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防衛線はもう崩壊

073




 打って出た僕たちが撤収し、北門に滑り込んだところで森からオーガが姿を現した。


 1頭やってきたと思ったら、みるみる10頭、100頭とどんどん増えていく。


 思わず、呟く。


「これ、最終的にはどうなるんだ?」


「5000とか10000になったり、オーガのかわりにドラゴンになったり、そんな感じぢゃな」


「困ったな、どうやったら生き残れるかまったく思いつかないぞ……」


「おや? まさか生き残れると思っておったのか! それは無理ぢゃな」


「どうやらそうらしいですが、僕はかなり諦めの悪いほうでしてね」


「上の者の考えかたとしてはよろしい。いさぎよく綺麗に散りたがっている奴が上にいると、下は犬死にすることになるからな」


「僕は上の者じゃありませんよ。指揮官はコチシュ隊長ですから」


「直接の指揮官ではないが、立場は最上位ぢゃ」


「使ったことないですし、今後も使う予定のない立場なので、上も下もないですねぇ……血筋で敵の攻撃を防御できるのなら、いくらでも使いますが」


 そんなことを話しているうちに、オーガの群れが塹壕に到達した。


 僕も大剣をしまい、ふたたびクロスボウに持ち返ると物見櫓に戻ってオーガを攻撃する。


 さすがに塹壕を担当する騎士たちはメレデクヘーギ侯爵家でも腕ききらしく、3メートルを超える巨体を相手に2度3度、斬ったり突いたりするだけで斃していた。


 それを援護するために矢が飛び交う。


「でかいの撃つよ!」


 西側の塀を守っていた魔法士が叫んだ。


 古びたローブを羽織ったベテランの冒険者らしき女性が真っ赤に輝く大きな宝石のはまった杖を振ると、燃えている森からやっと抜けてきたオーガの群れ、ざっと100頭が炎に取り囲まれ、さらに燃やされた。


 魔法の効果時間は10秒に満たない短いものだったけど、よほどの高温らしく、終わったときにはオーガを原料にした炭が100個ほど転がる。


「うわーっ!」


 塹壕や塀のあたりで歓声が上がった。


 魔法士はちょっと照れたような笑みを浮かべて塀から離れていく。


 休憩をもらったから最後にデカいのをぶっ放したのだろう。


 そういえば僕もお腹がすいてるんだけど。


 そろそろ昼じゃないかな?


 コチシュ隊長と一緒に目立つ物見櫓にいるので勝手なことはできないし、だいたい戦況がそれを許してくれない。


 大規模魔法1発で少しスペースができたはずなのに、すぐに視界のすべてが魔獣に占められるのだ。


 森の奥からどんどん魔獣が溢れ出してくる。


「トロールだ、トロールが混じっているぞ!」


 塹壕のほうから声がした。


 オーガも3メートルはある巨体を誇っているが、それを遙かに凌駕するのがトロールだ。


 燃える森からオーガの2倍まではいかないが、身長5メートル近い巨人がやってくる。


 ここまでのサイズになるとクロスボウで大きなダメージを与えるのは無理だ。


 魔法士はもともと数が少ないし、大きな魔法を連続して何度も撃っていたら、すぐに疲労で使いものにならなくなるだろう。


 コチシュ隊長が決断した。


「いまから門を開けるぞ。弓矢魔法が得意な者は残れ! 腕に覚えがある者は集まれ! 門の周辺にいる魔獣を排除しろ! 塹壕にいる味方を収容する」


 そして、塹壕で戦っている騎士たちに撤退命令を伝えた。


 僕も大剣を抜いて門に急ぐ。


 閂が抜かれ、扉が開いた瞬間、喊声を上げて外に向かった。


 いまの僕の身長でオーガと正面から戦うのは無謀なので、すれ違いざま、次々と膝を斬っていく。


 塹壕の向こう側まで一気に進んだ。


 さっきはオークの膝を斬ったのだが、物見櫓に戻ってから見てみると、後ろからきたオーガの群れに踏み潰されていた。


 どうやらスタンピードでは前に立ち止まっている魔獣がいても、その後ろの魔獣は助けたり、避けたりしないらしい。


 きっとオーガも動けないようにすれば次にくるトロールに潰されるだろう。


 そんなことを考えていると戦闘中なのに集中力が切れてるんじゃない? と反省しかけて視界の端にデカい拳がこっちに迫ってくるのが入った。


 とっさに身を前へ投げ出す。


 わずかに遅くて拳が耳の上をかすめていった。


 直撃でもなんでもないのに意識が飛びかける。


 拳のサイズが大きすぎるし、あまりにもスピードが速い。


 トロールだ。


 ちょっとだけ、みんなより突出してしまったみたい。


 前方から10頭以上、左右にもトロールにもいる。


 いま殴りかかってきたトロールが今度は踏み潰そうとしてきた。


 倒れかけた不自然な体勢だから力がぜんぜん入らなかったが、大剣の重さと腕力だけで足首を切り飛ばしてやった。


「撤退しろ、撤退だ!」


 門まで10メートルしか離れてないので、一気に後退するようだ。


 周囲にいるトロールを無視して走り出す。


「急げ、急げ!」


 コチシュ隊長の声に焦らされる。


 塹壕から出てきた騎士たちの後ろについて門までダッシュ。


「早く、早く!」


 物見櫓や塀から援護の矢や魔法が飛んでいる。


 門内に滑り込んだ。


「急げ、慌てろ!」


 僕よりもさらに前へ出てしまったらしい冒険者が必死の形相でこっちに向かって走ってくる。


 後ろからオークが、そしてオーガが迫っていた。


 冒険者は手に持った槍を投げ捨て、少しでも身軽になって逃げようとしていたが……すぐに野獣の群れに飲み込まれていく。


「門を閉めろ。弓兵、魔法士、総攻撃だ!」


 オークはだいたい片付いたが、オーガはまだ残っているし、トロールはどんどん増えている。


 僕が物見櫓に戻ったときには、ちょうど塀まで魔獣が押し寄せてきたところだった。


 クロスボウでオーガの頭を狙っていく。


 さすがにこれだけの近距離だから威力に不足はない。


 だが、その後に攻めてきたトロールには1発では効果が薄かった。


 しかも、ポラーニの塀は高さが5メートルくらいだから、トロールの身長とあまりかわらない。


 手を伸ばしたり、ジャンプして、塀の裏側に隠れる騎士や冒険者を殴りつけようとする。


 魔獣が格闘術など使うわけがないのだが、とりわけトロールは殴るか蹴るというシンプルな攻撃方法を好む――というか、それ以上なにか工夫するような知能はない。


 しかし、質量と膂力だけで充分以上の脅威となる。


 事実、塀に取りつかれて10秒もしないうちに騎士や冒険者が5人以上も吹っ飛ばされた。


 そして、塀にしがみつく。


 直径50センチはある太い丸太を積み上げた塀はものすごく頑丈なはずなのに、薄い板でできているかのようにガタガタと揺れる。






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