カードゲームアニメでは異世界なんて当たり前
「話は聞かせて貰った。より映える戦いが出来る対戦相手を探しているのだろう? こちらが黄昏を待った目的とも会うし、うちのねこねこをその相手として貸しだそうではないか」
「まあメタデッキ仲間のパーミッションデッキ<相手のカード発動を無効化して押しつぶす戦い方を示すカード用語>のCCOが戦ってくれるより合理的だが、なんでわざわざ対戦相手になってくれるんだ?
そもそも俺を待っていた目的って何だ?」
「ふむ。黄昏はブレイブカードが五周年を迎える今年、普段行われる大規模イベントであるデュエルパレード以外にも、大規模イベントが実施されるという噂は聞いたことがあるか?」
CCOのその言葉に、黄昏は最近になって聞いた噂を思い出す。
「サーバ間戦争イベントっていうあれか?」
「そう、それだ。五周年記念に行われると噂される大規模イベント。
今年のデュエルパレードの上位入賞した者やクランには、そのイベントで有利になる特典が貰えるのではないかと言われている。
だから何処のクランも大会に向けて牙を研ぎ始めたというわけだ」
それを聞いて黄昏は呆れたような表情をした。
「特典って。そんな大層なものは出ないだろ? ここの運営はインフレ嫌いだから明確な差が付くようなものは出さないだろうし。よくてサーバ間戦争開始時のスタート地点の選択の優先権くらいで、それを出すにしても、そのスタート地点周辺の状況を分からないようにして、ランダム性を出して公平な結果になるようにするだろう」
「確かに大方の予想は黄昏の考えるものと同じものだ。
だが、それでも多少の有利が得られるのなら挑む価値はある。何せ五周年記念だからな。目立てる可能性が高くなるのなら、少しでもそれを上げたいと思うものだろう」
「まあ、気持ちは分かるが……」
黄昏はそこまで言ったところで、ちょいちょいとユーリが黄昏の上着の端を引っ張っていることに気付いた。
「何だ? ユーリ」
「むぅ! 話について行けない! サーバって何!? サーバ間戦争って何!?」
「ああ、そう言えばこれもブレイブカード独自だっけ。
……じゃあ、naru、説明をどうぞ」
話を振られたnaruは目を煌めかせた。
「承った! まず、サーバと言うのは、僕達がいるこのVR空間を含めた、電子データが格納されている場所のことだよ。
基本的に今のサーバは、ネクストオリジン社のスーパー技術で驚くほどの高性能になっているから、電子的な負荷の面では分散する必要は薄いんだけど。イベントなどで必要以上に人が集まりすぎて上手く実施できないなど、心理的な面や運営的な面で問題があるから、それを避けるために幾つものサーバに分散されてブレイブカードは運営されている状態にあるんだ」
「VR空間によって世界の壁は取り払われたからな、外国語もVR空間内で自動翻訳してくれるし、国ごとの経済格差も、どこからでも仕事に行けることによって無くなった。潜在的にはこの世界に生きる全ての人々がブレイブカードをプレイする可能性があるわけだ。
つまり場合によっては、億単位のプレイヤーが集まって一つのイベントを実施する可能性だってある。そうなった場合、どうやっても一日ではイベントは終わらないし、待ち時間で大半の人がつまらないまま終わってしまうだろう?
