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冒険者ギルドにテンプレはない

053



 翌日、フェヘールが街を案内してくれるというので、僕たちは外出することにした。


 冒険者の多い街というと治安もあまりよくないイメージがあるけど、メレデクヘーギ侯爵領で、その領主の娘に危害をくわえようというバカはいないらしい。


「わたくし、結構冒険者のみなさまに顔を知られてるし、みんな気を遣ってくれてるみたい。もちろん、最近やってきた、この街の流儀を知らない連中もいるけど、それ以上にここになじんだ冒険者が多いし、うちの騎士も巡回してるから、わたくし1人で街にいっても問題ないくらい」


 実際には馬車を出してくれたし、御者は元Sランク冒険者のジョンだから腕利きの護衛がついているのと変わらないけど。


「どこにいきたい?」


 この質問にすぐには答えられなかった。


 いきたいところはいっぱいある。


 入り口まででいいからメレデクヘーギ山脈をもっと近くで見てみたい――なんなら少しだけ山に踏み込んでみたい。


 城門の近くにあった屋台が並ぶところもいきたいな。


 こういう最前線みたいな街なら武器屋に素晴らしい剣があるだろう。


 防具だって見てみたいし、できるなら試着したいところだけど。


 いろいろ誘惑は多いけれど、やっぱり最初はココ!


「冒険者ギルドはあるよね ?」


「あるけど……わたくしたちが登録した街のものより大きいけど、でも、それだけよ? だって役所みたいなところなんだし。あっ、でも、移籍はしておいてもいいかもしれない」


 僕たちは帝国領の田舎町で冒険者登録をした。


 じつは帰国した後、腕試しと、ちょっとしたスリルと、お小遣い稼ぎのために王都でもこっそり冒険者として仕事を請けられないか調べたことがあって、僕についてはアルフォルド王国の王都に移籍手続きをしてある。


 だけど、いまはメレデクヘーギ侯爵領にいるんだし、この土地の冒険者と一緒に山に入るのだから、移籍しておいたほうがいいかもしれない――そんなことで簡単に仲間として扱ってくれるわけないだろうが。


 こういうときの定番は腕試し的イベントかな?


 つっかかってくる奴がいて、手合わせすることになって――みたいな。


 その手合わせした相手が実はギルドマスターだったり、かなりの実力者だったりして、なかなかの勝負をした僕は一目置かれるようになったりとか。


 あるいはギルドの嫌われ者だけど腕っ節が強いから追い出そうにも追い出せない迷惑がられている奴を叩きのめして喝采を浴びるとか。


 どんなパターンか知らないけど、とても楽しみだ。


 冒険者ギルドは大通りの一等地にあった。


 ひょっとして侯爵邸より立派じゃないか? という建物だ。


「王都の冒険者ギルドより大きくない?」


「大陸で一番大きいらしいわ。魔獣や、山で採れるものが多いから、冒険者も集まるし、人が増えれば雑務も多くなるし」


 事実上、異世界ハローワークみたいなところだもんな、冒険者ギルドって。


 魔獣の討伐だけでなく、なんでも屋とか便利屋といったほうがいいような、街中での簡単な仕事もたくさん扱っているし。


 社会保障がぜんぜん発達してない世界で、孤児や老人でもできる簡単な仕事があるのは救いだろう。


 馬車から降りて、混雑する冒険者ギルドの玄関に向かうと、人並みが2つに割れて道ができた。


 全員がこっちに頭を下げている。


 そういえば昨日、馬車で街中を通ったときも頭を下げる人ばかりだったよな。


 領主とはいえ、侯爵家の威光はすごいな、と思っていたら――あちらこちらから「聖女様だ」「聖女様がやってきたぞ」という囁き声が聞こえてきた。


 これ、侯爵家の威光とかじゃないよね?


 ただのフェヘール教の信者だ。


 冒険者は命がけの商売だし、この世界における職業で最高の受傷率だろう。


 労災とかないし。


 その場で魔獣のエサにならなかったとしても、働けないほどの怪我をしたら飢えて結局は死ぬことになる。


「みんな、元気?」


 フェヘールが声をかけると、3人の冒険者が近寄ってきた。


 3人とも負傷しているようで、腕や足に包帯を巻いている。


 こくん、とフェヘールがうなずいて杖を掲げると、パッと患部が輝き、その光がおさまったときには怪我は完全に治癒していた。


「ありがとうございます」


「ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 3人はしきりに頭を下げ、周囲にいた冒険者たちが肩を押したり、頭を小突いたりして、手荒な祝福を贈る。


