冬の花に咲いた腐った真実(5)
瞼をゆっくりあけると、トーカが座っていたベンチに座っていた。名残があった。ひどく冷たい空気が立ち込めていた。そして近くにはカイロを差し出す人や、俺の顔を覗いて「大丈夫ですか」と尋ねる駅員がいた。
何人もの人が俺を心配そうに見つめている。もしかしたらこれから予定があったひともあるかもしれない。仕事が終わって早く家族と会いたい者もいたかもしれない。それでも見ず知らずの俺なんかに手を差し出す。
ぐっと温もりを押し込めて、ベンチをさすった。あたりに彼女の気配がないか探す。
トーカはもうどこにもいなかった。
セーラー服の少女が起きたのは俺が病院の点滴を打っているさなかだった。俺よりも大きくトーカの影響を受けていたせいか気持ち悪そうにしていた。幽霊でも気分みたいなものがあるらしい。
点滴が一滴、一滴垂れる音がする。透明なそれらが俺の中に入っているとは思えない。しかもここにくるまで救急車に乗ったこともどれも現実味がない。
ふわふわとしたベッドの上で天井を見上げる。そこにはぷかぷか浮かぶ思念達。あやふやで煙のようにさまよっている。俺の方へ近づくが数珠をかざすといなくなる。
「思ったんだけど」
と、そこで俺の目と鼻の先に少女の顔が飛び出してくる。いきなりすぎて体が跳ね上がる。知らずに少女の唇と俺の唇が触れあった。ただの事故だ。俺は悪くない。
少女は顔を真っ赤にしてあっちこっち移動してまた戻ってきた。今度は顔ではなく耳が赤くなっている。幽霊だし感触がないのに、気にするのはなんでなんだろうか。
「事故」と少女が許可する。
「ああ、事故だ」と俺も頷く。
そこでふりふりと少女は髪を揺らして向き直る。
「君はやっぱり私達は成仏すべきだと思う?」
その答えはやっぱり、
「するべきだろう」
「真実を知る前に、ね」
「案外、君って私達に優しいよね」
少女がからかいながら揺蕩っていた。