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愛され聖女さまと、護衛騎士  作者: ざっきー


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とある男の回想(後編)


 ミサの様子を探るため、ボクはわざとケガをし神殿へやってきた。


 さすがにミサは神官ではないので、治癒室に彼女の姿はない……が、ある話が耳に入った。ミサがアルト村へ戻ったというのだ。

 家人を操って村での動向を調査させた結果、ミサは村の治療院で治癒士として働いていることが判明した。

 彼女はかなり腕の良い治癒士のようで、もうすでに村にはなくてはならない存在らしい。

 これでは、ミサを孤児院から引き取ることができない……そう落ち込みかけたところで、ふと思いついた。それなら、ミサを誘拐してしまえばよいのだと。


 ボクは時間をかけて計画を練った。

 もう失敗は許されない。絶対に成功させなければならない。


 数か月後、計画は実行された。

 他国の間者の仕業に見せかければ、皆はミサが国外へ連れていかれたと思うだろう。





 まさか、誘拐に失敗するなんて……報告を受けたときは耳を疑った。

 役立たずたちが言い訳をしているが、聞きたくなかった。

 おまけに、今回の騒動でミサに護衛騎士が付けられてしまうようで、踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。


 こうなったら最後の手段。

 ボクが治療院へ直接出向いて、ミサに掛けている魔法を発動させるしかない。

 今は警戒をされているから、(ほとぼ)りが冷めるまでボクはじっとその時を待っていた。


 そして三年後、満を持してボクは再びアルト村へ向かった。

 以前と比べると村はかなり発展しているようで、人の往来が盛んになっている。


 ミサと再会したら、まずは一緒にお茶をして話をしよう。

 そこで機会があれば、魔法を掛けて領地へ連れて帰るのだ。

 ところが、そんなボクの計画をまたしても邪魔するやつが現れた。王都へ繋がる街道に、突然魔物たちが出現したのだ。

 ボクはかすり傷程度で済んだが、瀕死の重傷を負っている者もいた。


 ミサとは、村の治療院で再会した。

 痩せていた体は幾分ふっくらとし背も伸びていた彼女は、人を惹き付ける魅力がさらに増しているように見える。

 ボクはミサが治療にやってくるのを待っていたが、彼女が真っ先に向かったのは平民のもとだった。

 その後も、聖女と呼ばれるに相応しい神々しさで、次々と患者たちを癒していく。

 聞けば、ここでは身分に関係なく患者の重症度で治療の順番が決まるのだとか。

 高位貴族であるボクが一番最後だったのは気に入らないが、ミサに会えたので溜飲(りゅういん)を下げる。


「大変お待たせしました。それでは、治療しますね」


 にこやかに微笑んだミサが患部に手をかざすと、傷はあっという間に消えてなくなった。

 これだけ大勢の患者を治癒したあとでも、ミサの魔力にはまだ余裕があるように見える。


(神殿の神官より、ミサのほうが遥かに腕が良いとは……)


 治癒士としての実力を目の当たりにし、ボクは危機感を覚えた。

 ミサのことが王都へ知れ渡るのも時間の問題。早くしなければ、他の貴族に先を越されてしまうかもしれない。


「ミサ、君とまた会えて嬉しいよ。久しぶりに話をしたいんだが、今度お茶でもどうかな?」


「……以前も治療をさせていただいた方でしょうか? 申し訳ありませんが、このような状況下ですので」


 ボクはずっとミサを想っていたのに、ミサはボクのことを全く覚えていなかった。

 宝石のようだと称えてくれたボクの瞳を困惑した表情で見つめ返した彼女は、頭を下げると去っていった。

 あまりにも呆気なく、ボクたちの再会の時間は終わってしまったのだ。


 宿に戻ったあとも、ミサの素っ気ない態度が思い出され悲しくなる。

 たしかに、万が一に備えておまじない(魔法)は掛けていたが、たった三年で本当に忘れられるとは思ってもいなかった。



 その後、予定通りに魔法を発動させようと機会を窺っていたが、なかなか二人きりになれない。

 常にミサの傍には護衛騎士がいて、彼がしっかりと守っている。

 そうこうしているうちに、ミサが再生魔法で魔力を使い果たし意識を失って倒れ、ボクの計画はまたしても頓挫したのだった。





 ミサと出会ってから十年。ついに好機が訪れた。


 護衛騎士になれなかったラムザートが、何か良からぬ計画を立てているらしい。

 アイツが護衛騎士になればミサと接触できる機会が増えると期待して黙認していたのに、ホント役に立たないやつだと呆れていたら、身の程知らずにもミサを娶ると言い出した。

 ボクのミサに横恋慕するなと憤りアイツにも魔法を掛けてやったが、ふと冷静になって考えてみた。

 このままラムザートを(おとり)にすれば、今度こそミサがボクのものになるのではないか。


 聖女のお披露目パーティーがあると聞き、ラムザートの従者として潜入した。

 誰よりも光り輝きとても美しく成長していたミサをエスコートしていたのは、護衛騎士であるオーランド君。彼はミサに近づこうとする(やから)から、彼女をしっかりと守っていた。

 初めは緊張した面持ちだったミサも、徐々に会場の雰囲気に慣れてきたのか、時折笑顔を見せるようになっていた。

 そんなミサに目を細めつつ眺めていたが、二人が楽しそうにダンスを踊っている姿には怒りの感情を抑えるのが大変だった。


 舞踏会でミサとの接触が一切できなかったラムザートがお見合いパーティーへ参加するので、離宮の隠し通路のことをそれとなく教えてやった。

 あれは昔、王子殿下主催のお茶会のときに一人で離宮を散歩していたボクが、たまたま入った空き部屋で見つけたものだ。

 古い柱時計を観察していて偶然見つけたものが、今ごろになって役立つときが来るとは思いもしなかったが。


 こうして、ラムザートは侍女と大男を魔法で操ってミサを誘拐することに成功し、ボクはそのラムザートを誘拐犯として騎士団へ突き出した。


 十年の時を経て、ボクはようやくミサを手に入れることができたのだ。





 ミサは、相変わらずずっと眠っている。

 でも、起きていたとしても、ボクが彼女の声を聞くことはない。

 父や弟、従者らとは術を掛けた状態でも会話はできるのに、なぜかミサとは話をすることができないのだ。

 十年前に軽く掛けた魔法を再構築して掛け直したのがダメだったのか、それとも他に原因があるのか、理由はわからない。


 いつの間にか、外は夕暮れになっていた。

 さっき夕食の支度が整ったと執事が呼びに来たけど、ミサは起きそうにないから今日も一人で食事を取ることになりそうだ。


 握りしめていたミサの手を離し額に口付けをしようとした時、彼女の口が微かに動いた。


「…ンドさん」


「………」


 決して聞き間違いなどではない。

 ボクには、はっきりと聞き取れた。


「ハハハ……まさかとは思ったけど、そういうことなんだ」


 いつもは冷静なボクの体が震えている。

 怒りと失望、そして……激しい嫉妬。感情が黒く塗りつぶされていく。


「……許せない」


 日が暮れた薄暗い部屋の中に、ボクの声だけが響いていた。





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