七龍征
「で、如何なのだ? 我がクランのねこねこと戦ってくれるのか?」
「まあ、俺は構わないが。ねこねこ自身は戦うでいいのか?」
「うちはかまへんで」
何てことないすました顔でねこねこがそう言う。
それを見てCCOが呆れた表情をした。
「いや、何だ? その別にいいですよー。みたいな態度は。もとより今回の龍の巣との会合だって、お前が我の元に持ち込んだ企画だろ」
「あれ? そうなの? まあ、獣の掟みたいなトップクランが、うちみたいな中小との会合をするなんて不自然だなーと思ってたけど」
CCOの言葉で、全員の視線がねこねこに集まった。
ねこねこは視線を逸らして恥ずかしそうにしながら言う。
「……七龍征はうちの憧れの一つやから一度戦ってみたかったんや。こうやって機会を作らないと人数多いイベントやとなかなかあたらんやろ?」
唐突なファン宣言に七龍征の三人は思わず驚く。
そしてあーさーが申し訳なさそうに話し始めた。
「そうか。そう言う理由でうちのクランとの練習試合を……それは悪いことをしたな」
「だね。うちは一応あーさーと僕の二人がいるけど、他の七龍征の面子は参加してないし、ぶっちゃけ別物といっていいものだからね。七龍征と戦いたいという目的にはそぐわない相手になってると思うよ」
「別にええんや。そんなことは百も承知で会合を用意したわけやし。
……まあ、出来れば完全な七龍征と戦ってみたかったのが本音やけど」
ねこねこのその言葉にCCOは頷く。
「確かにな。我がこのゲームを始める前から七龍征の名声は広がっていた。故に我も七龍征と一度戦ってみたいと思っていた。
――だが、我が始めた時には既に七龍征は解散し、メンバーもそれぞれバラバラで活動している状態だった。
前から疑問だったのだが、何故七龍征は解散したのだ?」
CCOはその疑問の言葉を、七龍征のクランリーダーであった黄昏に向けた。
「一応解散じゃなくて活動休止中って扱いなんだ。それでそうなった理由ってのは有名になりすぎたからなんだよな」
「有名になりすぎたから? どういうことだ? それは悪いことではないだろう」
「そもそもCCO達は何処まで七龍征の話を知っている? 最近だと割と名声が先行してしまっていて、ただ凄い人達なんだな~くらいの扱いしかされない時とかもあるんだが」
黄昏の言葉に、CCOとねこねこは顔を見合わせた。
そして目で意識合わせをすると、代表してねこねこが語り出す。
「ブレイブカードの黎明期にまだ誰も入手していなかったボス級ユニットのEXである[始界機龍バハムート・ギア・零式]を入手したことで有名になったんやなかったか」
「そうそう。その通りだ。元々七龍征ってのは、存在するかも分からない[傾界機龍バハムート・ギア]のEXを手に入れる為に作られたクランなんだよ」
ねこねこが語った内容について間違ってないと補足する黄昏。
その先を話そうとしたところで、ユーリがじっとこちらを見ていることに気付いた。
「ユーリの為にも一から説明していくか」
黄昏は、ユーリが自分の異名をうろ覚えだったことを思いだし、この機会にしっかりと知って貰おうと、分かりやすいように一から説明していく。
「カードにはレアリティというものがある。ブレイブカードでは最下位のCから最上位のLRまで様々な種類があるが、そこに属さない特殊なレアリティとしてEXが存在しているんだ。
EXの何処が特殊なのかというと、同じカード扱いなのにカード名がまず違うし、効果やステータスも全く別物になることがあるところだ。
そんな特殊なレアリティだから多くのプレイヤーの注目を集めていたわけだが、ぽつぽつとユニットなどのEXが出てきただけで、ボス級……つまりスペシャルのEXはまだ出てきていない状況だった」
