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敵の正体は?

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 警備の都合上という建前で、学園ではバカップル状態で恥ずかしい毎日を送っているクリート・アルフォルドです!


 まあ、平和でいいんですけどね。


 僕はちゃんと緊張感を保っているし、警護についている異世界忍者みたいな警護官の気配を感じとる練習も続けている。


 そうして何事もないまま、5日が過ぎて、フレドリカ先生が姿を現したという報告が届いた。


 どうやらフレドリカ先生は普段、学園内の職員用宿舎で生活しているが、その他に王都の郊外にも家を持っているらしい。


 その家に籠城していたという――誰と戦っていたんだ、フレドリカ先生?


 まずは衛兵隊が話を聞いているのだが、そのあと僕のところにきてもらえるよう頼んである。


 フェヘールと一緒に夕食をとっていたら呼び出しを受けた。


 情報共有ということで、僕たちだけでなく国王陛下、近衛騎士団、諜報部など、関係者も顔を揃えるらしい。


 その途中、メドベ・サルウァシュ伯爵夫人と出会った。


 あいかわらず素晴らしい髪――毛並みだ。


 アルフォルド王国というより、人族がたくさん住む地域には獣人族はあまり近寄らないが、中には人族と仲良くなる獣人族もいて、サルウァシュ伯爵家には何代か前に豹人族の血が入ったのだけど、彼女は先祖返りとでもいうのだろうか、かなり色濃く種族の特徴が出ている。


 差別感情を持つ人族もいるけど、僕はヒョウ柄の髪や耳や尻尾はとても美しいと思う。


「これは殿下、侯爵令嬢、今回もまたおもしろそうな事態になっているようですね」


 外務参議という、外務省のかなり偉い人らしいんだけど、なぜか僕を買ってくれているところがある――なぜかバレンシア帝国でジーク陛下と会見して、剣をねだってきたのが伯爵夫人の琴線に触れたらしい。


 さらに親善の外交団を派遣するという話まで広がって、いまアルフォルド王国の外交はかつてないほどの成果をあげていることになる。


 性別を理由に優秀な人材を腐らせる余裕がないアルフォルド王国だけど、大臣クラスのトップは名誉職でもあるので、伯爵ではちょっと足りなくて、外務参議が最高到達点だろうが、そもそも出涸らし王子を買ってくれる政府高官はほとんどいないから、僕としては大切にしておかなければならない相手。


 しかも、お飾りのトップではなく、実質的に仕切っている実力者らしいしね、サルウァシュ伯爵夫人って。


「おもしろいか、つまらないか、まだ全体像すら見えてない状況ですよ?」


「いえいえ、今度は神聖国ブランを少々へこましておいていただけますと、私がとても助かります」


「そういうの、大人の仕事だと思うのですが」


「いまいろいろやっておくと、将来なにかを継いだときに楽ができます」


「なにを継ぐのかな?」


「なんでしょうね?」


「そのネタ、あまりコスると冗談ではすまない雰囲気なんですよね、最近」


「脂ぎった熱い話題でした」


「わたくしとしては小さな公爵領でも下賜いただければ、それ以上は望みませんけど」


 いきなりフェヘールが割り込んできた。


 王位継承権から外れて、形だけ爵位と領地をもらい、そこでゆったり暮らすのは僕も望むところ。


 大学病院みたいな、医者を育てつつ、患者の診療にあたる施設があればフェヘールの才能が生かせるし、余裕で生活費を稼ぎ出せそう――なんだけど、では、僕はどうしよう?


 お金を稼ぐ能力がなにもないような気がする。


 いや、そんなの気のせいで、なにかあるはずだ。


 きっとある、そう信じよう。


 だいたい、いまの僕はオッサンではなくて、まだ13歳の王子なのだ。


「まずは神聖国ブランからいきましょうか。危険物をいくつも抱え込むのはいけません」


 さっと前へ出たサルウァシュ伯爵が声をかけながらドアを開けてくれ、柔らかく笑って「どうぞ」と通してくれた。


 ひさしぶりに見るフレドリカ先生は特にやつれているわけでもなく、血色がよくて、むしろ元気そうだった。


 すぐ隣にバーズドさんがいた。


 そもそもフレドリカ先生の襲撃事件は第7衛兵隊の担当だから、先に事情を聞いたあと、一緒にここにきたらしい。


 こっちは顔が青くて緊張しているのが一目でわかる。


 まあ、国王陛下をはじめ、コルダ・ジュルチャーニ近衛騎士団長とか、いま僕たちが一緒にやってきたメドベ・サルウァシュ伯爵など、この王国の重鎮が何人もいるのだからしかたない。


「みなさん、心配かけて申し訳ありませんでした」


 フレドリカ先生の謝罪からスタートした。


 あの朝――払暁に1人の剣士に襲われたそうだ。


 フレドリカ先生は学園の教師だけど、国王陛下をはじめ、教え子は多岐にわたるので神聖国ブランが動いているということは耳にしていた。


 情報収集組織としての教会人事査定部があることも、その内容には破壊工作も含まれることも知っていたので、最初はそういう破壊工作担当だと思ったらしい。


「しかし、それにしても手強い敵でした。いまは学園の教師ですが、かつては戦場を往来していた腕に覚えのある魔法士。あれだけの剣士はいままで数えるほどしか会ったことはありません」


 お互いに決め手がないまま時間だけが過ぎ、物音に驚いた他の教職員がこっちにやってくる気配があったので、フレドリカ先生は職員用宿舎から逃げ出した。


 この戦闘に同僚を巻き込んではいけないと思った、と言う。


 さらには学園の敷地からも遠く離れようとした。


「日の昇った直後くらいですから登校時間としては早すぎますけど、万一にも生徒に被害が出てはいけないですから。しかし、そういうことを考えると一般市民が怪我したり死んでいいわけないですし、こうなったら、いっそ人の多い王都から出ようとしました」


