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9.ジェイコブの独白


俺には、婚約者がいる。

マルティーナ・ワールヴォル、伯爵家の末っ子。

彼女は初対面から印象が悪かった。


俺は、ジェイコブ・ブロード。

子爵家の次男として生まれた。

基本的に、家を継ぐのは長男だ。次男の俺は長男にもしもの事があった時のスペア。

それは理解していたし、不満も無い。


マルティーナとの婚約は、互いの両親が話し合って決めたものだった。

長男のカーティスか次男のジェイコブ、つまり俺にするか少し揉めたと言う。

ブロード家はカーティスと、ワールヴォル家はジェイコブと意見が対立したらしい。


だが、ワールヴォル家の方が爵位は上。ブロード家が折れる形になった。


十歳の時、両親付き添いでマルティーナと対面した。

綺麗な少女だとは思った。白銀の真っ直ぐな髪、色素の薄い青の瞳は何処か神聖な印象を抱かせた。

だが、マルティーナが口を開いた瞬間、ジェイコブの何かが崩壊した。


「お初にお目にかかる、マルティーナ・ワールヴォルと申します」

「…ジェイコブ・ブロード、です」


さっと立ち上がり、綺麗なカーテシーを披露したマルティーナを前に、しどろもどろな返事しか返せなかった。

まるで、令嬢の振りをした少年の様だと思った。


マルティーナの持つ雰囲気には丸みがなく、どこか刺々しい。

まるで騎士の様だ。

ワールヴォル家は騎士を輩出する家系だった。そのせいだろうか。


とても素敵な女の子よ。

ジェイが守ってあげないとね。

両親はそう言っていた。だから、鍛錬に励んだ。

ところが、目の前のマルティーナは、か弱い少女では無い。それくらいは見てわかった。


「…婚約者として、恥ずかしくない振る舞いをして欲しい。今のままのマルティーナ嬢は横にいて欲しくない」

「はぁ…、かしこまりました」


マルティーナは一瞬不思議そうな顔をしたが、腑に落ちた様に肯いた。

自分の何が駄目なのか分かっている様な素振りに腹が立った。

分かっていながら治さないなんて。


それから、貴族学園に入るまでに何度もマルティーナと会った。

会う度に苛立ちは募っていく。


口調や立ち振る舞い、表情は次第に柔らかさや丸みを帯びていた。

俺の両親はマルティーナの成長を褒め称えていたが、俺は違うと思っていた。

最初のどこか少年の様な態度が演技で、令嬢らしい振る舞いを隠していたのではないかと。


でなければ短期間で変わるはずがない。

最初の印象を悪くして後で挽回する為に演技をしていたに違いない。

マルティーナの小賢しさに呆れを超えて感心した。


だが、マルティーナの性格の悪さはそれだけではなかった。


剣の稽古をしている時にマルティーナが家を訪れ、手合わせをしたら圧倒的な力量の差を見せつけられた。

嗜む程度、と言ったが嗜んだ程度で俺を倒せるわけがない。


魔法を使っていると、横でマルティーナは見せつける様にぽんぽん発動させていく。

マルティーナには魔法は使えないだろうと言ったらこれだった。


他にもまだあるが、あまり思い出したくは無い。

いつでも、マルティーナは俺を見下し、馬鹿にする。


貴族学園に入学する事が決まり、俺は憂鬱だった。

ブロード家が馬車を用意し、マルティーナの送り迎えをする。つまり、登下校をマルティーナと共にしなければならない。


マルティーナは大人しく俺の言う事は聞くが、その後に絶対やり返し、恥をかかされる。

無表情で眺める瞳は冷たく、俺のことを嘲っているのだと悟るには十分だった。


婚約者の癖に。

俺の口癖になっていた。

婚約者の癖に俺の気持ちも汲めないのか。婚約者の癖に俺を立てようと言うつもりもないのか。婚約者の癖に…。


マルティーナは俺の話を全然聞いていない。

だから、何を言っても反応がない。


なので、喋る事も、嫌になってしまった。

俺だけが必死で、俺だけが疲れている。俺を気にも留めずさっさと先に進んでしまうマルティーナ。

俺が必死に努力してもあっさりと乗り越えられる。


努力が足りないのでは?と嗤われた日は、怒りで枕を引き裂いてしまい部屋中に羽毛が舞った。


マルティーナが俺を嫌っているから、俺も距離を取った。

そうするうちにマルティーナの事を本気で嫌いになっていた。

マルティーナが俺との婚約を望んでいないのは分かっていた。なら破棄を申し出ればいいものを。


そんな中、俺はエリザベスに出会った。

可愛らしく、庇護されるべき存在。

マルティーナの事で苛々してうっかり荷物をばら撒いてしまった時、偶然通りかかったエリザベスが拾ってくれた。

その時につい、マルティーナの愚痴を零すと、エリザベスは天使の様な可愛らしい笑みを浮かべた。


「私だったら、そんな事致しません。ジェイコブ様、貴方は悪くありません…」


そして、小さな手のひらが俺の節くれだった手を包んだ。

剣を握り、訓練に励んだ手はゴツゴツとしている。


「この逞しい手は剣を必死に握ったのでしょう?あぁ、ペンだこも。勉強も頑張ったのですね。私には分かります。貴方は努力をしていると」


エリザベスはとても、優しい。

マルティーナは努力が足りないと嗤ったが、エリザベスは褒めてくれる。


両親や家庭教師でさえ、マルティーナの方が努力をしていると俺を否定したのに。


荒んだ心をエリザベスは癒してくれた。

俺が恋に落ちるのに、時間はかからなかった。


そして、エリザベスと恋仲になり、少し経った頃。

エリザベスをマルティーナが虐めていると噂が聞こえてきた。今更嫉妬など、傲慢にも程がある。

俺はもうマルティーナのものではない。


傷付いたエリザベスを支え、性悪のマルティーナをどう断罪するべきか、それだけを考えていた。


マルティーナの話を聞かず、エリザベスに真実を問わずに、自分が正しいのだと疑わなかった。


感想や誤字報告、評価、ブクマ、この場をお借りしてお礼申し上げます。

励みになっております!誠にありがとうございます!


そして毎度しょうもない後書きばっかりですみません!

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