思ったよりも深刻な事態と決意
本当に名に書けばいいのここ?3話です。
「発展の道?」
また声に出てた。
「はい。街の様子はご覧になられましたかな?」
「あまり時間がなかったけれど、少しだけ。活気があっていい街だと思ったよ」
「そうでしょう。しかしヒカル様、あの風景はかれこれ300年は全く変わっていないのですよ」
———はぁ?
「全くって……え?あの工房とかお店とか全部?」
「はい。古くなって建て替えたものもありますが、外観や店の配置、扱っている商品の種類までです」
「それってどういう……普通はもっと、こう新しいお店ができるとか」
「そのようなことは300年間一度も起こっておりません」
「それって……」
「お気づきになられましたかな?そうです。我らドワーフはかれこれ300年の間、何一つ発展していないのです」
300年。それはほんの20年も生きていないボクからすると、途方もない数字に感じてしまう。そんな長い時間の中で、一切発展していない?事態は本当に、思っていたより深刻らしかった。
「それじゃあ、今後の発展の見通しは?」
「ありません。本当に300年の間、その兆しすら見られなかったのです」
「そんな……それじゃあ」
「ええ、このままでは我らドワーフは衰退し、滅んでしまうでしょう。いえ、ドワーフだけではありません。他の妖精族も発展の兆しが見えないと聞きます」
「っていうことは……」
「はい。救世主ヒカル様、あなたには我ら精霊族を救っていただきたいのです」
まじかよ……
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———ともあれ、まずはこの妖精郷、我らドワーフの営みを知っていただくことからでしょう。お部屋をご用意させていただきますので、しばらくはこのウェスタリアの暮らしを見てください。
というわけで、今はゴルドとルリアに連れられてウェスタリアの街を適当にふらついている。太陽が真上より少し西にあるから、昼過ぎといったところだ。この世界でも太陽は東から登って西に沈むらしい。
「あちらが名工ゾルダの工房です。父上の部屋に飾ってあった剣を打ったウェスタリア一の鍛冶師です」
「ヒカル様、あちらの店はレイアの食堂です。あそこの食事はどれも絶品です。後で行ってみましょう」
「わかった。楽しみにしているよ」
「はい!特に鉱山鳥の卵でできたレイアの手作りプリンは頬が落ちるほどの……」
じゅるり、とルリアの口からよだれがこぼれる。そんなにおいしいのか……。
「この街の周囲は南側を除いて鉱山に囲まれています。豊富な鉱山資源を利用して発展してきた街でした。南側には広大な森林があり、獣も多く生息しています」
「なるほど。さっきから鍛冶屋もたくさんあるし、知れば知るほど鉱山の街だね」
「はい。鍛冶を得意とする我らドワーフにとっては理想の土地です」
自然も豊かだし、街並みもきれいだ。本当にここはドワーフにとっての理想郷なのだろう。ところで……
「人間はおろか、他の精霊族達ともほとんど交流していないんだったよね?どうして鍛冶製品を作る工房がこんなにあるんだい?」
「それは、我らの伝統と誇りを守るためです。魔力を込めて鉄を打ち、強く美しい魔法の武具を作ること。これこそが何千年も続くドワーフの生業であり、誇りなのです」
「なるほど、伝統を途絶えさせないために作り続けているんだね」
「はい。我らドワーフは伝統を重んじています。長く続く文化は宝であり、我らが生きた証となるのです」
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それから、この世界の常識について聞きながら街を散策した。この世界には魔法があること。精霊族はみんなそれぞれの種族に対応した魔法が得意な傾向があること。中でもドワーフは土系統の魔法が得意だということ。精霊郷は東西南北それぞれに異なる種族の精霊族が住んでいること。そして、精霊族は基本的に人間を恐れていること。
「人間が怖い、か」
精霊族が引きこもっている最大の原因は、考えるまでもなくこれだろう。大昔の戦争で感じた恐怖が、世代を超えてもなお引き継がれ、人間を恐ろしい存在として語り継いでいる。けれど、本当に人間がそんなに強いのだろうか?異世界の人間だから、僕の知ってる人間とは根本から違うとなるとどうしようもないけれど……。
「人族についても、いつかは見てみなきゃね」
まあ、今は関係のない人族について考えていても仕方ない。とりあえずはこの妖精郷、ひいてはドワーフたちについて知らないとね。
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それからしばらくの間、適当に散歩したり、街の人たちのお手伝いをしたりして過ごしていた。広場の子供たちとたまに遊んだりもしつつ、どうやらボクの体はドワーフの17歳相当らしい。生前と大して変わらない、いうことがわかったりもした。
……いや、なんというか、これ人間だと13歳ぐらいじゃないのか?言っても仕方がないけどさ。ちなみにドワーフの成人は15歳からだった。つまりお酒も飲める。ただ、現在は人族どころか他の種族とほとんど交流がないため、お酒はとても貴重品らしい。無いもんね、材料。
人族についても聞いてみた。曰く、ドワーフの男を超える怪力の持ち主がいるらしいとか、大戦後に1度だけサラマンダーの勇士が人族に挑んだが、見事に返り討ちに合って戻っただとか、精霊郷の結界を揺らすほどの力を持った人族も現れたことがあるらしいとか、いくらか誇張されているものもあるっぽいけど、大体は人族を恐れる内容の答えが返ってきた。……もしかして本当にこの世界の人間って化け物なの?
「なんだか、こうして過ごしていると本当に変わらない日々が続いているのがわかるなぁ」
そろそろ、街の外に出てみてもいいかもしれない。ウェスタリアの外のドワーフたちの生活や、他の精霊族達について知りたい。
なんとなく過ごしていく中で、知り合ったたくさんの人たち。みんな毎日を変わらずに過ごしていたけれど、確かに、変わらなすぎることに不安を感じ始めているらしかった。
まいった、ボクは自分で思っていたよりも、ドワーフたちのことを好きになっているらしい。何とかしたいと思い始めている。ボクに何ができるのかはわからない。だけれど……
「ボクにできることがあるなら、なんとかしたい。ドワーフ達の未来を、見つけられるかはわからないけれど」
———探すことくらいは、できるだろうから。
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「旅に出たい、ですか?」
ガルドが驚いた顔をしている。
「うん、この現状を何とかするためには、ドワーフだけの力じゃどうしようもないと思うんだ。だから、他の精霊族についても知りたくて」
「なるほど。ドワーフの族長としては口惜しい話ではありますが、ヒカル様のおっしゃる通りなのかもしれませんな……わかりました。そういうことでしたらゴルドとルリアの2人を供に付けます。二人とも優秀な人材です。必ずやヒカル様のお役に立つでしょう」
「いいのかい?」
「2人には私から話しておきます。きっと快くお話を受けてくれるでしょう」
「あの2人ならボクも心強いよ。ありがとう、ガルドさん」
「いえいえ、これくらいのことはさせていただかねば。そうと決まればヒカル様、旅立ちの準備を始めましょう。準備と、出発の前祝もしなくては……」
その後、ゴルドとルリアは二つ返事で了解してくれた。ガルドも含めた4人で旅の計画について話し合って、出発は1週間後になった。ウェスタリアを葉なれるのは少し不安ではあるけれど、それ以上にまだ見ぬ世界への期待が、僕の中で大きくなっていった。