 たった1人だけど、やたら腕利きの剣士が追撃してくる中、防御と反撃を組み合わせで翻弄しつつ、北を目指す――王都郊外の自宅に向かう。


 郊外の緑が多いところにある別荘的なところらしい。


「なんなら大規模攻撃魔法をブッ放して、まわりごと消滅させることもできますから。学園や王都で魔法を使うのは気を遣うでしょう? 剣なら全力で振りまわしても家の壁がちょっと削れるくらいですが、魔法だと燃えたり、崩れたり、相手に避けられたときの被害が大きくなりますよね。街中で、剣を相手に魔法で戦うのは不利ですよ。ですが、まわりに家がないのなら、こっちもフルパワーいけますので」


 学園では優しくて、真面目な先生というイメージだけど、どうやら怒らせたらいけない人種らしい。


 いるよね、そういう表向きは常識人なのに、ふとした瞬間に狂気が混じるタイプ。


「それで結果は? 仕留めたのか?」


 国王陛下が身を乗り出す。


 フルパワーのフレドリカ先生とやりあったら、消し炭とか、ミンチとか、そんなものに変えられてそうだけど。


「途中で人家がないところを通ったので反撃に出たのですが、そうしたら逆に逃げ出しました。今度はこっちが追ったのですが、すぐに見失いまして」


「なぜ、そのあと学園に戻ってこなかったのだ?」


「もし私を狙っているのなら、また襲ってくるでしょう。そう考えると学園には戻るのは躊躇われます。私の家なら燃えようが、爆発しようが、誰の迷惑になりません」


「しかし、襲ってこなかった?」


「はい。諦めたのか、別の機会を狙っているのか……よくよく考えてみれば待ち構えているとわかっているのですから、わざわざ突っ込んではこないですよね、当然」


「補足しますと、交戦現場に残された血痕や足跡などから推測するに、犯人は一目散に逃げているようです。こちらも途中で手がかりが途切れて追い切れませんでした。いま周囲に聞き込みをかけて情報を集めていますが、すでに5日たってますから、いまのところ薄いです」


 バーズドさんの現場検証の報告を付け加えた。


 みんなが話の内容を脳内で精査していたが、すぐにコルダ・ジュルチャーニ近衛騎士団長が質問した。


「先生にお伺いしますが、相手は人事査定部の荒事専門家と特定するところまではいかないまでも、神聖国ブランの出身者だと確信できるようなことはなかったでしょうか?」


「まず人相風体についてはわかりません。マントで体型を隠していましたし、顔も布を巻いて隠していました。もちろん、はっきりと身元がわかるものを目立つようにぶら下げてるなどということもありません。ただ、あの腕、神聖国ブランの手先だとしたら人事査定部のレベルとは思えませんね。噂に聞く『神の剣』であるかも」


「……実在したのか…………」


「ええ、その男が神の剣だという証拠があるわけではないですけど、実際に神の剣は存在してます。長く生きるエルフ族でもやりあったのははじめてになりますが」


 するとサルウァシュ伯爵夫人も深くうなずいた。


「私も実在することを知っています。今回の件では神聖国ブランも一切の出し惜しみなく取り組んでいるということでしょう。実は神聖国ブランが聖戦を唱えて開戦に踏み出そうとしているのなら、その前に先制攻撃を仕掛けることを検討している国がいくつかあるという噂もちらほら聞こえてきますから、ね」


 神聖国ブランとしてはコンル・サカーチの杖を入手して、伝説の大規模殲滅魔法を実戦使用できるようにしなければ、聖戦どころか、攻め滅ぼされる危機となっているとのことだった。


 ざまぁな状況になったのは自業自得なのに、こっちまで巻き込まれて、いい迷惑だ。


 しかし、まあ、僕としては強い剣士とやり合うことになりそうで、ちょっとわくわく。


 そこで、サルウァシュ伯爵夫人から釘を刺された。


「強かったですよ、神の剣。速かったですよ、神の剣。うっかり殺されるところでした」


 服の袖を引き上げて、腕に残る傷跡を見せてくれた。


 20センチはある切り傷。


 たいていの獣人族は人族より身体能力が高く、ことに豹人族は戦闘に優れた能力で有名だ。


 先祖の血が強く出ているとはいえ、純血ではないサルウァシュ伯爵夫人がどこまで戦えるのかという疑問はあるが――外務参議という、役人というか官僚というのか、結局のところ文官として出世した人で、武官ではないし。


 しかし、そんな僕の思考を読んだようで近衛騎士団長がニコッと笑いかけてきた。


 厳つい顔で笑ってみせても、ちっとも愛嬌がなく、子供が見たら泣くヤツだ。


「彼女、強いですよ。そういえば殿下、獣人族の戦闘経験は?」


「そういえば……ないですね」


 前世でゲームの中でならドラゴンと戦ったこともあるけどな!


 僕はできるだけ丁寧に聞こえるようにして頼んでみた。


「サルウァシュ伯爵夫人、お時間をいただけのなら、お手合わせお願いできますか?」


「いいでしょう。このまま神の剣と向き合うことになったら死んでしまいそうですから」


 彼女も近衛騎士団長と同じ種類の、確実に子供に泣かれる笑顔を浮かべた。





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[気になる点]  メドベ・サルウァシュ伯爵夫人  彼女の素性が不明瞭です。  サルウァシュ伯爵家には、何代か前に豹ひとの血が入って、彼女はその血が強く出た先祖返り、との事ですが、そうなると彼女はサ…
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