来訪者×2
「だから、そのやり方ではダメだ!」
「何を言っているの? こちらの方が効率がいいのよ! そんなことも知らない新参者は黙ってて!!」
「君こそ、もっと他人の意見に耳を傾けた方がいいと思うぞ。聖女様を見習って、柔軟に対応……」
「あ~もう! 毎日毎日『聖女様!』『聖女様!』って、うるさい!! ミサちゃんは私の自主性に任せてくれるんだから、いいじゃないの!」
「また『ミサちゃん』って呼んでいる……前々から思っていたが、聖女様に対して不敬すぎる!」
「まあまあ……二人とも、ちょっと落ち着いたらどうかね? まずは、お茶でも飲んで……」
「「スティーブンさんは、少し黙ってて!!」」
(あの三人、またやっているな……)
治療院の前にやってきた私は、オーランドさんと顔を見合わせる。
少しの間待っていたが、騒動が収まる気配はない。
「……ミサ様、私が止めに入りましょうか?」
「いえ、あれは別にケンカをしているわけではなく、意見を闘わせているだけだと思いますから……しばらく放っておきましょう!」
おずおずと申し出たオーランドさんへ首を横に振ると、私はくるりと踵を返し孤児院へ戻ることにした。
治療院が前以上に賑やかになったのは、私が王都から無事に戻り、ようやく孤児院が落ち着いた一週間前のことだった。
◇
「私は、聖女様に大変感銘を受けました。是非とも貴女様のもとで働かせていただきたいと思い、こちらにやって参りました」
私の目の前に座っているグレド様が、キリっとした表情で仰った。
「あの…グレド様、神殿のお仕事の方は……」
グレド様は、神殿の神官長という要職に就いておられる方だ。
そちらは、どうするのだろうか。
「私に様付けはいりませんよ、聖女様。それと、神殿は辞して参りましたので、問題はございません」
「……えっ、神官長を辞められたのですか?」
「はい、あんな名ばかりの役職に未練はございません。それに、大神官様も喜んで送り出してくださいました」
「そう……ですか」
グレド様は嬉々としてこの田舎町にやってきただけでなく、ちゃっかりキーファー様から推薦状まで貰ってきていたのだ。
ここまでされてしまったら王都へお帰りいただくわけにもいかず、私はマーサ先生と相談の上、グレド様を受け入れることにした。
グレド様に働いていただく場所はここしかない!というわけで、さっそく治療院へ案内しサラちゃんと引き合わせたが、彼が王都の神殿から来た神官だと知るとサラちゃんは警戒感をあらわにした。
「絶対、神殿からの間者だ!」と主張するサラちゃんに対し、グレド様は冷静だった。
「疑われるのは当然のことで、その疑惑をこれからの行動で晴らしていきたい」と静かに仰ったのだ。
結局、渋々ながらもサラちゃんは納得し、とりあえずは二人の相性も含めて様子を見ることにした。
毎日あんな感じで言い合いをしているが、まだ平民患者への対応が微妙なグレド様を文句を言いつつもフォローしているサラちゃん。
魔力量が自分よりも少ないサラちゃんを気遣って、きちんと休憩が取れるよう陰で調整しているグレド様。
其々にお互いの不足分を補っているようなので、なかなか良いコンビなのではないかと思う。
グレド様は伯爵家の三男。
家の跡取りでもそのスペアでもないため、ご自身の希望であった神官になったそう。
年齢は二十六歳で独身。婚約者はおらず、そもそも結婚する気もないようだ。
私やオーランドさん、サラちゃんも含めて、結婚願望のない人間がここに集まってきているような気がする。
(ここが、独身男女の巣窟になったらどうしよう?)
