エピローグ3
明くる日。
昼間で寝ていた暁は、不躾に鳴らされる玄関チャイムの音で目を覚ました。
「なんだよ。今日は宅配便来る予定ないぞ」
そう言って暁は、二度寝の態勢に入った。
(どうせ押し売りかなんかだろ。未来なら合い鍵を持ってるはずだし、居留守使うか)
布団を深く被り、音をシャットアウトする。
だが、玄関チャイムの音は鳴り止まず、何度もピンポーンピンポーンと、暁の家に響き渡っていた。
「しつこいな! こっちは夜勤明けなんだぞ!」
暁はフリーターで様々な仕事をしているが、主な収入源はVRMMOの夜勤のGMだ。
VRMMOのGMなどAIが全てやっているのでは? と思う人も多いだろう。
だが、意外な事に、VRMMOの運営に関するものでは、AIの導入はあまり進んでいなかった。
その理由はMMOというゲームの特性にある。
元来MMOと言うものは、複数のプレイヤーが同時にプレイすることで、様々なトラブルが発生しやすく、その度に運営にトラブルに関するクレームが出されることが多かった。
その為、VRMMOをプレイする人々はクレーム慣れしてるものが多く、そして同時に人相手のクレームになれた人々は、人でもないAIに機械的に判断されることを嫌ったのだ。
AIにちゃんとした判断が下せるのか、といった声はまだまともな方で、AIが下した判断だからこれは無効だと言って、運営の裁定を無視するものや、AIにアカウントを停止されたことで、AI如きが人間様の大切なものを壊すのか、と怒り狂って悪質なクレーマーと化す事例が相次いだ。
そのため何処のVRMMOの運営でも、ユーザーに誠実に対応する為と言って、AIではなく人のGMを雇っているのだ。
最もAIを使っていた業界が、彼らが知っている古いAIへの差別意識で、結果的にAI化と言う近未来化が遅れていることに、なんとも言えない哀愁を感じるが、それを飯の種にしている暁は、粛々とそれを受け入れて仕事をしていた。
「ほんとになんなんだ!?」
鳴り止まない玄関チャイムが止んだと思ったら、次は玄関のドアノブを、ガチャガチャと引っ張る音が響いてきた。
ここに来て、暁もただの押し売りではなく、尋常ではない相手が、この事態が起こしていると実感し始めていた。
音を立てないように、玄関チャイムと連動した装置の前に移動する。
そして相手に気付かれないように、玄関カメラの映像を映し出そうとして――。
がごんと、何かが外れるような鈍い音がした。
『あっ!』
「何をしてるんだ優理……」
暁が見たのは、玄関のドアノブを、引きちぎって壊した優理の姿だった。
暁は直ぐにインターホンの音声をオンにした、これでこちらの声が相手に聞こえる。
「優理。お前何してるんだ……?」
独り言として呟いた言葉を、怒りを滲ませながら再度優理に向かって言う。
その言葉に優理はびっくとした後、目に涙を滲ませながら言った。
「ごめんなさい……」
「はぁ。もう良いよ。ちょっとそっちにいくから待ってろよ」
わざとではないから許そう。
暁はそう考えて、玄関に向かう。
ドアを開けるとそこには優理の姿があった。
「本当にいるな……。なんでここにいるんだ優理?
て言うかどうやって俺の家を知った」
「昨日この家に入るまで後を付けた」
「……まじか。全然気付かなかった」
いつの間にか自分がストーカー被害に遭っていた事に、軽く眩暈を覚える暁。
優理はその事については大して悪いとも思っていない様子で、側に置いていた紙袋を暁に差し出した。
「これ!」
「なんだこれ……蕎麦か?」
「うん。引っ越し蕎麦!」
「引っ越し……」
悪い予感を覚えた暁は思わず問い返す。
そしてそれを受けた優理は、無い胸を精一杯張り上げて言った。
「お隣に引っ越してきた白河優理です。これからよろしくね! おじさん!」
「ははは。女難の相か。未来の言ったことが当たっちまったな」
いたずらが成功した子供のような表情でそう言う優理。
暁はあきれ果てた声で、優理に聞こえないように思わずそのことを口にした。
「どうしたのおじさん?」
「何でもないよ。あと俺は28歳だからおじさんという歳でもない」
「優理にとってはおじさんはおじさんだよ! 大切な優理のおじさん!」
「なんか色々と通報されそうな言い方は止めない?
というか今日は何のようでうちに来たんだよ。引っ越しの挨拶だけか?」
それを聞いた優理は、満面の笑顔を浮かべた。
「約束! タイミングが合えば遊んでくれるんだよね! これでいつでも遊べる!」
「はぁ。何というか。よくもまあ、堂々と言ったものだ」
「だめ?」
優理が不安そうにしながらそう言う。
それを見た暁は笑った。
「駄目じゃない。意思を通すために努力するのは嫌いじゃないしな。
ただ毎度毎度ドアノブを壊すのは止めてくれよ」
「わかってるって」
「本当に分かってるのか……。
まあいいや、今日は俺んちで遊んでいくか? うちにはカードにアナログゲーム、撮り溜めたアニメと、色々な娯楽製品がコレクションされているから、優理も楽しめると思うぞ」
「そうする! お邪魔しまーす!」
そう言って優理は駆け出した。
そして玄関先でまだ突っ立っている暁に向かって言う。
「はやくはやく! 遊ぼう!」
「はいはい。分かってますって」
そう言って暁は、優理の楽しそうな姿に微笑みながら、歩き出した。




