながら見ていた。エマも元暗殺者と言っていたので、一緒に保護されたのはこの子達なのかもしれない。


「イザーク、ブリジット~。暗殺者って言うよりも『とっても強いです』って言った方がめちゃくちゃかっこいぞー」


 アシュトンの言葉に二人は顔を見合わせてきょとんとしていた。すぐに『確かに』と笑顔を浮かべる。どうやら矯正は出来たようだ。さすがアシュトンである。


 ルイスは全員が挨拶を終えたのを確認するとセシリアに視線を向けた。その際、ハンナの隣にいる人物を視界に捉えると僅かに目を見開いた。


 そこには最初にいなかった人物が……。


「ディルクでっす。第二部隊の副隊長してまーす。エマ達と同じく元暗殺者でーす♪」

「ええっ、そうなんですか?あ……えーと……ロイドです。同じく第二部隊の所属です」


 約二名、変なのが追加されていた。

ここでチラッと孤児院メンバーおさらい。


ハンナ

料理も薬草調合も原理は一緒と思い日々研究している。通称おかん。


アデル

やんちゃ坊主が隊長補佐まで大出世。悪戯好きは幼少時から変わらない。


リンダ

優秀な侍女で王族のお世話もしている。フェーンベルグ家仕込みでそこそこ戦える。


イェンス

守銭奴と言われるが貯金は匿名で孤児院に還元。街の組合からも頼りにされてる。


ニック

のんびり屋の職人気質。売上よりも好きなものを作りたいけどイェンスが見逃してくれない。


シーラ

裁縫、刺繍何でもお任せ。趣味が高じて今や二店舗の店長。孤児院メンバーの服もシーラ製。


イザーク

暗殺者の卵だっただけあり身体能力高し。悪戯好きで何をしでかすか分からない。通称猛獣。


ブリジット

イザークの真似ばかりしてたので同じく身体能力高し。悪戯好きで何をしでかすか分からない。通称猛獣。

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