これが社会の縮図だとしたら、このままでは近い将来、前世の日本のようにこの国も少子高齢化となってしまうのではないだろうか。
私は本気で心配をしている。
◇
孤児院の庭へまわると、薪割りをしている人がいた。
その人物を見かけるとオーランドさんがすかさず私の前へ出てくる、これも日常風景になりつつあった。
「ミサ、おはよう!」
「おはようございます、レイさん。いつもお手伝いありがとうございます」
王都から来たのは、グレド様だけではなかった。
私が神殿で治療した患者……レイさんたちも、なぜか村にやって来たのだ。
「……ミサ様を呼び捨てとは、不敬ですよ?」
「俺だけでなく、皆呼んでいるだろう!」
レイさんはフン!と鼻をならすと、オーランドさんを見てニヤリと笑った。
その挑戦的な顔つきに、オーランドさんの表情も段々険しくなる。
「悔しかったら、あなたさまも『ミサ』と呼んでみたらどうですか? ご・え・い・き・し・さ・ま……」
「……やはり、あなたとは一度きっちりと決着をつけたほうが良さそうですね」
(カチャっと鞘から剣を抜く音が聞こえたけど、オーランドさん危ないのですぐに戻してください!)
「お望みとあらば、いつでも受けて立つぜ!」
(両手の拳と拳を体の前でゴンゴンぶつけているレイさん、手を痛めても今度は治療しませんよ!)
「はい、そこまで!」
はあ……と盛大なため息しか出ない。
なぜ、この二人は顔を合わせる度に、いつもこうなってしまうのだろうか。
先日サラちゃんに「ミサちゃんの周りって、結構変な人が寄ってくるよね?」と真顔で言われてしまった。
私としては全力で否定したいけれど、今の現状を見る限りそれを否定できない自分がいる。
◇
三日前、レイさんたちは幌馬車に王都からの患者さんたちを乗せてやってきた。
お金がなく神殿で治療ができない人たちのために、村までの馬車を自腹で手配したそうだ。
神殿で使わなかったお金を、病気やケガで困っている人たちのために使うのだという。
王都で私を捜していたというレイさんは、知り合いの冒険者からこの村の話を聞き、治癒士である私の容姿を知り確信したらしい。
ちなみに、レイさんの知り合いの冒険者とは、剣術指導大会に参加していたあの二人組なんだとか。
この世界でも、意外に世間は狭いなと感じた。
「レイさんたちが王都へ戻られるのは、明日でしたか?」
「そうだ。でも、その前に大事な話があって、ここでミサを待っていたんだ」
そう言うとレイさんは姿勢を正し、真っすぐに私を見据えた。
「ミサ……俺と、結婚してほしい」
「……はい?」
「君は十七歳で、もう成人していると聞いた。俺は二十一歳で、こう見えてAランクの冒険者だ。いずれはSランクになるつもりだし、ミサに苦労はさせない。結婚したら俺がこの村へ移住するから、今の仕事は続けてもらってかまわない」
「…………」
(何の前触れもなくいきなり言われたけど、これってプロポーズ……えっ!?)
「あの、なぜ私なのでしょうか? お会いしたのも、まだほんの数回だと思いますが……」
「回数は問題じゃない。最初の一回で、俺は運命を感じたんだ。だから、真面目に考えてくれないか?」
レイさんの顔は真剣で、とても冗談を言っているようには見えない。
私が返答に困っていると、隣から禍々しいオーラを感じた。
「……残念ですが、ミサ様には先約がございます。ですから、あなたの申し出は受けられません」
「何だ、先約って?」
「私が成人するまでに婚約者ができなければ、ミサ様が責任を取ってくださる約束です。期限はあと半年ほどですが、おそらくは難しいかと……」
本当なのか?と訝しげに見てくるレイさんに、私はコクリと頷く。
「なんとなく成り行きで、そんな話になってまして……」
私自身も何でこんなことになっているのか、いまいち理解していないのだ。
「じゃあ、おまえはとっとと婚約でも結婚でもしろ!」
「私もそうしたいのは山々ですが、このような仕事をしている内はまず出会いもありませんので……残念です」
オーランドさんは大きなため息を吐いて、さも仕方がないですね……風を装っているが、あの顔に騙されてはいけない。
彼はそもそも結婚する気がない。仕事に託けて、ずるずると結婚を先延ばしにする気満々なのだ。
「……事情はわかったが、俺は諦めない。お貴族さまの都合なんて、平民の俺たちには関係ないからな。それに、要はミサに俺のことを好きになってもらえばいいだけの話だ!」
また来ると言い残し去っていく背中を、私は黙って見送った。




