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妖精と悪魔 2


がたごとと揺れる馬車の中、最初は窓から流れる景色を楽しんでいたけれど、あまり代わり映えのしない情景に次第に飽きを感じてしまう。

領地から同行してくれている僕専属の執事は乗り物にめっぽう弱く、青い顔で背もたれに置いていた座蒲団を抱きしめている。


「オリバー大丈夫?」


僕専属の執事、オリバーにそう問うとこくこくと頷いて返事はくれるが顔色はすこぶる悪い。

最初、乗り物酔いに効く魔法をかけようとしたが固辞されてしまったのでどうしようもない。勝手にかけてしまおうとも思ったけれど申し訳なさでオリバーが謝り倒す未来が見えるのでぐっと我慢する。


でも薬なら受け取ってくれるかも知れない。

なんで思いつかなかったんだろう。

僕はすぐにポケットに忍ばせていた薬を取り出してオリバーに渡す。


「飲んで」

「も、申し訳ありません」


結局オリバーは申し訳なさそうに肩を窄めたけれど薬は受け取ってくれた。

水無しでも服用可能な薬を渡したので「そのまま飲めるよ」と伝えるとオリバーはすぐに口へと放り込んで嚥下した。


馬車は揺れ、景色は後ろに飛んでいった。

数刻もするとオリバーの顔色は良くなっていたので僕は横に積んでいた本を一冊抜いて適当に開く。

ちらと見えたオリバーは、引きつった表情をしていた。僕は乗り物酔いをしない。

本も普通に読める。オリバーには苦行だろう。


本をめくり、合間合間にぽつりぽつりとオリバーと言葉を交わしている間に馬車はどんどん進んだ。

夜は近くの街に寄り、宿に泊まって、朝を迎えるとまた馬車に乗り揺られた。

そんな生活を暫く過ごして、やっと着いた王都は建物は高く、人は多く、活気に溢れていた。


長く続いた馬車移動にオリバーはげっそりとやつれてしまっていたが、初めての王都に目を輝かせた。

オリバーは僕より少し年上の十八歳。お父様の治める辺境に生まれた子である。

小さな頃からオリバーは僕の友達であり、従者で気心の知れた関係だ。

賃金が発生する以上、オリバーは僕に対して敬語を使い、一歩引いた態度を取る。


僕の部屋の中で二人きり、とかであれば全然オリバーは僕に対して兄の様に優しく、時には厳しく接してくれる。

辺境は寒暖の差が激しく、夏は暑く冬は寒い。隣国との小競り合いも時折起きる。難民が流れ来ることも。

領民は他と比べ少なく、子供ともなればより少ない。


僕には友達が少ない。

領主の息子で、妖精の血を引いた僕は気軽に領民の子と仲良く、なんて出来なかった。

なにか粗相をしてしまってはいけないと子供を近づけたがらない親が多数だからだ。


僕は気にしないし、両親も気にしないけれど、それはこちらの都合だ。

寂しいけれどもそれはきっと人の上に立つものが味わう孤独。


王都に目を輝かせるオリバーをちらと見て、胸いっぱいに空気を吸い込んで空を仰ぐ。

空だけは、いつでも其処にあって、僕を拒絶しない。等しく、誰もを見守ってくれている。


「えーと、入学式まであと三日かぁ。タウンハウスに荷物を運んで今日は休もうか」

「そうですね。定期的に掃除は入っている様ですが、ある程度は掃除したいですし」

「それ、休むって言える?」

「リエル様はくつろいでいて構いませんよ」


軽口の応酬をしていると、馬車はついにタウンハウスに着いた。

オリバーが先に降り、ドアを開けて僕が降りるのを待った。ありがとう、と笑んで僕は馬車を降りる。

御者にも礼を言ってから僕はタウンハウスに入った。


エントランスには僕の事を待っていたメイドや執事が数人待っていた。横一列に並び、綺麗に揃った礼をした。


「お待ちしておりました。リエル様」

「お出迎えありがとう。早速だけど、積んできた荷物があるから運んでくれる?」

「勿論です」

「その後は、僕は談話室でお茶を飲むから用意してくれる?その時にみんなの自己紹介を頼むよ」


一番年嵩の執事にそう伝え、僕は談話室に足を向けた。

前回から随分と時間が空いてしまい申し訳ありません。

数話で終わらせる予定でしたが地味に長くなりそうです。もう少し更新ペース上げていきたいです。

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