だからこそサーバで人を区切って、真っ当にイベントを開催できる人数に小分けにしながら、イベントを開催するわけだ」
黄昏の補足にnaruは苦笑をしながら話を続ける。
「まあ、そんな極端な例にはならないと思うけどね。
ともあれ、今の時代でも様々なゲームで、負荷分散の為にサーバ単位でプレイヤーの人数を分けて運営されている。
それ自体は珍しいことではないのだけど、ブレイブカードはそこにひと味アクセントを加えたんだ」
「アクセント?」
「普通はね。サーバを分けても同じ内容で運営するものなんだ。同じ世界観の世界を複数作ってそのどれかにいる感じと言えばいいのかな。元々その内容を楽しみにプレイヤーは遊びに来るわけだから、そうするのが普通なんだけど、何をとち狂ったのか、ブレイブカードはあえてサーバごとに世界観を変えたんだ。
端的に言えばサーバごとにブレイブカードは全く別の物語を提供してるってこと。運営曰く【サーバ単位世界観制】という独自の取り組みらしい」
「何でそんなことを?」
ユーリの頭の上に疑問が大量に浮かぶ。
普通に考えるならそんな風に世界観を変える必要はないはずだ。
そんなことをしても混乱するだけで、メリットがないのではないかと思う。
そんなユーリの疑問に黄昏が答える。
「インフレを避けるための仕様だっていうのが一般的な考えだな。
ユーリはまだ始めたばかりだからよく分からないだろうが、カードゲームってのは凄くインフレをしやすいものなんだ。カードを出せば出すほど要求される水準がどんどん高くなってしまう。万が一にでもぶっ壊れカードを出してしまった日には、バランス崩壊と、それを止めるための新規カードで、加速度的にインフレは進んでしまう」
黄昏の脳裏に過ぎるのは学生時代に慣れ親しんだ様々なカードゲーム達だ。
インフレの波に呑まれて大規模なルール改正をした結果、古参が次々と辞めていったあげく、改正したルールでもインフレを止められなかったカードゲーム。
インフレを止められなかったから、それまでのカードを全部捨てて、新機軸のカードを作り出して、それぞれのカードごとに大会運営をし始めたカードゲーム。
本当に色々なカードゲームが様々な方法でインフレに立ち向かっていった。
だが、そのどれもが多大なダメージを負うことになった。
順調に新環境に移行できたものなどなかったはずだ。
ブレイブカード運営はそんなカードゲームの歴史を知っている。
だからこそ彼らは必要以上にインフレを恐れている。
だが、それも仕方の無い話だ。
――インフレは容易くカードゲームを死に至らしめるのだから。
「基本的に新しいストーリーを追加したのなら新規カードも追加しなくてはならない。誰だって運営が新しい要素を追加したら、それに伴ってカードも増えていると期待するからな。
だが、そうやってコンテンツを増やすと同時にカードをどんどん増やしていたら、インフレは止められずにブレイブカードの世界は崩壊する」
神妙な表情で黄昏は語る。
「それを避けるために運営はサーバごとに世界を変えた。
なぜならそうすることによって一枚の新規カードの追加で、複数のストーリーを一度に追加出来るからだ。サーバごとに世界が異なるから、同じカードでもそれぞれの世界で異なった背景の物語を付けることが出来る。
現在ブレイブカードには三つのサーバ。つまり三つの世界が存在しているから、運営的には一枚のカードで三倍美味しい」
「第一世界。オーソドックスなファンタジー世界である【ファルガナン】。第二世界。空に浮かぶ島国を渡り歩く世界である【アルクセリア】。第三世界。文明崩壊した地底世界である【グラングルム】――これらが現在実装されているサーバの世界だね。
プレイヤーは別のサーバに移る権利も持っていて、ストーリーやコンテンツが物足りないって人は、他の世界に行ってその足りない分を埋めてねっていうのが運営の方針なんだ」
「それにこの運営のインフレ対策は思わぬ副産物を生むことになった。
一つの世界しかなかった頃は、カードの取得するためのクエストをクリアすることが出来なくて、欲しいカードを入手することが出来ず、やる気を無くして辞めてしまうプレイヤーが出ることもあったが、サーバごとに別々の物語にすることによって入手手段が増え、何処かの世界ならクリア出来るクエストが存在するため、欲しいカードを入手出来るようになり、辞めるプレイヤーが減った」
そこまで話したところでnaruは纏めるように言った。
「取り敢えずやってみたら、カードゲームの世界であるブレイブカードとベストマッチしたから、そのままそのやり方を続けているって感じだね。
近々第四のサーバが追加されるって噂もあるし、このままこのやり方を続けていくと思うよ」
その話を聞いてユーリは首を傾げる。
「むぅ……よく分からない。同じゲームなのに違う内容は違和感ある」
ユーリは色々なゲームを回ってきたが、そんなおかしなことをやっているところは今までなかった。幾ら理由があるからと言っても、ログインするサーバで内容が違うなんてことは、早々受け入れられるものではないのではないかと思う。
それを見て黄昏は苦笑する。
「一般的な目線で見たらそれが普通だよな。ブレイブカード以外で同じことをやったら猛反発を喰らうと思う。
だけどブレイブカードをプレイするやつの大半がカードゲーマーだから、殆ど反発もなく実装されることになったんだよな」
「なんで?」
「異世界なんてカードゲームアニメじゃありふれたものだからさ!」
その黄昏の言葉にnaru達全員が納得と言った表情で頷く。
カードの精霊の世界や各文明の世界など、主人公達に取っての異世界のような存在が、カードゲームアニメではよく出てくる。
それによって訓練されていたカードゲーマー達は、この奇異な仕組みも、カードゲームものなら異世界があって当然だよね、と平然と受け入れることが出来たのだ。
「むぅ……」
納得がいかないといった表情のユーリ。
ただこればっかりは、カードゲームアニメを見ていないと分からないので話を流し、ユーリへの説明が終わったと判断したCCOは、途中になっていた事柄へと話を戻す。




