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07話 ギルドマスター

 ミュッセとの戦いに勝利したリュウは、ギルド本部二階のとある一室に連れられた。

 リュウとリーナが部屋に入ると、そこには立派な顎髭を生やした初老の男性が二人のことを待っていた。

 その男性は二人のことを見るなり、両手を広げ、歓迎の意を示す。


「やあ、待っていたよ。リュウ君、それに後ろにいるのはリーナ君だね。私はゼーデル・カルヴァン。このギルド本部の統括責任者だ」


 人当たりの良い挨拶にリュウとリーナもそれぞれ簡単に頭を下げる。

 ゼーデルが勧めるままに、二人は木製の椅子に腰をかけた。


「さて、先ほどの戦いは見させてもらったよ。いやはや驚いた。まさか君が本当にあの『(ルミナス)の双璧』の一人だったとは」


 この部屋はギルド本部の正面側に面している。

 どうやらゼーデルはさきほどの戦いの様子を窓から見ていたようだ。

 あまり長時間拘束されたくはないと思い、リュウは先に釘を刺す。


「世間話ならまた今度にしてほしいんだが」


「なに、君たちが受けようとしていた依頼の件なら私の権限で特例として認めよう。その代わりと言ってはなんだが、君が先ほど見せた竜の力について私は知りたい」


 ゼーデルの言葉を聞いて、リュウの顔色が変わった。

 リュウがミュッセとの戦いで使った竜の力はほんの一瞬だ。それは対峙している者にしか分からないほどの刹那で、実際まわりを囲んでいたギャラリーにそれに気付いた者はいないようだった。

 だが、ゼーデルはその一瞬で見抜いたのだ。やはりギルドの統括者と言うだけあって、相当の実力者でもあるのだろう。


「良い眼をしてるな」


 リュウの賞賛に、ゼーデルは窓際に移動すると、どこか遠くを見るように語り出す。


「我々の世界を創造した三柱の神々、女神ミリア、魔神ラプラス 、そして竜神ネガ。この三柱が世界の覇権を巡って争ったときに最も恐れられていた一族、それが竜族だ。彼らは竜神からその力の一部を与えられ、何ものをも切り裂く鋭い爪に、何ものをも通さぬ強靭な鱗を持っていたと言われている。そんな彼らも千年前の戦いで女神と人族に敗れ、その生き残りはばらばらに散っていった。……君は、竜族の生き残りなのか」


 ゼーデルが語るのは、この国に住むものなら誰でも知る歴史だ。

 千年前、女神ミリアは世界を我が物にしようとした魔神ラプラス、竜神ネガと戦い、これらを封印することに成功した。

 魔神が率いた魔族は、莫大なマナを有し、強力な魔法や今では失われた術を使用したとされる。

 竜神が率いた竜族は、どんな鉱石よりも硬いと言われる爪と鱗を有していたとされる。さらに竜神は水神とも呼ばれ、海を操り、今の大陸の半分を沈められたとも伝えられている。

 どこまで本当なのかはわからないが、その伝承により、竜は破滅の象徴とも言われているのだ。

 故に竜族は戦いから千年経った現在でも、世界の脅威として警戒されている。もっとも、人族や魔族に比べてその数は非常に少ないと言われており、そもそも遭遇すること自体が稀ではあるが。

 リュウが使ったのは、そんな竜の力だった。

 背中を向けたままのゼーデルにリュウは言う。


「俺は竜族じゃない。訳あって竜の力を与えられただけだ」


 ゼーデルは視線だけをリュウへと向け、値踏みするようにその表情をじっと見つめた。


「……そうか。ならば質問を変えよう。君はその力を使って、何を成すつもりだ」


 リュウたちを迎え入れたときの柔らかな態度とは一転して、その瞳には鋭い光が宿っている。迂闊なことを言えば、即座に斬られるのではないかというそんなプレッシャーだ。

 リュウはそんな瞳をまっすぐと見つめ返した。


「俺は、年々活性化を続ける魔獣の脅威から人々を守りたい。そのためにこの力を捧げるつもりだ」


「……魔獣の脅威、か」


 意味深につぶやくゼーデルにリュウは「どういう意味だ?」と声をかけるが、返事は返ってこない。

 沈黙が部屋を満たす。

 それから何かを思案し終えたようにゼーデルは一息つくと、口を開いた。


「ともあれ君が世界を脅かす存在でないことはわかった。……いいだろう、ギルドは君を歓迎する。君が本当に人々を守りたいというのなら、きっとここでしか見えないものもあるだろう。……かつての私のように」


「それはどういう――」


 リュウが問いかけようとするが、ゼーデルは窓の外へと視線をやり、これ以上の会話の意思はないことを示す。

 どこからかそれを察知したのか、ギルドの職員が部屋の扉をノックし、外に出るように促してくる。


――この男ともいつかまた話すことになりそうだ。


 リュウはそう直感し、部屋を後にした。


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