君の太ももと胸を堪能する役得
レイア様の捜索隊に参加できることになった。
なったのはいいけれど……母さんは周囲の警戒として絶えず蛇を召喚し続けているし、博士は手のひらサイズのよくわからないアイテムとにらめっこを続けている。
ライフさんは探知のための魔術を殆ど知らないらしく、先頭に立って出会った悪魔を次々と倒している。
そんな、各々がしっかりと役割を持っている中で……俺の役割は少し変わっていた。
「……どうだ、ロス」
「うーん、ダメですね。この場所からは何も見つけられません」
「そっか。にしても……ロスって軽いよな」
「あの、ですね……ルイサ君の、私の太ももに当たる手つきが少し変な気がするんですけど。気のせいでしょうか」
俺は今、ロスを背負っている。
なんでも彼女は普通の"探知魔術"ではなく、かなり特殊な魔術を使っているらしく、使用中は身動きがとれないらしい。
そのため、俺が背負って母さん達についていく必要があるんだと。
しかし……捜索隊に参加してよかった!
こんなご褒美が待っているとは思わなかった!
「気のせいだ。俺は普通にしてる」
「太ももを撫でるように手を動かして、普通に歩いていると思ったらいきなり立ち止まって……私のその、む、胸が背中に当たるようにしているのに、ですか?」
バレてる……!
「……役得ってやつだ」
「ルイサのえっち。こんなの、普通の女の子にやったら絶対に嫌われちゃいますからね?」
「大丈夫、こんなのロスにしかしないよ」
「そういうことじゃないんですけどね……いつか苦労しますよ」
頭をポンポンと叩かれてもちっとも痛くない。
むしろ後ろでバタバタと動くたびに、ロスの匂いが広がっていく気がする。
銃と柔らかな花と、女の子特有の匂いが混ざったような……俺の頭をクラクラさせる大好きな、もとい罪深いソレが、いつもの数倍の近さからする。
「聞いているんですか!?」
「もちろん聞いてるって。ロスは可愛い女の子だもんな」
「全然聞いてないじゃないですか!」
しばらく"テイテオ"から西に進み、この大陸で一番大きな湖、"テココス湖"までやってきた。
ロスを堪能して、いや楽しんでいたせいで時間が経つのが早くて、空を見上げなくても暗くなっているのがわかる。
湖近くであり、ここから先は森林になっていく場所的な問題もあり、気温がガクッと下がったような気がした。
「あっ!」
博士が短い悲鳴のような声をあげた。
気になって博士を見るが、彼女の視線は手に持つ四角の小さなアイテムから離れない。
その白色のアイテムを見てみると、そこには俺には読めない赤色の文字が浮かんでいて、激しく点滅している。
「インチキ、見つけたの?」
「……いやでもおかしい、なんで」
「インチキ博士! 聞いてるの!?」
「うぇ!? う、うん。ここから北に進めば、"白銀"とレイア様がいると思う」
数日はかかると思っていたが、案外近くにいたんだな。
よし、これで神様を見つけて連れて帰れば……。
「よし、それじゃあさっさと神様を見つけて帰ろうぜ!」
「ルイサ君。目的まであと少しというタイミングは、一番人間が油断するタイミングでもある。そのような半端な気持ちなら、今すぐ捨てるんだ」
浮かれすぎて、ライフさんに怒られてしまった。
「すいません……」
「それで博士。何か心配事でもあるのなら、今ここで言ってくれるか?」
彼女は俺の頭を小突いた後、博士を見た。
「えーっと……」
彼女が話し始める直前。
何故か、首筋に冷たい物が張り付いたような気がした。
確かに日が落ちて肌寒くはなったけれど、こんなに変に冷たい風は吹いていないはずだ。
胸騒ぎが止まらない。
……なんだ、この悪寒のような感覚は。
博士はゆっくりと口を開いて。
「神様は、多分死にかけてる」
この大陸の人類を束ねる頂点。
なにより、親父がいない今、この大陸に残された最後の希望であるレイア様が死にかけているという、最悪の事態を口にした。
「レイア様が!? ……ッ!」
「どうする、シアコトル」
「助け出すのは決定よ。だけど、もしレイア様が負けるレベルの影だとすれば……レイア様を連れ出して逃げても、確実に追ってくる……わよね」
「ああ。そうなれば、この大陸は第二大陸のように人の存在しない大陸になるだろう」
例え、死にかけた神様を連れ出したとしても、"魔王の影"は俺達を追ってくる。
街まで追ってきた影と戦闘になって……いや、そもそも逃げきれるのか?
