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3-1十一月


時は十一月に入る。それは私の体重が人為的に減ってから数日たった或る日のことである。


当日は罪が私の中から消え去ったと思って喜んでいた。その次の日、休む理由も特にないので大学へと向かった。前いたあの子とは講義が合わず、一緒に受ける相手は周囲にいなかった。

そのせいか周りの人々が私を避けているかのように感じてしまう。いや、それどころか何か陰口を言っているかのような、批判されているような気がしてしまう。

もちろんそんなことはないことはわかっている。しかし、周りが環境が私を非難している。罪の意識を再発させるかのように聞こえてくる。


この場合の聞こえるとは実際の意味として耳に入っているわけではないのだろう、多分。これは私にも分からない。いや私に興味を持つ人間なんていないのだから、言う奴もいないはずだろう。

講義を受ける大教場、大量に集まる人々。実際に受けている人数はこれより多いのだろう。ちらほら固まる大学生グループが散見される。その中で私はやや後ろの右後ろ側にいた。

座っている席から二つ三つほど離れたところにグループが存在する。私の知らない人たちばかりだから、違う学科なのだろう。少し聞こえる会話に耳を傾けてみる。


「……でさー……そうそう……あ、やっぱりぃー?…」


そう、もちろん私に対する言葉など一言も聞こえない。これが日常なんだ。そんなに関わらない私がそんなに言われる筋合いがない。しかしこの嫌な胸騒ぎはいったい何なのだろう。

背中に何かの虫が走る感覚がする。すぐさま肩甲骨の下あたりを掻き毟る。嫌な嫌な感覚が消え去らない。服の上からでは埒が明かないので、手を入れる。とっても痒い。

全く変わらない、だから私は背中を椅子の背もたれにぶつけた。ガンッと鈍い音が私の周囲と空間と、そして骨に響く。とっても嫌な、最悪な感覚が消え去る。


「うあっ…何でこんなことに…」


痛みと周囲の視線とやっぱり嫌な感覚が涙を誘う。悔し涙に似たような、頭の奥がひくつく。それを堪え勢いよく前をにらみつける。騒いでいた学生は私の方を一瞥すると、何もなかったかのようにまた騒ぎ始める。

教壇では何らかしらの数式が描かれていた。私にはそれを数式としてではなく絵のように認識していた。黒板でうごめくように白いものがのた打ち回る。遠すぎて私には危害を加えることができない。

目を下に向ける。そこには板書を写すノートがあった。私の今まで書いた文字は動くことは全くなかった。私の生み出したものは私に危害を与えることはしないのか、と安堵する。


私は私として囲まれていないと、何かが危害を与えるようなそんな気がする。他人の多い、他人の創造したものが多い場所は危険すぎる。そんな思考回路に全く疑問を持たず、ノート等を片づける。

そのまま私は講義途中ではあるが、逃げ出すかのように家に走っていった。


――

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