アーガスの首をとる
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いままで黙って話を聞いていたキングが口を挟んできた。
「なあ、クリート。たしか『トリディアーノ・レコード』のサブクエにそんなのなかったか?」
そう言われて思い出した。
資金や経験値稼ぎとか、レアアイテムがもらえるとか、ゲーム世界の雰囲気作りのためだとか、さまざまな理由でメインストーリーとは直接関係ないクエストが設定されているゲームも結構あって、改めて考えてみると『トリディアーノ・レコード』に自分の身を捧げてスタンピードを引き起こした魔法使いが出てくるサブクエストがあったはず。
「ああ『トリディアーノ・レコード』か……懐かしい名前だな」
「おまえもやっていたのか? まあ、さぞかし有名プレイヤーの魔法使いだったんだろうな」
「あのクエは剣士が請けるとスタンピードの防衛戦に参加して街を守り切ると報酬がもらえる上に、街での信用も上がるからアイテムが安く買えたり、食事や宿屋が安くなるわけだが、魔法使いが請けるとボーナスとして魔法の術式を知ることもできるはず」
僕の剣技と同じく、こいつも苦労してゲームの中の魔法を再現したのね。
そのこと自体は素直に賞賛するが――ジャンルは違っても同じようなことをしている僕にはその大変さがわかるから。
だけど、その成果を国を潰す陰謀とか、街を滅ぼそうとしたり、ろくなことに使おうとするのはいただけない。
同じ前世持ちで、ひょっとしたら仲のいい友人になれたかもしれないけど。
例えば同じ国に生まれ、幼少期に出会っていれば、もっとお互いに幸福な世界線に辿り着いたかも。
だけど、そうはならなかった。
それは残念に思うが、どうにもならないことでもある。
ここは、きっちり殺しておこう。
僕が剣を握り直すと、アーガスはギョッと目を剥いた。
「おい、命は助けるという約束だったろう?」
「すまん、あれは嘘だ」
「なんだと!」
「だから、嘘をついたことは謝るよ」
「謝って済む問題じゃないだろう!」
「そうか? 嘘をついただけだぜ? 謝るから、許してくれよな」
「殺そうとしているのに謝って許せるわけないだろう!」
「それは嘘じゃない。本当のことだから謝らないぞ!」
だが、僕の剣をブチ込む直前、いきなりアーガスが倒れた。
それを見てキングが不審な顔を向けてくる。
「なんだ? いまのも剣技か? 見たことない技だが……」
「いや、違う。勝手に倒れたんだ」
「でも、こいつ死んでるぞ」
キングはわざわざ倒れているアーガスの手首と首筋で脈をみて、さらに胸に耳を当てて心臓の鼓動を確かめる。
生命反応は皆無だが、本当に僕がなにかしたわけではない。
そもそも刃先が触れずに相手を殺せるのなら、それは剣技ではなく魔法に近いと思う――まあ、ゲームによっては剣から炎や雷を出して敵にダメージをあたえるものもあるけど、僕からするとそんなのは剣を杖のかわりにしてるだけ。
やっぱり自分の手足を使って戦わないとね。
「見ろよキング、斬った痕がないだろう?」
「ないな。だが死んでいる」
「即死する魔法を自分にかけたんじゃないの? 自殺だ、自殺。そんなことより二度と復活しないように首を落とそう」
「そこらへんに放り出しておけば魔獣が食うだろ」
「上手く説明できないんだけど、こういうときにはちゃんと自分の手を汚すことにしてるんだよ、僕は」
自分なりに格好をつけたつもりだったんだけど――持ってる剣を考えるべきだった。
ハゴロモでの断首は半分叩き潰するような形になって、すごく悲惨な死体ができあがる。
僕のやったことだけど、ちょっと引く。
キングはもっと引いてて「こいつサイコ?」みたいな目で見られた。
血の臭いに魔獣が寄ってくる。
「いくぞ」
アペフチのところへ急ぐ。
途中の魔獣たちはドラゴンも含めて、こっちを完全に無視してくれるから簡単だ。
終わった、とフェヘールに声をかけたけど、変な顔をされただけだった。
「ぜんぜん終わってないじゃない」
まあ、アペフチのまわりは地獄絵図だから。
スタンピードで溢れた魔獣がみんなアペフチのところに集まっている。
「どういう魔法か原理は知らないけど、魔獣はエイン・ヘリアルに惹きつけられているらしい。アペフチの腹の中のものを捨てれば、そこに魔獣が集まるから……街から離れてて、できれば魔獣を自動で駆除できるような場所は知らないか?」
「魔獣を自動で駆除できる便利な場所なんて世界のどこにも存在しないわ」
「火山の火口とか」
「ああ、なるほど……確かに魔獣が自分から火山に投身自殺してくれれば自動で駆逐できるね」
「どこかにないか?」
「このへんに活火山はないんだよねぇ……あっ! でも大穴があった。あの中に落としてやろう。アペフチ、大穴は知ってる?」
「人族のつけた名所は知らぬが、どこ場所のことを言っているかはわかる」
「そこにエイン・ヘリアルを捨てれば魔獣はみんなそっちにいっちゃうみたい」
「ヘリアルは我の獲物だぞ。誰にもやらん」
「だけど、このままずっと何万もの魔獣と戦い続けるわけにもいかないでしょう?」
「我は負けぬ」
フェヘールヲ背に乗せたり、一緒に戦うのはよくても、エイン・ヘリアルを手放すのは嫌らしい。
僕も説得の言葉を探す。
「ヘリアルを糞にすると言ってたじゃないか。糞を溜め込んでもしょうがないだろう?」
「まあ、それはそうだが……」
「つまらん雑魚と延々と戦い続けるのもダルいだろうし」
「それもそうだ」
「その大穴ってところに落としてやればいいじゃないか。こんな雑魚はアペフチがわざわざ相手してやることもないだろう?」
「しかたない」
しぶしぶアペフチは折れて大穴にエイン・ヘリアル――かつてエイン・ヘリアルだった残りカスを捨てることに同意した。
「僕たちも乗せてくれるか?」
さっそく飛び立とうとしているアペフチにお願いして、僕とキングも背中に乗せてもらった。
最初から関わってきたから、決着も見たかったんだよな。
まあ、その決着というものはあっさりしたものだったけど。
フェヘールの言う大穴というのは深い森の奥にぽっかりと開いたものだったけど、直径は数百メートルくらいで思ったよりは小さい。
メレデクヘーギ山脈のスケールで考える大穴という表現だと何キロもありそうなんだけどね。
ただ全周が切り立ってた崖になっていて、底はまったく見えない。
巨大な地震でもあったのかな?
アペフチがポトッとお尻からエイン・ヘリアルを廃棄すると、しばらくして追いついてきたドラゴンなど飛行型の魔獣が飛び込んでいき、さらに森を踏み越えてきた魔獣の集団がどんどん大穴に落ちていく。
ひたすら魔獣が落下していくシュールな光景が延々と続くが、数百メートルの穴に何万頭の魔獣がひしめくわけだから、最初のうちに落ちた魔獣はどんな強い個体だったとしても圧死しているだろう。
それを想像すると、このスタンピードでのもっとも地獄な状況が脳裏に浮かぶ。
評価、ブクマありがとうございました!
おかげさまで100話目まで書きすすめることができました。大変感謝しています。
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