そして逃げきったとしても、その次は?
どうする。どうすればいい?
「だったら、ここで影を潰すしかありません」
迫り来る絶望に戸惑う俺とは違い、ロスは即座に答えを出した。
両手に白と黒の銃を握りながら、ライフさんや母さん達の横をすり抜けて先頭に立った彼女が、的確な指示を出す。
「博士はルイサと共に、神様の回収をして下さい。博士は可能な限りアイテムで全員の気配を消して……"不可視の技術"はまだ使えますよね?」
「……神様相手に使えるか分からないし、魔王相手に通用するか分からないけれど、やってみる」
「ルイサは神様と博士の二人を連れて、移動魔術……"テレポート"で街まで届けて下さい」
"テレポート"?
いや、だがアレは……余程の魔術師でもない限り、目視できる範囲に飛ぶのが限界のはずだ。
俺の質問がわかっているかのように、頭に浮かんだ疑問に対する回答をロスが口にする。
「連続で"テレポート"を使って、可能な限り早く街に神様を届けて下さい。終わったら私達に知らせて下さいね。じゃあ次に、ライフさんとシアコトルさんですけど……」
テレポートの連続使用で素早く運ぶ。
考えたこともなかったけれど……ん?
いや待て、これって……。
俺が早く神様を救出しないと、三人は戦い続けることになるってことだよな?
いくらいつかは倒さないといけない敵とはいえ、神様の手助けも無しで、"魔王の影"と戦い続けないといけない。
「ライフさんはいつもどおり、"白銀"は毒を持ちませんから殴っても大丈夫です。シアコトルさんは隠密しつつ毒をお願いします。効きにくいとはいえ、魔王に毒は有効です」
俺が遅れるたびに、母さんやライフさん。
そしてロスの命が、危険に晒される。
「了解した。シアコトルもそれでいいな?」
「大丈夫だけど……ロスちゃん、貴女……まるであの人みたいに指示を出すのね。言っておくけど、私だって毒以外のやり方で前衛戦闘はできるのよ」
「危険な場所には私が行きます。シアコトルさんに意識が向きそうになったら私が注意を引きますから、隠れて確実な毒攻撃をお願いします」
「最初はそうさせてもらうわよ。でも、二回目は流石に通用しないでしょうし……」
「ダメです!」
ロスは、強く母さんを見つめている。
まるで、自分の半身のように大切な人を見るように。
俺に対して向ける眼差しとは、明らかに違っていた。
そう、親父が時々見せていた、命を懸ける"覚悟"のこもった……そんな、強く悲壮な瞳をしている。
「貴女をケガさせてしまったら……私は、バルトロスに顔向けできません」
「大丈夫よ、貴女は知らないだろうけど、私って結構強いのよ?」
ロスは母さんに抱きついた。
母さんは少し驚きながらも、小さな体を受け止めて、頭を撫でている。
「命に替えても、貴女は守ります」
「大げさよ、いざとなったら私が逃がしてあげるわ」
「その役目は……貴女を守る人がする役目ですから」
母さんは笑っている。
だが、ロスは笑っていない。
そこには本物の覚悟が見てとれて、親父がそこにいるような安心感さえ伝わってくる。
俺はロスからカタストロフという悪魔を滅ぼす力を学んだし、彼女を守るという意思の力も授かった。
だがまだまだ、学ぶことは多そうだ。
俺が親父のように、いや親父を越えるためにはあの彼女すら越えないといけないのだから。




