異世界忍者の正体は?
031
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フレドリカ先生に教えてもらったズルドさんという研究者の自宅を訪問しようとしたら、その家を見張っている5人の男に気がついた。
木の幹と同色の布を使って、樹上で待ち伏せって、この世界に忍者がいるの? と思ったよ。
4人までは倒し、残る1人になったとき、そいつは僕の前から逃げ出した。
フェヘールからも逃げ、馬車の御者が狙いだ。
戦闘能力のない者を人質にして――御者の鞭がビシッと迫る敵の顔面を的確にとらえた。
「うっ……」
とっさに顔を左手で防御するが、今度は長剣を持った右手で鞭が弾ける。
僕が守る必要なんてどこにもなく、御者は強かった。
「あの人、何者?」
そっと小声でフェヘールに聞く。
「元は金板の冒険者で、引退後はうちの領内の掃除夫として働いていたんだけど、わたくしがレシプスト王立学園に入学すると、なぜかついてきて、いまは御者と護衛の兼任みたいな形かな?」
「あの人、その冒険者時代に怪我をしたとか、病気になったことはない? それも本当なら死ぬレベル。で、それをフェヘールがなおしてあげたんだ」
「何度もあったわ。だげど、わたくしの治癒魔法は当時たいしたことなかったから少し手助けできただけで。それなのに、さすが金板冒険者はタフなものね。一度も死ななかった――もちろん、一度でも死ねば、ここにいないんだけど」
「うん、よくわかった」
あいつはフェヘール教の敬虔なる信者だ。
自分、あるいは身内がフェヘールの治癒魔法で助かると、うっかり入信してしまうことがあるんだ。
ただ入信するだけでなく、もうね、身も心も捧げますなんて奴まで現れたりするから。
白樺救護団の連中なんか典型的な例だけど、狂信者って怖いよね。
この御者もヤバい奴だ。
元金板冒険者とはいうけれど、腕が鈍ってきたのではなく、フェヘールの役に立ちたくて引退したのだろう。
引退後の仕事は領内の掃除って、どうせ箒じゃなくて剣でやる掃除だよね、たぶん。
魔獣だけでなく、人も相手にするタイプの掃除担当だよ、こいつ。
フェヘールから離れ、いまは御者をやっている男に近づく。
40になるか、どうかというところだろうか?
年齢的には冒険者として引退していてもおかしくはない。
全体的に細い印象だが、服の上からでも筋肉が落ちてないことがわかる。
しなやかそうな筋肉だからスピード重視で、剣か槍か知らないが、前衛で近接戦闘を好むタイプだと感じられた。
「名前を訊いても?」
その御者に尋ねた。
「ジョンでございます」
「覚えておこう」
どこまでもフェヘールについてくるつもりなら長い付き合いになるかもしれないと思ったのに、あからさまに偽名くさい名前を名乗りやがったよ。
「こちらも1つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なんだろう?」
「聖女様が不幸せなことになりましたら、お覚悟が必要な場面が多くありそうなことはご存じでしょうか?」
「ご存じでなくても問題ないね。だって、フェヘールが不幸せになることはないから。もし、そういうことがあったら僕の器量がそれまでだったということだから、覚悟もなにも、好きにしたらいいよ」
「安心いたしました」
「ああ、僕も安心したよ」
質問を装って圧をかけてきたよ。
優男が、いい歳のとりかたをして、いまだにモテ親父という雰囲気をまとっていながら、その圧はドラゴンもひるんで逃げそうだ。
まあ、それでもフェヘールの味方であれば頼もしいし、ボディガードとしては充分すぎるだろう。
ジョンが御者用の鞭ではたき落とした男に目を向けた。
ぐったりと地面に倒れ込み、ピクリとも動かない。
長剣は手放しているが、持っている武器がそれだけだとは限らないから、慎重に近寄っていく。
「おい、この家になんの用があったんだ?」
大剣は倒れている男に向けたまま、何事かあったら即座に斬り伏せることができるように油断なく、さらに近寄る。
しかし、男は返事どころか、身じろぎもしない。
なんかおかしい。
一発逆転の秘策でもあるのか?
剣先でチョンと突いてみた。
鋭い刃の突いた剣だから、軽く突いただけでも裂傷になる。
それでもまったく反応がなかった。
一気に近づいて、男の側頭部を蹴って、こっちに顔を向けさせた。
目を大きく開けて、眉間に深い皺を作り、食いしばった歯の隙間から血が流れている。
「こいつに治癒魔法を!」
驚いた表情でフェヘールがやってきて、男の状態を確認するが、すぐに首を横に振った。
残りの4人も調べてみたが、全員が死んでいる。
「フェヘール、これは毒だよな?」
「自決用に持っていたのだと思う」
状態からしてそういうことだと感じていたが、フェヘールも同意するなら間違いないだろう。
慌てて他の4人も調べるが、全員が事切れていた。
即効性の猛毒をこっそり持っていて、しかも使うことにためらいがない。
5人もいれば、何人かはとりあえず逃げようとすると思うんだけど。
どうしても逃げられないと絶望したとき、はじめて服毒という選択肢が出てくるもんじゃないのかな。
「こいつら、本物の忍者なのか?」
「ニンジャ? それはなに?」
「なんでもない……ちょっと意味がわからないと思ってさ。死ぬほどのことなのか? いったいどういうことだろう?」
「そう不思議でもないでしょ、誘拐にしても殺人にしても、どうせ捕まったら死刑なのだから」
「どっちにしても未遂だよ、死刑まではいかないんじゃないか? さらにターゲットも気になるよ。ズルドさんって歴史の研究者なのに、なんでこんな暗殺者みたいな連中に狙われるんだ?」
「ここにくるまでの話だけど、元は冒険者かもしれないわよ。報酬の分配とか、なにかでもめて殺し合いになることもないわけじゃないし」
「いや、でもさ、トラブルを抱えた人をフレドリカ先生が紹介するかな? そこがわからないんだよ」
「確かに……変な人や危ない人を紹介するわけないわね。そうすると最近になって、なにかしたとか、巻き込まれたとか、そういうこと?」
「さあ?」
わからないことが多すぎる――いや、わからないことばかりだ。
禁書庫の侵入者にしても、この忍者みたいやつらにしても、まったく正体不明。
だが、そこに少しだけ光明をもたらした人物がいた。
死んだ男の剣を手に取ったジョンが神聖国ブランの者かもしれないと言い出したのだ。
「剣に太陽十字が切ってあります。ブランの者と決まったわけではないですが、少なくともブランの鍛治屋が打った剣に間違いありません」
僕は死んだ男の服をはだけさせて太陽十字を探す。
確かに首にはロザリオがさがっていて、そのトップに小さな太陽十字がついていた。
太陽十字――丸の中に十の字を組み合わせた、ブランの国教とされる神・ラカトシュのシンボル。
あとの4人も似たような剣を持ち、似たようなロザリオをさげていた。
宗教以外まったく関心ありませんというイメージの神聖国ブランが暗殺とか、誘拐なんて、あまりにも似合わないんだけど。
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