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バカップルごっこ

039



 アルフォルド王国には騎士団と魔法士団の混成で諜報部という部署が作られていた。


 まあ、簡単にいうとスパイ部門だね。


 それとも忍者部隊とでもいったほうがいいのかな?


 この諜報部の中にある防諜部隊――カウンターインテリジェンスの部門が情報収集面で僕たちをバックアップしてくれることになった。


 他に近衛騎士団の護衛も僕とフェヘールについたんだ。


 その警備の関係上、僕の部屋のすぐ向かいの部屋がフェヘールのものとなった――あの侯爵家の御者をやっていたジョンも執事みたいな格好をしてついてきた。


 この一件が終着するまで、侯爵家ではなく、ここで暮らすことになるのだから当然といえば当然か。


 もちろん、学園の行き帰りなども近衛騎士団の護衛がつく。


 キンキラの優美な防具や武器を装備したイケメンのほうではなく、内密に警護するほうだから、こっちも忍者みたいな連中だ。


 警護官という、近衛騎士団に属するが、外見は騎士に見えない――そもそも姿が見えない人たち。


 敵どころか、味方からも隠密に警備をする、影の部隊だ。


 いってみれば囮なのだから警備担当者をぞろぞろと引き連れて歩くわけにもいかないし、それで学園にいったら変な噂になってしまう。


 だから、警護官を使うことになった。


 まわりにいる、と僕は知っているのに、それでも気配すらなかなか感じさせないのだから、かなりの腕利きなのだろう。


 まあ、昨日も反省したところだから、ちょうどいい。


 VR世界でモンスターやプレイヤーと殺し合いをしていた日常がリアルになったと思っていて、いまもそのころの延長線上にいると思っていたのに、結果は冒険者崩れの3人組にも苦戦した――はっきりいって殺されていたか、もっと酷い怪我を負っていても、まったくおかしくない場面だった。


 鍛え直さないといけないから、まずは気配の薄すぎる警護官を常時察知できるようになろう。


 こうやってはじまった神聖国ブランに対する防諜作戦で最初にやったのは第7衛兵隊のバーズド隊長を呼び出すことだった。


 何度も顔を合わせているのに、やはり衛兵隊では王城の内部は敷居が高いのか、ちょっと緊張した顔をしている。


 彼には敵を釣り出す餌として使うので、杖がレプリカみたいな物だと話したことは秘密にしてもらいたいと頼んだ。


 杖はフレドリカ先生の襲撃事件には直接関係ないので、他の衛兵たちにはしゃべってないそうで、これで情報漏れがないように全部塞いだことになるはず。


 バーズド隊長からの報告もあって、喉を負傷して逃げ出した短剣の男は遺体となって発見されたそうだ。


「殿下からは喉を突いたと伺っていますし、実際にそういう傷も残っていました。しかし、致命傷になったのは心臓を深くえぐった一撃ですから、どうやら口封じされたみたいです。顎を砕かれた魔法士は治癒魔法で応急処置をして、とりあえず口がきけるようにはしましたが、男に金で雇われたとしか」


「特徴は?」


「年齢は30前後、おそらく中肉中背、髪は茶色、目も茶色、顔に目立つ傷などはなく、マントをはおっていたので体の特徴も印象的なものはないとのことですから、あまり意味のある情報はないですね。王都の門あたりにいる旅人のほとんどがマントを使っているし、その中に30前後で中肉中背の目と髪が茶色の者だって山ほどいるでしょう」


「でも、短剣の男は口封じされたのだから、魔法士のほうも本当は口を封じたくなるような情報を持っている可能性もあるんじゃないですか?」


「疑わしい男がいれば、そいつかどうか尋ねることもできますが、いまのところ容疑者を捕まえるところまでいってないですし」


 似顔絵を描かせるようには言ってあるそうだけど、あまり特徴のある顔ではないみたいだから期待は薄いかな。


 


