096話 あの時
すみません、帰省と繁忙期で全然更新できておりませんでした。
今日から再開します
「アレク、クリス…ウィルも。」
転移させられた場所には満身創痍のウィルもいた。
「ししょー…なんとか…かてたぁ……」
「あぁわかってる。よくやったな、良いから寝てろ。」
ウィルの身体はあちこちに明らかに重症と思われる傷があった。それを見るだけでも相当な激戦だったのが見て取れる。
正直に言うと、ウィルは俺かアレクが援護に入る必要があるかな、と思っていたから単独で撃破できたというのは正直に凄いと思っていた。
「(強くなったんだな。弟子なんて持ったことなかったけど、これが師匠として感慨深い、ということなのか。)」
内心初めての感情に戸惑いつつも、今度はクリスが話しかけてくる。
「ごめん、あたし…本当にごめん…サラのことも……」
「戻ってきたんだな。最悪、クリスを手にかけなきゃいけないかと…」
「はいはい、報告も謝罪も後にしてくれるかな。今は目の前のバケモノをなんとかしないと。」
俺とクリスはアレクに促され、急ぎバロックの方を見て刀と剣を構える。
「一つお尋ねしたいんだけども、あれは"瘴気"で間違いないかい?」
「おそらくは…奴が言うには今までの身体は"殻"だったとか。あれがあいつの新しい本来の身体だそうだ。」
「…バロック。ホントに人間離れした感じね。操られてた時の記憶がないから初めて知ったわ。」
俺の言葉を聞き、アレクとクリスは互いに苦そうな顔をした。
「僕の理論上では可能だったと思うんだけど、まさか実用化に成功してるとはね。あのオルドとかいうの、思った以上に優秀だったみたい。でもそうなると、今のアイツにダメージを与えるのははっきり言ってかなり困難だと言わざるをえないかな。」
「どういうこと?」
アレクが少し考え込んでクリス問に言いにくそうに答える。
「なにせ身体が"瘴気"だからね、物理攻撃はまず効かない。魔法攻撃も同様。効くとすれば上位の浄化魔法、つまりは光魔法か破邪の特性を持った武具じゃないと無理だね。光魔法なんて使えないだろ?破邪特性の武具なんてのも…」
「あ、俺の刀、破邪特性持ってるらしいよ。バロックが言ってた。」
何の気なしにそのことを伝えると、アレクが目を見開いて驚いた。正直、破邪特性が何なのかは全くわからないが、奴自身が言っていたのだから間違いないだろう。
「なんともまぁ…だとしたらその刀でダメージを与えることは可能かな。まぁ僕らは……」
「あたしたちには何も出来ないの!?ただ見てるだけ!?」
バロックに操られていたこともあり、クリスも戦いたいのだろう。
だが、自身の攻撃は意味を成さず牽制にすらならない、その事実を理解しているからこそ打開策を欲しているのだろう。
実際問題として俺一人でバロックに相対するのはかなり厳しい。というか無理。奴の攻撃を受け切るので精一杯だ。
クリスが参戦してくれるなら勝機はあるが…
「…………」
アレクはかなり考え込んでいる。方法を探している、という表情ではない。方法を知っているが言おうか言うまいか迷っている、と言った感じの表情だ。
不意にアレクが俺の方を見る。
その目は今まで見たこともない、とても穏やかで、それでいて何かを諦めているかのような瞳。
予想外に引き込まれそうなその瞳に、一瞬得体の知れないモノが胸に去来してしまった。
「……信じてるよ。あの時に言ってくれた台詞。」
「………は?」
何を言っているんだ?あの時?
「クリス、剣を僕の方に突き出して。」
「え?こう?」
俺の疑問に答えず、クリスに指示を出す。クリスはアレクに言われたまま黒鉄の剣をアレクに向かって突き出す。
そして次の瞬間。
「な!お前!」
「ちょっと!!」
アレクは自らその剣を自身の胸に突き刺した。
「っつぅ!黙ってて!!」
その真剣な表情に俺たちは気圧されてしまい、アレクのしたい様にするしかなくなってしまう。
「はっはっはっ……」
短く呼吸をするアレクの表情からは、どんどん生気がなくなっていくのがわかる。
間違いなくこのままだと死んでしまう、そんなものはわかりきっている。だが同時に、アレクが何かをしようとしているのも本能的に理解してしまう、だから止められない。
「はぁぁぁ……………っ!!」
一つ大きく息を吐き出したかと思うと、今度はアレクの身体が光出す。その光はどことなく俺の刀の光と似ていた。
強い光なのに眩しくなく、ほんのりと青みがかった光。
少ししてその光が治まってくる、それと同時にアレクが自身の胸から剣を引き抜く。
「ふぅ………終わったよ。」
何をしたのか全くわからないが、アレクの額には大粒の汗が吹き出ておりかなりの集中力を削ったのが見て取れた。
いや、だが、それより
「お前…さっき胸に剣が…」
そう、大量の汗をかいているが、アレクは生きているのだ。確かにさっき心臓の位置に剣を突き刺したはずなのに。
「……それに関してはまぁ後で説明するよ。それより、その剣には君のと同じように破邪特性が付いているはずだよ。」
アレクは詳しい話もせず、クリスの剣を指差してそんなことを言う。
いや、そんな馬鹿なことが…
「………わかる、なんでかわかんないけど、今までと違う。剣が強くなったとかじゃなくて、何か、別の何かが…」
その言葉を裏付けるかのようにクリスが呟く。その手に握られている黒剣は、俺の刀と同じように淡い光を放っている。違う点と言えば俺の剣は意思を持っているかのように瞬くが、クリスの黒剣は常に一定の淡い光を放っている。
「破邪特性…」
【------】
俺の呟きに答えるように刀が意思を伝える。内容としては『その通り』と言った感じだ。
信じられないが、さっきのアレクの行動でクリスの剣に破邪特性が付いたようだ。
一体何が……
「これでなんとか戦えるかい?悪いけど今のでかなりの力を使っちゃったからさ、後は任せていいかい?」
そう言うアレクは、確かに少し青い顔をしていた。まるで何か大きな力を出し切ったかのような。『気配察知』でも今まで感じていた何かが抜け落ちている印象だ。
それだけ力を出し切ってしまったんだろう。
「原理は分からないが、助かった。ありがとう。」
「うん、これで戦える…アレク、ありがとう。」
「…この世界に来てから百年以上経つけど、やっぱり感謝されるってのは慣れないね。」
そう気恥ずかしそうにそっぽを向くアレクは、今までの皮肉っぽさは全く感じられなくなっていた。
「さて。何でか知らないけどこっちの準備が整うまで待ってくれたバロックさんにお礼をしないとな。」
「そうね、村の人達の分のお礼もしないと。あとついでにあたしを操ってた分も。」
俺とクリスは互いに刀と剣を構え、バロックに意識を向ける。
当のバロックは…
「…………」
身体を覆う瘴気が更に濃くなり、最早人間の形を保っておらず、まさにバケモノと呼ぶに相応しい形相になっていた。
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