スタンピードの仕組み
099
ドラゴンに包囲され、奮戦したつもりだったんだけど、やはり最期のときはきた。
僕は腹を割かれて倒れる。
だが、その瞬間、あたたかいものに包まれた。
癒やされる。
癒やされる。
癒やされる。
もしパラメーターというものがあって、それが可視化されていたら、真っ赤に染まりミリしか残っていなかった僕のHPがいま100%に戻ったとわかるだろう。
「なんだ、これは?」
死にかけていたキングがピンピンしていて、不思議そうに自分の全身を上から下まで舐めるように見ている。
「なんだといえば聖女の力だな。さて、キング。いまの俺たちにはこの世界で最高のヒーラーがついているんだ、どんな怪我でもすぐに治る。ただし、即死はするなよ、死者を生き返らせる魔法はないんだよ」
「普通だったらヌルい条件だが、ドラゴン相手に即死不可かよ。まあ、なんとかするが」
「頼りにしてるぜ」
突撃しようとしたところに「伏せて!」とフェヘールの声が聞こえてきた。
とっさに指示通り地面に体を投げ出すと、僕の上を爆炎が通り過ぎていく。
振り返って出元を確認すると、フェヘールがアペフチの背に乗っているのが見えた。
どうやらアペフチがブレスで援護してくれたようだけど……エンシェントまではいかなくても、歳を経た古いドラゴンのブレスは即死確定だから!
戦力としては、ありがたいけど。
振り返って確認してみると、フェヘールとアペフチと……大軍を引き連れている。
なぜなのかわからないのだがスタンピードで暴走中の魔獣が回れ右して、わざわざ引き返してきたのだ。
つまり僕たちは古いドラゴンと世界最高のヒーラーを仲間にくわえたかわりに、前にドラゴンの群れ、後ろから大量の魔獣に挟まれてしまった。
「これ、どうする?」
キングが戸惑った声を出すが、オーダーがかわるわけがない。
「アーガスの首以外はどうでもいい」
「なるほど、それはそうだ」
「いくぞ!」
ドラゴンにボロボロにされて、フェヘールに回復してもらい、またドラゴンにボロボロにされて、フェヘールが回復して……という拷問のようなループが延々と続くことを覚悟しながら前へ出たが、そこに立ち塞がっているアーガスにテイムされたドラゴンたちは僕たちに一瞥もあたえない。
全頭がアペフチに釘付けになっている。
どういうことだ?
いや、考えるのは後。
いまはこのチャンスを生かすことに全力を尽くす!
「うおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっーーーーーーーーーーーー」
一気にアーガスのところまで駆ける。
ハゴロモを頭上高く振りかぶった。
天才魔法士であっても、まったく想定外のことがあれば思考停止するらしい――テイムした50頭ものドラゴンに囲まれて、護衛されていれば事実上無敵だし、なんの危険もないはずなのだから。
ところが、いま目の前にアダマントの剣が迫っているのだ。
魔法を使うこともできず、ただ反射的に右腕で頭をかばうが、僕はそのまま全力でハゴロモを振り下ろした。
バシッと破裂するような音がして、アーガスは悲鳴を上げてのたうちまわる。
肘の少し先あたりの皮膚が裂け、骨が砕けたようだ。
この調子で左の腕も破壊し、次は右足、左足と痛めつけてやりたいところだけど、いつドラゴンがアペフチから僕たちのほうにヘイトを向けてくるかわかったものではない。
ここは早めに殺しておくのがベスト。
そう考えて剣を引き、胸でも突いてやろうとしていたら、自分を殺してもスタンピードは終わらないとアーガスが叫んだ。
「俺が起こしたわけじゃないから、せいぜいドラゴンのテイムが切れるだけだ」
「どういうことだ?」
「教えてやってもいいけど、な?」
「……わかった。命だけはとらないでおいてやる」
「誓うか?」
「ああ、誓う、誓う。神様にでも誓えばいいのか?」
信心深くない僕の言葉が浅すぎて、軽く感じられたのかアーガスはしばらく考えてハゴロモに目をとめた。
「剣に誓え。おまえは剣士なんだから一番信じているのは剣だろう?」
「わかった。この剣に誓おう」
ハゴロモをくるくるまわして鞘に戻す――おいおい、僕はVRMMORPGの出身なんだぞ、アイテムなんて突き詰めていけばデジタルデータだろうに。
0と1の電気信号に誓って、で、なに?
誓いを破ったら罰でもあるのかな?
電撃ビリビリとか。
まさか!
しかし、アーガスは僕が腹の中で笑っているのに気づかないようで、引きつって歪んだ顔がほぐれてきて、あきらかに安堵した表情になった。
「おい、僕の気が変わらないうちに、さっさとしゃべるんだ」
「指の2、3本も切り落したほうが舌も滑らかになるんじゃないか? オレは死なない程度に手加減して斬るのも得意だぞ」
いつの間にか隣にいたキングが物騒な提案をしてくる。
アーガスの顔がピクリと歪む。
「エイン・ヘリアルだ、あいつがスタンピードを引き起こしたんだから」
「そんなことは知っているから、小銭の価値すらないし、その首の大金には全然足りないぞ」
「魔法の術式を説明すると、まず最初は魔獣からすると強い魅力を感じる魔法薬を作るんだ。その材料の1つに人肉がある。つまり人肉以外の材料を集めて、自らの体を魔法薬に変えてしまうわけだ。それで魔獣にとっては魅力的な存在になれる。まあ、ドラゴンみたいなレベルの高い魔獣だと完全には効かないから呪術で脳の機能を落として、思考能力を奪ったりしなければならないが」
「だが、それでドラゴンをテイムできるとしても、ヘリアルは死んでるし、すでにアペフチもテイム状態ではない。」
「そう。問題はヘリアルは死んだ。つまりは人肉になったわけだから、魔獣が逆らえなくなるほど魅力的な魔法士から、ただ魔獣を魅了するだけの魔法薬になってしまったわけだ。で、それがあそこにある。違うか?」
推測だがと前置きしてアーガスはヘリアルの死体をアペフチが食べたのではないかと言った。
この魔獣がアペフチにたかる状況からすれば無理もない推測だし、実際それは当たっている。
「すごい美味い魔獣専用のエサみたいだな」
「魔獣なんて原始的な欲求くらいしか感じないんだから、食欲や性欲みたいなものを刺激するしかないだろう。だから、エサでも間違ってはいないが、これだけ広範囲に影響するところからフェロモン的なものだと俺は思うがね」
「つまり、このスタンピードの進む先はヘリアルでマーキングしているわけだな?」
「そういうことだ」
「嘘だったら殺すからな。それも、かなり苦しい死にかたになる」
「嘘なんかじゃない」
アーガスは断固として言い張る。
まったく往生際が悪い奴だな。
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