「聖女様がいらっしゃるときに負傷するとは、なんて運のいいヤツだ!」


「その幸運をお裾分けだ、1杯おごれ」


「なんで昨日怪我したんだよ。これだから俺はダメなんだよなぁ……」


 ちなみに冒険者ギルドのすぐ隣に白樺救護団の病院があった。


 フェヘールが開発した治癒魔法を覚えた魔法士たちで構成される、この世界ではじめての医療ボランティア団体だ。


 まあ、金のない奴は無料とか安くして、金を持っている人は余分に置いていって、それで成り立っている病院といってもいい。


 名のある冒険者が財布から金貨をひとつかみ放り出して、新人の10人分20分を賄っている形かな。


 病気をなおしてもらった貴族や商人が寄附したりとかね。


 もちろん、フェヘール教の信者も喜捨するし


 このメレデクヘーギ侯爵領の白樺救護団は本家本元ということもあって、王都にあるものより規模が大きい。


 怪我の治療なら、そこでやってもらえるはず。


 つまり、なんだ……できれば怪我はフェヘールに直接なおしてもらいたい信徒たちということだろう。


 僕はこんな連中と一緒に命がけの探検にいかなくてはならないらしい。


「おい、邪魔だぞ! ギルドの前で騒ぐな!」


 2メートルを超える細身の男がキツい声をあげながらやってきた。


 こっちに顔を向ける。


 目が細くなるのと同時に瞳も細くなった。


 なに? この爬虫類系の男。


 ちらりと見ただけで高価だとわかる防具をつけていて、黒だけど妙な艶のあるマントを羽織り、デカい真っ赤な宝石がついた杖を持っている。


 きっとトップクラスの冒険者なのだろう。


 トカゲのような瞳でフェヘールの治癒魔法をうけて喜んでいた冒険者の1人を睨み、いきなり殴りつける。


「こんなところでなにをしているのだ!」


「すみません」


「暇ならホームの掃除でもしていろ!」


 そこにフェヘールが声をかける。


「ヘリアルさん、そんな乱暴なことをしなくても」


「これは我のクランの問題。メレデクヘーギ侯爵令嬢様にも、聖女様にも関係ないことです」


 言葉遣いは丁寧なのに、ちっとも敬意が感じられない。


 しかも勝手に話を切り上げて冒険者ギルドの中に消えていった。


「あいつ、何者?」


 フェヘールに尋ねると、エイン・ヘリアルという有名な冒険者だと言う。


「冒険者は数人から、せいぜい10人くらいかな? パーティーで依頼を請けることが多いんだけど、ヘリアルさんは100人以上の冒険者を束ねてるの。そういうのをクランというんだけど、アルフォルド王国にもクランは数えるほどしかない。よく言えばだけど、冒険者は自由だから」


「まあ、大変そうだね。それができるくらいだからプライドが高いということなのかな? フェヘールにも慇懃無礼な感じだったけど」


「ヘリアルさんは龍人族なんだけど、わたくしと同じ忌み子と呼ばれる生まれなの。ところが、龍人族では価値観が違って、悪い印象はなくて、むしろ宝物のように扱われるらしい」


 なんでも強さを絶対とする種族で、睨んだだけで相手にダメージを与える呪術は素晴らしいもので、逆にその呪術ベースに攻撃力を取り除いて治癒魔法に転換したフェヘールのことを快く思っていないとのこと。


 まあ、そういう考えがあってもいいけど、それを堂々と態度に出すところ怖い。


 みんなから聖女様と慕われてるんだぜ?


 しかも、ここはメレデクヘーギ侯爵領だ。


 普通なら隠すし、隠しきれない奴がいたら周囲が黙っていないだろう。


「ヘリアルさんのクランって人数が多かったり、強い冒険者がいたりするの?」


「両方ね、メレデクヘーギ侯爵領内だけでなく、アルフォルド王国全体で見てもトップのクランじゃないかな? 冒険者なら『ブレイブスピリット』と聞けば、少なくとも名前くらいは聞いたことがあると思う」


 厄介だなぁ……フェヘール教の信者がいて、アンチもいて、そのアンチは結構な実力者らしい。


 僕は冒険を楽しみたいだけだから、なにも起きなければいいけど。

 せっかくのゴールデンウィークだというのに、どこかに遊びに行くという感じではないですね。旅行は無理だとしても、せめて美味しいゴハンくらいは食べにいきたいと思ったりしますが、一緒にいく相手もいないしなぁ、ということで頭な中の妄想を書き出す休日となりました。

 少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。





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