「当時はまだまだ全部のエリアを踏破したとは言いがたい状況だったからね。殆どのプレイヤーが先に進むことを優先して、今では頻繁に行われるそう言った検証は後回しにされていたんだ。
中には僕達と同じようにスペシャルのEXを手に入れることを目指す者もいたけど、その条件を見つけ出すことが出来ずに諦めてエリア攻略に戻っていく者が殆どだった」
「そんな感じだったから、ちまたではスペシャルにはEXは存在しないとまで囁かれる状態だった。
でも俺はスペシャルにもEXがあると思っていたし、如何しても[世界を支える地]のボスである[傾界機龍バハムート・ギア]のEXが欲しかった。
だからそれに挑戦してくれる仲間を集めたんだ。
そうして結成されたのが七龍征だ。クラン名の由来は単純明快。集まったメンバーが七人だったから、七人の龍を征伐する者で七龍征にした」
少しばかり誇らしそうにどや顔をする黄昏。
それを見てnaruは補足を加える。
「まあ大層な名前が付いているけど、まだまだ未踏破エリアが残っているのに、存在するかもわからないものを目当てにひたすら挑み続けた。ただの暇人というより狂人の集団なだけなんだけどね。スペシャルのEXだって僕達が見つけなくてもそのうち見つかっていたと思うし」
「いや、それは卑下することではないだろう。確かにスペシャルのEXは七龍征が見つけなくてもそのうち見つかっていたかもしれん。
だが、その当時誰もがやらなかったことにあえて挑戦し、そして成し遂げるということ自体が、ゲームというもので成す偉業の一つである、と我は考えている。
だからこそその名声は受け取るに相応しいものだ」
威風堂々とCCOはそう宣言した。
七龍征は伝説の最強集団と言ったような存在ではない。
当時でも、現在でも、七龍征より優れたクランは多数存在している。
それなのにこうして名声を得て、多くのものを引きつけるのは、彼らが他の者達を先導するようにまだ見ぬ道を進んでいったからだ。
その未知を既知へと変えようとする姿勢こそが、まだ見ぬカードの組み合わせを探求するカードゲーマー達の心に響き、こうして祭り上げられることになったのだ。
「七龍征を結成したあとはひたすら[傾界機龍バハムート・ギア]に挑んだ。EXを入手する条件が分からなかったら相当な回数挑むことになったな。途中から数えてなかったけど五百は行っていたと思う。
まあ、そんな頑張りもあって、今では当たり前になっているボスユニットのEXの入手条件が判明した。
それは最高難易度でボスに挑み、ボスごとに設定された特定条件を達成することで、1%の確率で出現するカードがEXになるというものだ」
黄昏の説明を聞いたねこねこが思い出すように話す。
「確か[傾界機龍バハムート・ギア]の条件は、当時実装されている全ての属性の攻撃を当てて、各属性へのフォームチェンジを見た上で倒すというものやっけ。
初期の頃の属性は炎、水、地、風、雷、闇、光の七つで、それが丁度七龍征の人数と一致してたから七龍征の異名には属性が付くことになったんよな」
「運良く全員が使う属性がばらけてたからね。それがなかったら条件達成出来なかった可能性があることを考えると、或る意味必然かも知れないけど。結果として気付いたら七龍征全員の異名が、デュエルスタイル+属性名になってたんだ」
ねこねこはnaruのその言葉を聞いて、七龍征の名前と異名を思い出す。
【幻炎】黄昏
【化水】カタリナ
【遊地】無名
【特風】災箱
【縛雷】naru
【武光】あーさー
【絶闇】久遠
(遊地と絶闇はいまいちどんなデュエルスタイルか想像できへんが、あとは何となくどんな感じかはわかるな)
ねこねこがそう思考を巡らせている間に、黄昏の説明は続く。
「まあそんな感じで俺達は無事[傾界機龍バハムート・ギア]のEXである[始界機龍バハムート・ギア・零式]を手に入れたわけだ。
