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ブレイブカード  作者: きしと
Enjoy Game
32/36

エピローグ3


 明くる日。

 昼間で寝ていた暁は、不躾に鳴らされる玄関チャイムの音で目を覚ました。


「なんだよ。今日は宅配便来る予定ないぞ」


 そう言って暁は、二度寝の態勢に入った。


(どうせ押し売りかなんかだろ。未来なら合い鍵を持ってるはずだし、居留守使うか)


 布団を深く被り、音をシャットアウトする。

 だが、玄関チャイムの音は鳴り止まず、何度もピンポーンピンポーンと、暁の家に響き渡っていた。


「しつこいな! こっちは夜勤明けなんだぞ!」


 暁はフリーターで様々な仕事をしているが、主な収入源はVRMMOの夜勤のGMだ。


 VRMMOのGMなどAIが全てやっているのでは? と思う人も多いだろう。

 だが、意外な事に、VRMMOの運営に関するものでは、AIの導入はあまり進んでいなかった。

 その理由はMMOというゲームの特性にある。


 元来MMOと言うものは、複数のプレイヤーが同時にプレイすることで、様々なトラブルが発生しやすく、その度に運営にトラブルに関するクレームが出されることが多かった。

 その為、VRMMOをプレイする人々はクレーム慣れしてるものが多く、そして同時に人相手のクレームになれた人々は、人でもないAIに機械的に判断されることを嫌ったのだ。

 AIにちゃんとした判断が下せるのか、といった声はまだまともな方で、AIが下した判断だからこれは無効だと言って、運営の裁定を無視するものや、AIにアカウントを停止されたことで、AI如きが人間様の大切なものを壊すのか、と怒り狂って悪質なクレーマーと化す事例が相次いだ。


 そのため何処のVRMMOの運営でも、ユーザーに誠実に対応する為と言って、AIではなく人のGMを雇っているのだ。


 最もAIを使っていた業界が、彼らが知っている古いAIへの差別意識で、結果的にAI化と言う近未来化が遅れていることに、なんとも言えない哀愁を感じるが、それを飯の種にしている暁は、粛々とそれを受け入れて仕事をしていた。


「ほんとになんなんだ!?」


 鳴り止まない玄関チャイムが止んだと思ったら、次は玄関のドアノブを、ガチャガチャと引っ張る音が響いてきた。

 ここに来て、暁もただの押し売りではなく、尋常ではない相手が、この事態が起こしていると実感し始めていた。


 音を立てないように、玄関チャイムと連動した装置の前に移動する。

 そして相手に気付かれないように、玄関カメラの映像を映し出そうとして――。


 がごんと、何かが外れるような鈍い音がした。


『あっ!』

「何をしてるんだ優理……」


 暁が見たのは、玄関のドアノブを、引きちぎって壊した優理の姿だった。

 暁は直ぐにインターホンの音声をオンにした、これでこちらの声が相手に聞こえる。


「優理。お前何してるんだ……?」


 独り言として呟いた言葉を、怒りを滲ませながら再度優理に向かって言う。

 その言葉に優理はびっくとした後、目に涙を滲ませながら言った。


「ごめんなさい……」

「はぁ。もう良いよ。ちょっとそっちにいくから待ってろよ」


 わざとではないから許そう。

 暁はそう考えて、玄関に向かう。

 ドアを開けるとそこには優理の姿があった。


「本当にいるな……。なんでここにいるんだ優理? 

 て言うかどうやって俺の家を知った」

「昨日この家に入るまで後を付けた」

「……まじか。全然気付かなかった」


 いつの間にか自分がストーカー被害に遭っていた事に、軽く眩暈を覚える暁。

 優理はその事については大して悪いとも思っていない様子で、側に置いていた紙袋を暁に差し出した。


「これ!」

「なんだこれ……蕎麦か?」

「うん。引っ越し蕎麦!」

「引っ越し……」


 悪い予感を覚えた暁は思わず問い返す。

 そしてそれを受けた優理は、無い胸を精一杯張り上げて言った。


「お隣に引っ越してきた白河優理です。これからよろしくね! おじさん!」

「ははは。女難の相か。未来の言ったことが当たっちまったな」


 いたずらが成功した子供のような表情でそう言う優理。

 暁はあきれ果てた声で、優理に聞こえないように思わずそのことを口にした。


「どうしたのおじさん?」

「何でもないよ。あと俺は28歳だからおじさんという歳でもない」

「優理にとってはおじさんはおじさんだよ! 大切な優理のおじさん!」

「なんか色々と通報されそうな言い方は止めない?

 というか今日は何のようでうちに来たんだよ。引っ越しの挨拶だけか?」


 それを聞いた優理は、満面の笑顔を浮かべた。


「約束! タイミングが合えば遊んでくれるんだよね! これでいつでも遊べる!」

「はぁ。何というか。よくもまあ、堂々と言ったものだ」

「だめ?」


 優理が不安そうにしながらそう言う。

 それを見た暁は笑った。


「駄目じゃない。意思を通すために努力するのは嫌いじゃないしな。

 ただ毎度毎度ドアノブを壊すのは止めてくれよ」

「わかってるって」

「本当に分かってるのか……。

 まあいいや、今日は俺んちで遊んでいくか? うちにはカードにアナログゲーム、撮り溜めたアニメと、色々な娯楽製品がコレクションされているから、優理も楽しめると思うぞ」

「そうする! お邪魔しまーす!」


 そう言って優理は駆け出した。

 そして玄関先でまだ突っ立っている暁に向かって言う。


「はやくはやく! 遊ぼう!」

「はいはい。分かってますって」


 そう言って暁は、優理の楽しそうな姿に微笑みながら、歩き出した。


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