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闇夜少女に提灯ゴースト  作者: 千羽稲穂
第二話 冬の花に咲いた腐った真実
9/10

冬の花に咲いた腐った真実(5)

 瞼をゆっくりあけると、トーカが座っていたベンチに座っていた。名残があった。ひどく冷たい空気が立ち込めていた。そして近くにはカイロを差し出す人や、俺の顔を覗いて「大丈夫ですか」と尋ねる駅員がいた。


 何人もの人が俺を心配そうに見つめている。もしかしたらこれから予定があったひともあるかもしれない。仕事が終わって早く家族と会いたい者もいたかもしれない。それでも見ず知らずの俺なんかに手を差し出す。


 ぐっと温もりを押し込めて、ベンチをさすった。あたりに彼女の気配がないか探す。



 トーカはもうどこにもいなかった。



 セーラー服の少女が起きたのは俺が病院の点滴を打っているさなかだった。俺よりも大きくトーカの影響を受けていたせいか気持ち悪そうにしていた。幽霊でも気分みたいなものがあるらしい。


 点滴が一滴、一滴垂れる音がする。透明なそれらが俺の中に入っているとは思えない。しかもここにくるまで救急車に乗ったこともどれも現実味がない。


 ふわふわとしたベッドの上で天井を見上げる。そこにはぷかぷか浮かぶ思念達。あやふやで煙のようにさまよっている。俺の方へ近づくが数珠をかざすといなくなる。


「思ったんだけど」


 と、そこで俺の目と鼻の先に少女の顔が飛び出してくる。いきなりすぎて体が跳ね上がる。知らずに少女の唇と俺の唇が触れあった。ただの事故だ。俺は悪くない。


 少女は顔を真っ赤にしてあっちこっち移動してまた戻ってきた。今度は顔ではなく耳が赤くなっている。幽霊だし感触がないのに、気にするのはなんでなんだろうか。


「事故」と少女が許可する。

「ああ、事故だ」と俺も頷く。


 そこでふりふりと少女は髪を揺らして向き直る。


「君はやっぱり私達は成仏すべきだと思う?」


 その答えはやっぱり、

「するべきだろう」

「真実を知る前に、ね」


「案外、君って私達に優しいよね」


 少女がからかいながら揺蕩っていた。

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