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愛され聖女さまと、護衛騎士  作者: ざっきー


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危機一髪?


「……なぜ、ゴルバさんがこちらにいらっしゃるのですか?」


「ここは、うちの別宅だからな」


「私を……騙したんですか?」


「人聞きが悪いことを言うな。おまえと話がしたかったから、ちょっと家まで来てもらっただけだ」


(なるほど、物は言いようだね……)


 こちらは話すことなど何もない!と心の中で悪態をつく。

 以前、サラちゃんから言われた「ミサちゃんの周りって、結構変な人が寄ってくるよね?」の言葉が頭の中で何度もこだまする。

 聖女でも聖女じゃなくても、この状況が変わらないのはなぜ? 誰か理由を教えてほしい。


「それで、話とはなんでしょうか?」


 ずっと持っていた木箱が重いので、近くにあったテーブルの上に勝手に置かせてもらう。

 用件を早く済ませて、さっさと帰りたい。

 今日はまだ、ドーラさん特製の(まかな)い飯を食べていないのだ。


「あの騎士には気を付けろ。あいつは、おまえを狙っている」


「……はい?」


「貴族のくせにおまえに気があるから、俺の邪魔をしてくるんだ。あいつの魂胆(こんたん)はわかっている。どうせ、妾にでもするつもりだろうよ……」


 何を言い出すのかと思ったら、とんだ言いがかりだ。

 オーランドさんがそういう人でないことは、私がよくわかっている。

 彼は、第二騎士団の一員としての務めを果たしているだけだ。


「話がそれだけでしたら、私は失礼させていただきます」


 くだらない話に付き合っている暇はない。もう帰らないと、ドーラさんたちに心配をかけてしまう。

 入ってきた勝手口から出て行こうとした私の前に、ゴルバさんが立ちふさがった。


「待て! 話はまだ終わってな……」


 残念ながら、彼は最後まで言わせてもらえなかった。

 バン!と勝手口のドアが勢いよく開いたと思ったら、乱入してきた人物によってゴルバさんは投げ飛ばされ、そのまま気絶した。

 駆け込んできたのはオーランドさんだった。

 急いで走ってきたのだろうか、汗をかき息もあがっている。


「配達に出掛けたまま…戻ってこないと聞いて……」


「ご心配をおかけして、申し訳ありません」


 肩で息をしているオーランドさんに頭を下げる。

 額に流れる汗を拭いてもらおうと私はハンカチを差し出したが、彼はそれを受け取らず、変わりに手を引き私を抱き寄せた。


「無事でよかった……」


 私を抱きしめているオーランドさんの声は、少し震えていた。

 彼がどれほど心配してくれたのか、痛いほど伝わってくる。


「助けにきてくださってありがとうございました。私は大丈夫ですから……」


 オーランドさんから離れようとしたが、彼は私を離すどころかさらに腕に力を入れた。


「あの……オーランド様?」


「……あなたが好きだ」


 トクン!と心臓が跳ねた。


「初めて会った時から……ずっと好きだった」


 唐突に耳元で囁かれた言葉は、貴族らしからぬ真っすぐでストレートな愛の告白だった。


「もう、こんな思いをするのは嫌なんだ。私が全力であなたを守ると誓う。だから……結婚しよう」


 私の鼓動が、ドクンドクンと激しさを増してくる。

 以前どこかで聞いたことのある言葉がぽつりぽつりと紡がれる度に、私の鼓動は早鐘のように鳴り響く。

 それに気づかれたくない私は必死に身をよじるが、オーランドさんは離してくれない。


「……オーランド様、お戯れはおやめください」


 たとえ冗談だとしても、私の前でサミーにそんなことを言わないでほしい。


「戯れなどではない。私には、あなたしかいないんだ」


「私は平民です。公爵家のあなたとは、身分が違いすぎます」


 オーランドさんは、本気でサミーと結婚したいと思っているようだ。でも、彼女は実在しない人物。

 どんなに望まれようとも、彼の気持ちに答えることはできない。


「昨日、私は成人したが婚約者はいない。だから……」


「そういうことでしたら、私ではなく、どうか身分のつり合う方とご結婚を」


 あれほど結婚に消極的だった彼が前向きな気持ちになったのは、非常に喜ばしいことだと思う。

 でも、その相手がサミー()とは、何とも皮肉な話だ。


「…………」


 突然、私を包んでいた腕の力が抜けた。

 ようやく離してもらえたが、オーランドさんは無言で私の顔を覗き込んでいる。

 いつもの見目麗しいキラキラ笑顔が、今日は何だかやけに怖い。

 サミーが、結婚を断ったからだろうか。


(ちょっと、怒ってる?)


