英雄の頼み
バカ女兼変態魔術師であるラタは、クソ生意気なガキだ。
彼女のことは一応信頼できるし、背中を預けて戦ったこともある。
おそらく、親父にとってのタリラ様が俺にとってのラタなんだろうな。
性格的には嫌な女だが、頼りになる最高の仲間。
そう、彼女は俺の友であり仲間だ。
だから、耐えろ、今は耐えろ。
「それでお師匠様、現状はバルトロス大佐に会いにいく所です」
『なるほど……考えたな、ラタ。しかしどうやら……クックック』
「ど、どうかしましたか?」
『いやいや、バルトロスを説得するためにまずは息子からと考えたんだろうが……惚れてしまうとはなぁ』
だから俺とラタはそんな関係じゃありませんってば!
クソッ、この口を塞ぐ光の輪っかみたいなのが邪魔で喋れねぇ。
手足も完全に拘束されて……さらにこのバカ魔術師は俺の上に座ってやがる。
「ウネウネ動くな変態銃士! 貴方のせいでお師匠様がとんでもない勘違いをしてるんですよ、反省しろ!」
固いブーツの踵ぎ腹部に突き刺さる。
魔力でガードしてるとはいえ、この耐え難い屈辱……。
『こらこら、恋人にそんな扱いはやめろ』
「この変態はこれでいいんです!」
耐えろ耐えろ耐えろ!
タリラ様の前だぞ、あの大英勇タリラ様が見てるんだ。
彼女の弟子であるラタをここでボコボコにすれば、確実に良くない印象を持たれる。
今のままでも良くない印象を持たれているけれど、敵視されないだけ何倍かマシだろう。
『まぁバルトロスのことは任せるが、瑞希とルサンチマンにも連絡はしておけよ? 瑞希はブチギレてたし、ルサンチマンは連絡が取れないからってお前探して単身飛びだして行ったんだからな』
「瑞希とは話したくありません」
『あのなぁ……一応私の妹なんだけど』
「知りません! フン!」
タリラ様もラタには苦労してるんだ。
「そうですよ、お師匠様! この第二大陸でルサンチマンの魔力を感じたんですが、やっぱり来ているんですか!?」
『ああ、一応他の目的もあるんだが、ラタを探すと言ってそっちに行ったのは確かだ。最近連絡が無いからもう合流していると思っていたんだが、違うのか』
「まだ会ってはいませんけど……まずはルサンチマンを探します。今の私達には前衛が必要ですし」
『お前なら前衛がいなくてもやっていけるだろう? さては、寂しいな?』
ルサンチマンって誰なんだ?
最近色々と知らない人がいきなり会話で現れるから、もう誰が誰だかわからん。
少なくとも敵じゃないし、ラタの仲間で信頼できる前衛ってことは分かる。
そうなると剣士かな?
「ここに、ラエルの魔力を感じました。戦闘になることを考えると前衛は絶対に必要です」
また、ラエルだ。
探してると言っていたが、倒す相手だったのか。
俺は全く恨みも無いし、戦いたくないな。
『戦うな』
どうやってラエルとやらとの争いを避けようかと考えていると、タリラ様の声が響いた。
鋭く、低く、それでいて圧がある。
この声を直接聞いたら、意識を飛ばしてしまいそうになりそうな程の恐怖が含まれている。
「でもお師匠様はラエルの痕跡を探せと言いましたよね、瑞希に場合によっては殺せとも言ってました」
『言ったさ、だがお前には言ってない。私や瑞希ならともかくお前じゃ勝てないのはわかりきってる』
「私だって、お師匠様の役に立ちたいんです!」
魔王の影と戦う前にも、ラタはタリラ様の役に立ちたいと言っていた。
そうしなければ、まるで居場所が奪われるかのような恐怖に怯えながら、彼女は俺と共に戦ってくれた。
今の彼女は必死に言葉を放つが、タリラ様からはラタを見捨てるような……そんな悪意みたいなのは何一つない。
『ならラエルは瑞希に任せておけ、出会ったらどんな手を使ってでも逃げろ。これは命令だ、お前の反論や意見は一切認めない』
「お師匠様……私は、私はラタ·ルリラです。必ずお師匠様の役に立って……」
『ルサンチマンと合流し、バルトロスに接触しろ。これ以上は何もするな』
タリラ様がしているのは、ラタの心配だ。
ラタが勝てないのなら、俺も勝てないだろう。
それがわかりきっているのだから、親として戦わせたくないってのは普通の反応だ。
けれど、ラタはタリラ様を愛している。
愛する人に喜んでもらいたい、役に立ちたい。
その気持ちは痛い程理解できる。
『ルイサと言ったな、バルトロスの息子。ラタ、拘束を解いて離れろ』
「……はい」
ラタの拘束魔術が消え、彼女は俺の上から退いた。
とても悲しそうな表情をしていて、からかいにくい。
「はい……みっともない格好ですいませんでした」
『それはラタのせいだ。さて性格は最悪だが、ラタは私の娘のような存在だ。私が守ってやれない今、君しかラタを守れる奴はいない』
「タリラ様……」
『どうか、娘をよろしく頼む』
この人は、たいした英雄、いや親だ。
プライドもあるだろう、なのに俺みたいなガキに頭を下げてラタの安全を心から願っている。
母さんも、『ルー君が助かるなら、何でもするわよ』と言っていたんだから、それを実際に行動として見せる彼女は立派な母親だ。
「任せて下さい、タリラ様」
『男らしい態度だな、気入ったぞルイサ』
大英雄タリラ·ルリラ様。
第三大陸ダイボーナで悪魔の群れを単身で押さえ込み、さらに魔術を使う悪魔を殺し、悪しき転生者や降臨者を殺して回った人類の英雄。
そんな彼女に頼まれて、気に入られたんだ。
英雄バルトロスの息子として、俺は信頼に答えないといけない。
「ありがとうございます」
タリラ様が笑うと、画面は消えていった。