初のスペシャルのEXの獲得。偉業は偉業だったけど、正直に言ってしまえばブレイブカード内だけ称えられるような小さな出来事ではあった。
それがそれだけで終わらずに大きく広がることになった原因は、当時の時勢が大きく関係している」
「むぅ? 時勢?」
「……当時は第一世代、第二世代のVRMMOしかない状況で、端的に言ってしまえばチートに頼らない形で旧人類がゲーム内の偉業を達成することはほぼない状況だった。そんな中で俺達七龍征は七人中六人が旧人類で、しかもそのうち三人が喪失者という状態で偉業を達成した存在になった」
「な!? 喪失者が三人もいたのか?」
黄昏の話を聞いていたCCOが思わず声を上げる。
彼は七龍征の殆どが旧人類だということは知っていたが、その中に三人も喪失者がいるとは思わなかったのだ。
「なんや。喪失者がいたらわるいんか? 言うてなかったが、うちやて喪失者の一人やで」
「え!? あ、いや。まともに生きている喪失者を見たのは初めてだったからつい。悪気があったわけじゃないだ」
ぎろりと怒りが込められた目で睨まれたCCOが小さくなりながら謝る。
「まあ、世間の喪失者への認識なんてそんなものだよな。
そしてだからこそ俺達の活躍がセンセーショナルになると踏んだ、ブレイブカードの運営であるネクストオリジンの関係者が、俺達に広告塔にならないかと提案してきたんだ。
当時のブレイブカードは、カードゲームというコアなものを題材にしているせいで、カードゲーム好きにしか知られていなかった。それを多くの人に知って貰い、遊びたいと思わせるために、旧人類で喪失者が多数在籍している七龍征が偉業を達成したということを全面的に押し出したわけだ」
「うちがブレイブカードを始めたのもそれを目にしたからやな。結構広く広報されていたからブレイブカードをやってるやつだけじゃなくて、他のVRMMOをやってるやつも大体七龍征という名前だけは知っていると思うわ」
「まあ、そんなわけで七龍征は広告として使われて一気にブランド化したわけだけど、それによって問題が起こることになった。
簡単にいってしまえば名声を落とせなくなってしまったんだよ。俺はそういうのは特に気にしないで普通に七龍征を使って行こうと思ってたんだけど」
「カタリナが猛反発したんだよね」
「前から仮想世界こそがオレの真の世界とか言って、ゲーム内での名声に拘る奴だったからな~。
七龍征のブランドを落とさない為に新規クラン員の追加を禁止したり、イベント参加を禁止したり、色々制限された結果、まともに使えないようになったんだよ。
そんなもんでいっその事活動を休止して、それぞれのクランを作ったり、ソロでやっていこう話になって現在に到るというわけ」
黄昏がそう言って話を閉めたところで、CCOが少し考えた後で言う。
「なるほどな我もデュエルチャンピオンとして名声を落とさないように努めているから、七龍征を活動休止にした気持ちはわかる。
だが、それなら黄昏は簡単に我らからの決闘を受けてしまっていいのか? ソロになっているとはいえ、間接的に七龍征のブランドに傷を付けることになるだろう?」
「まあ、確かにそうだな。
だけど俺はあまりそう言うことは気にしないで戦っている。名声っていうのは所詮単なる手札の一つにしか過ぎないし、それを重要なカードとして大切にする必要はあるとは思うが、それ自体は適宜利用して行くものであって、後生大事に手札に持ち続けて腐らせるようなものじゃない」
そこまで話したところで黄昏はねこねこに目を向けた。
「と言うわけで俺個人が七龍征の一人として戦う事には何の問題もない。何より負けるつもりは毛頭無いからな。こっちの心配をする必要はないぞ?」
そう言って不敵な笑みを見せる黄昏。
それを見て、ねこねこも同じようににやりと笑みを見せた。
「言うやないか。でも勝つのはうちやから」




