嬉しくもない再会だってある
079
コチシュ隊長みたいに上手な指揮はとれないけど、方陣の最後尾に盾持ちを集めてワイバーンの追撃をかわしつつ、キナさんに教えてもらったダンジョンを目指す。
「王子、あれぢゃ!」
キナさんが人差し指を突き出した。
もう100メートルもないところに、ぽっかりと穴が開いていた。
ダンジョンというから崖のようなところから洞窟のように横穴が開いているのかと想像していたが、そうではなくて、ただ平たい山肌に穴があるのだ。
直径にして10メートル以上はあるだろうか。
朽ちたハシゴやロープが残っているのは、過去に一攫千金を夢見た冒険者たちの残滓だろう。
「もういい、一気に走れ! 飛び込むんだ!」
ハシゴやロープを使っていたということは、そこそこ深い穴なんだろうが、もう戦線が維持できない。
よくワイバーンのブレスを防いでくれていた盾もボロボロだ。
「足首を挫いたって、骨を折っても、フェヘールが治してくれる。早く飛び込め!」
そのフェヘールは魔力切れを起こしかけていて、僕が左側から、チュクさんが右側から、担ぐようにして運んでいるんだけどね。
どうせ捻挫なんて即時に治癒しないといけないようなもんじゃないし。
命に別状のない負傷なら、悶絶でもなんでもしていればいいのだ。
残り30メートル。
20メートル。
10メートル……もうゴールできると思った瞬間、頭上に黒い影が差し、目の前にひときわ巨大なワイバーンが降り立とうしていた。
反射的に抱えていたフェヘールをチュクさんに押しつけ、斬る。
「バースト・アタック!」
敵のほうから高度を下げてくれるのなら戦いやすくなる。
僕が前世のVRゲームでの剣技を再現できたものの中で、一番高く空中に飛べるソードスキルを出した。
体内で魔力をガンガンまわして身体を最大限に強化し、その反則的な両足の筋肉で空中を駆け上がりながら、3連続の突きをワイバーンに食らわせる。
その3発とも、鼻、鼻、鼻だ。
顔の突き出した部分だし、鼻を潰してしまえば口のみで呼吸することになる。
呼吸しにくくなれば、体内に充分な酸素を取り込むことができなくなり、確実に運動能力は落ちるだろう。
こんな巨大なワイバーンを一撃で即死させるのは無理だから、まずは自分に有利な状況を作っていく。
さらに次の剣技を出そうとしたとき、いきなり全身が痺れた。
「なんだ?」
魔法で撃たれたようだが、ワイバーンはブレス以外の魔法を使うのか?
火属性ではなく、雷属性で麻痺させられているようだけど。
「フェヘール……」
まわらない舌で必死に名を呼びながら、いつもならとっくに飛んでくるはずの治癒魔法を求めて彼女のほうを振り返った。
チュクさんに抱えられたフェヘールはろくに意識がないみたい。
治癒魔法は売り切れ!
自力でなんとか……なんとか……体内に魔力を早く早く、強く強く循環させ、身体強化で無理に麻痺した身体を動かそうと焦る。
「はははははは………………虫けらのように這いずっておるわ!」
ワイバーンが笑った?
喋った?
いちおうは龍種に含まれるが、長く生きた古きドラゴンと違い、ワイバーンが人語を操るとは聞いたことがない。
「デカいし、長く生きればワイバーンでも知恵がついてくるのか?」
「100年だろうが、1000年たとうが、トカゲがドラゴンになるわけがない」
その声を辿っていくと、ワイバーンの背に乗る魔法士の姿が。
いまの雷属性の魔法はコイツか!
「エイン・ヘリアル? 死んだのでは……」
「殺したいのなら、ちゃんと首でも切り落しておけばいい。おまえがやったのはダンジョンの奥に生き埋めにしただけだろう。そんなので満足するから、こういうことになんだな。自分の甘さを死んでから後悔しろ!」
「抜け穴はないって聞いてたから、何日もかけてじわじわ死んでいくのは苦しいだろうと思っただけで、べつに甘くはないと思うが」
「クランの下っ端の言葉に踊らさせるとは滑稽滑稽。それで、なんで出涸らし王子などと悪評ばかり聞こえてくるのか不思議でならないな」
「ん? うかつな王子だから出涸らしとマイナス評価されてるんだろ?」
「マリオネットな王様になりそうな逸材だったら、いくらでも贔屓にしてくれる有力貴族がいそうなものなのに」
「ああ……イヤミね。だけど、僕が王様にならなくてもメレデクヘーギ侯爵が贔屓にしてくれるみたいだから、それだけで充分だろう。このアルフォルド王国でもっとも有力な貴族なんだし」
「噂ではファルカシュ子爵家に婿に入り、ゆくゆくはチヴァスィ王国を再興を目指しているらしいな。アルフォルドから独立して事実上メレデクヘーギの王国になるなら、いくらでも支援するだろうよ」
「メレデクヘーギ侯爵はアルフォルド王国から独立したいのか? 初耳の情報だが」
「普通、誰だって上に別の誰かがいるのは嫌だろう? 特に自分より劣る奴だと、な」
「優れているか、劣っているかは、どこを見るかだろう? おまえだって大陸有数のクランマスターなんだから表向きには優れているのかもしれないが、実際にやっていることは下劣なクズじゃないか」
「下劣なクズなんかじゃない!」
「魔法士としては悪くないのかもしれないが、剣だったら僕のほうがはるかに上だろう?」
「戦闘能力で判断したらどうだ? こうやって追い詰められている剣士が偉そうに!」
「まあ、ドラゴンをテイムして、今度はワイバーンを群れでテイムして、ひょっとしたらこのスタンピードを引き起こしたりもしたのか?」
「どうだ? どれも一流と呼ばれる魔法士でさえ不可能なことだ。ドラゴンのテイムなんて不可能とされていたし、スタンピードなど人工的に引き起こせると考える魔法士すら1人もいない」
「魔法士としては才能もあるのだろうし、能力は高いとしても、やってるのはくだらないことだけ」
「それこそ視点の差だ。出涸らしでも王家に生まれただけで王子になった人間の目玉はそんなふうに写るんだろう。もっとも、その目玉もすぐにワイバーンのエサだが」
「どうかな?」
「ここからひっくり返せるとでも? こうやって話をしているのだって逆転の一手というわけじゃなくて、ただの時間稼ぎだろう?」
「そうだね、ただの時間稼ぎさ」
「時間稼ぎ? 死ぬのがほんのわずか遅くなることになにか意味があるのか?」
「時間稼ぎであって、逆転の一手でもある。それがわからないかな?」
「ただの時間稼ぎの次はただの強がりか?」
「僕の目玉についてあれこれ言っていたようだけれど、自分の目玉はどうなんだ? いまなにが起きているのか見えてないし」
「それが強がりだろう!」
「だから、ちゃんと見ろと言ってるんだよ!」
「なにをだ!」
「後ろだよ?」
ヘリアルの頭の後ろを指す。
するといらついたように怒鳴りつけてきた。
「後ろになにがあるというのだ!」
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