「あの……」


「私が成人するまでに婚約者ができなければ、責任を取ってくれる……」


「?」


「……というお約束でしたよね、ミサ様?」


「!?」


「私は婚約者ができませんでした。だから、約束通り私の婚約者になってください。そして、結婚しましょう!」


「ちょっと、待ってください……」


 早口で次々とまくし立てられて、軽くパニック状態になった。

 どうして正体がオーランドさんにバレているのか、理由がわからない。


「オーランドさん、私はサミーです。ミサと言う方ではありません! 人違いです!!」


 自分でも往生際が悪いなとは思う。

 それでも、ここは何とかごまかしたい。

 必死な私を見て、オーランドさんがハア……と深いため息を吐いた。


「……ミサ様、諦めてください。今すでに『オーランドさん』呼びに戻っていましたよ。あと、私は『サミー嬢』へは、公爵家の者だと一言も告げておりませんが?」


「そ、それは……セルゲイさんから聞いたんです!」


「ミ・サ・さ・ま……」


 オーランドさんの笑みが深まった。

 これは、彼が本気で怒っているときの顔だと私は知っている。


「・・・・・」


「無駄な悪足掻きは止めて、おとなしく幻影魔法も解除してください」


「……はい」


 心底呆れた顔で言われ、私はついに観念する。自分に手をかざし、久しぶりに元の姿に戻った。

 オーランドさんはまじまじと私の顔を見つめていたが、髪に目を留めると悲しげに目を伏せた。


「髪は……本当に切られたのですね。そうまでしても、お一人で行かれたかったと」


 痛々しい表情で、オーランドさんは私を見る。


「申し訳ございません。本当はミサ様のお気持ちを尊重して、静かに見守っていくつもりだったのです。……が、ミサ様は何かと危なっかしくて、黙って見ていられませんでした」


「謝らないでください。私こそ、いつも心配をかけてばかりでごめんなさい」


 私がペコッと頭を下げると、「あなたが無事であれば、私はそれで良いのです」とオーランドさんは微笑んだ。


「オーランドさんは、いつから私の正体に気づいていたんですか?」


「騎士団でお会いしたときに、もしやと思いました。そして、馬車のエスコートで確信しました。『この方は、ミサ様だ』と」


「えっ、そんな早くからですか?」


「私が、ミサ様に気づかないわけがありません。これまで、どれだけ貴女のことを見ていたと思っているんですか?」


 そういえば、そうだった。

 元々オーランドさんは、私を崇拝している変わり者だったのだ。


 ……でも


(そんなことを、そんな真顔で言わないで……怖いから!)


「……今回は、おとなしく村へ帰ります。私では一人旅は危険だと、痛感しましたから」


「では、私も護衛騎士に復職いたします。よろしいですね?」


「はい。また、よろしくお願いします」


 喜びを隠しきれないと言わんばかりにニコニコ顔のオーランドさんを見ていると、彼はこの仕事が本当に好きなんだとわかる。


「それにしても……オーランドさんは私がここにいるって、よくわかりましたね?」


「ミサ様が心配でしたので、我が家の護衛をつけておりました。私が食堂に着いてドーラさんから話を聞いていたときに知らせが入りましたので、慌てて駆けつけたのです」


 本当に何から何まで、オーランドさんには世話をかけてしまった。

 彼にこれ以上心配をかけないように、これからは重々気を付けようと思う。





 このあと、ゴルバさんはサミー監禁未遂事件の犯人として騎士団に引き渡された。


 私は食堂へ戻ろうと歩き出したが、オーランドさんに「大事な話がある」と引き留められる。

 用意された公爵家の馬車に乗ると、向かい側に座った彼は口を開いた。


「ミサ様、戻る前に先ほどの返事をいただきたいのですが……」


「返事……ですか?」


(えっと……何だっけ?)





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