 僕は大剣を背負い、フェヘールはコンル・サカーチの杖を持って登校する。


 すでに僕が杖をプレゼントした一件は評判になっているらしく――誰か1人が知れば、すぐに広まるのが学園という場所だ。


「ねえ、フェヘール。メジェリ伯爵令嬢がこっちを見ているよ。なにか話でもあるんじゃないか?」


「わたくしの口から杖をもらったいきさつを聞きたいだけでしょ、仲良しなんだから一番に聞かせなさいよ、という感じかしら?」


「あっちは?」


 廊下の先で僕たちに強い視線を向けているウェレッシュ侯爵令嬢を示す。


 爵位はフェヘールの家と同じだが、メレデクヘーギは武の家なのに対して、ウェレッシュ侯爵家は過去に何人も宰相を出した政治家として優秀な一族ということもあって、あまり交流は深くない。


 その子供同士は……憎んだり、嫌ったりはしてないものの、そんなに仲がいいわけでもないようだった。


「あの娘はゴシップが大好きなの、特に恋愛がらみの。いまはこの教室にいる誰よりもわたくしとお茶会したくてたまらない生徒は間違いなく彼女ね。」


「こっちが遠慮したい」


「わたくしも遠慮するわ」


 ここでフェヘールは声を落として、僕との距離をずっと縮めてきた。


 僕たちを見詰める目に熱気がこもり――特にウェレッシュ侯爵令嬢は顔を真っ赤にさせたが、そんな色っぽい話ではない。


「警護の人たちの負担を考えると、なるべく2人でまとまっていたほうがいいと思うの。でも、わたくしたちが囮だと明かせない以上、警護のことも説明できないし、せいぜい仲良しのバカップルのふりでもしよう」


「仲良しはいいけど、バカップルまでいくと、どうかと思うんだけど」


「でも、ずっと2人で一緒にいる言い訳があるの?」


「ないかな?」


「でしょ?」


 ここでフェヘールは声のトーンを戻した――いや、あきらかにボリュームを上げた。


「クリートからもらった杖を使うのが楽しみ、早く魔法の授業を受けたいな」


 いきなりギューと抱きついてくる。


 教室内の熱気がさらに高まった。


 きゃっ、と小さい悲鳴がいくつも聞こえてくる。


 フェヘールは顔を上げて、にやっと笑った。


 これ、絶対にふざけてるよね?


 護衛の負担軽減とか、もちろん大切なことだけし、重要な理由ではあると思うけど、それだけじゃないよね?


「神経をすり減らす時間ばかりだと辛いだけでしょ? 楽しい時間も少しはないと」


 そんなふうにフェヘールは言うのだけれど、いまのは別の意味で僕の神経をすり減らしてるんだけど。


 授業は隣同士で受けて、昼食は一緒に食べる。


「おまえたち、いくらなんでも仲が良すぎないか?」


 その昼食のとき、すぐ近くのテーブルにいた上の兄さん、バラージュが呆れたような顔をしたが、即座にフェヘールが言い返す。


「婚約者なんだから不仲より、仲良しのほうがいいでしょ?」


 なにも言えなくなるよね、バラージュとしては。


 さらに彼女は自分の皿のシチューに浮いていたニンジンをフォークで刺すと、僕のほうに差し出す。


「あーん!」


「………………フェヘールさん、いくらなんでも悪乗りが過ぎやしませんか?」


「あーん!」


 口調は甘々だけど、視線の圧がスゴい。


 女の子が全力で突撃してきたら、男は勝てないよね、絶対。


 しかたなく食べさせてもらう。


 みんな見てるし、笑ってるし。


 たぶん、おいしいニンジンだと思うんだけど、まったく味しないよ。


 ん?


 ちょっと待てよ、そういえば思い出したことがある。


「フェヘールってニンジン、苦手だったよね?」


「クリートがニンジン、好きだからあげたの」


 ニコッとフェヘールは笑った。


 嘘ついたこと、誤魔化してるだけだろ!





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