090話 ウィル対オルド(後編)
ちょっと長め
※前回分と合わせて、タイトルを前後編に変更しました
オルドは困惑していた。
「(何をやっている?いや、何をやっているかはわかるのだが)」
自分とて、それなりの実戦経験はある。
サンプルのような近接格闘タイプの者とも何度となく戦ってきた。その者たちと比べると何ら特徴のない、苦戦する要素もたいしてない、俗に言う雑魚だ。
事実、奴はこちらの『サークル・サンダーソード』の罠に簡単に引っかかった。しかも防壁を展開することもなく、ただただ身体を丸めて耐えただけ。
そんな雑魚の中の雑魚が…
「(いくらなんでも、石つぶてとは…)」
奴はこちらにその辺の石ころを投げつけているのだ。
兵士や騎士、いや、戦士であってもマトモな神経をしているのなら、そんな恥ずかしい攻撃方法など取れない。これではまるで子供の遊びだ。
とはいえ、奴の身体能力で投げつけられる石は、生身で受ければ致命傷になりかねない威力、完全に無視するのは危うい。
「(バロック様の獲物を師匠というくらいだからそれなりを期待したのだが、とんだ期待はずれだな。やはりサンプルとしてさっさと片付けるか)」
オルドが少し大きめの魔法を放とうとした時、ウィルは側にあったウィルの身体ほどもある瓦礫を持ち上げた。
「な!?」
「せーーーーのっ!」
人間大ほどある瓦礫。それは重量にして百キロを軽く越えるだろう。
自分の魔法のせいもあるが、地面はそこら中ボコボコになっており、中庭の目玉である白亜のベンチもただの瓦礫になっていた。
そんな中の一つを軽々と、ではないが獣人の子供が持ち上げ投げつける、異様な光景としか言いようが無い。
「いいかげんにしろ!サンプルがぁ!!」
手に込めた魔力を『アースボール』に変換して、ウィルが投げつけてきた瓦礫にぶつけ相殺する。
瓦礫と土の固まりがぶつかり合い、二人の中間くらいではじけ飛ぶ。
それに隠れて見えなかったが、ウィルは次弾を拾い上げ投げる姿勢をとっていた。
「っ!」
「もーいっこ!」
同様に投げつけられる岩の塊。
それはまっすぐオルドを目指して飛んで来る。
「(まずい!!)」
何度も言うが、ただ瓦礫を投げつけるだけではなく『巨大な固まりが高速で』迫ってくるのだ。
そんなものを『生身』で受けたら、間違いなく即死だ。
------ゴンッ!
投げられた瓦礫は、まるで硬いものにぶつかったかのようにオルドの直前で砕けた。
理由は簡単、オルドが単純な魔力で急遽、防壁を作りだしたのだ。
魔力による防壁、これは魔法でもスキルでもない、単純な魔力の固まりを自分の周り、もしくは身体の指定箇所に展開するものだ。
基本的にただの魔力というものは空気中に霧散する、それを一時的にではあるが自身の周りに纏わせ壁とする。
魔法で防御するよりも効率が悪い上に、耐久性も効果時間も短いため、本当の緊急時に一時的にしか使われない。
「……貴さっ!?」
「どんどんいくよー!!」
「クッ!『アースウォール』!!」
ウィルは更に瓦礫や岩をその辺から拾い、引き剥がし、引っこ抜き、オルドへと投げつける。
「クソッ!崩れる!『アースウォール』!!」
物理攻撃への一番簡単で高速な防御魔法、それが『アースウォール』。
土魔法という、基礎魔法で一番『物質』として頑丈で、中級なのでそれなりの魔術師が使えば瞬時に発動できるのが理由だ。
故にオルドは『アースウォール』を連続で使い続ける。
そしてそれは、自らの『致命的な弱点』を証明することにもなってしまった。
-------バガッ!
「クソッ!クソッ!クソッ!!!」
発動したばかりの目の前の土壁が崩れ、すぐにまた魔法を使おうとした、その時。
「な…んで……」
「師匠とサラ姉ちゃんの言った通りだ。」
崩れた土壁の直ぐ目の前、距離にしてオルドから前方一メートル
そこには、いないはずの銀狼がいた
「………獣拳・疾」
そして、例えシンでも見えるか見えないか、それほどの速度でウィルの両拳から技が繰り出され、オルドの身体は後方へと吹き飛ばされた。
「はぁ…はぁ……っし!やっと一発!!」
ウィル自身も全身に軽くない怪我を負っているが、フラフラになりつつもガッツポーズを取る。
そういった部分はまだまだ子供だ。
「…………ブッ……ゴホッ!」
二メートルほど吹き飛ばされたオルドが、喀血をする。
受けた攻撃は一発、しかもウィルの持つ技の中では、かなり威力が低い技。
それでも一目見ただけで、肋骨、肺、他の内臓もいくつか破壊されているのが理解できる。
その理由は
「おっちゃん、やっぱり『肉体強化魔法』使えないんでしょ?」
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時間は、帝国に入り五人が合流した直後ほどまで巻き戻る
「ウィル君、そう言えばあの時の技、確か…『獣拳』?だっけ?あれって何?」
俺と軽い組手をしているウィルに、サラが何の気なしにそう尋ねる。
「なんだそれ?」
「それはぼくの一族の技っす!」
聞けばウィルの一族秘伝の技らしい。『獣拳』、自分の身体の中の『気』を相手へと叩きつけることにより、内部から破壊する技だそうだ。
「へ~…だからアームドグリズリーはお前から学んで『気』みたいなの使ってたのか。」
「押忍!」
いや、自信満々にされても。全く褒めてない。むしろお前のせいであいつら強かったんだぞ?
「…それ、俺が教わってもいいか?」
もしそれを使えるなら、うまくすれば色々応用が効くかもしれない。
「す、すみません…いくら師匠の頼みでも、一族秘伝をお教えするわけには…掟を破ることに…」
ふむ。確かにそうだ。
「いや、大丈夫だ。一族秘伝を教えてくれって言った俺が無遠慮だった。」
「で、でも!技をお見せすることはできるっす!」
もしかするとそれを見れば、俺のスキルで原理を理解して使えるようになるかもしれない。
そうすれば俺が『見て盗んだ』って事になるから、ウィルが掟を破ることになはらない。屁理屈かもしれないけど。
「ほんとか?なら見せてもらえるか?」
「お、押忍!でも、ぼく下手くそだから二種類しか使えないっす…」
少な!で、でもまだ子供なことを考慮すれば…
「まず、コレが獣拳・爆」
そう言うとウィルは若干タメをし、岩に向かって両拳をぶつける。
すると、岩はまさしく『内部から』爆発したかのように破裂した。
「これはタメが大きいけど、威力は見ての通りっす!確か、硬さは関係ないって聞いた記憶が…」
「まぁコレを見れば大体は。なるほど、対象の内部に『気』を送って送った『気』を暴発させるのか。」
これは俺のスキルで理解できた範囲だった。
うん、俺は使えないな、そもそも『気』が使えない。
「さすが師匠!一目見ただけでわかるなんて!」
ウィルの純粋な尊敬の目が心に突き刺さる。す、すまない…
「も、もう一個の方は?」
「あ、はい。もう一個はコレです。獣拳・疾」
今度は一切タメがない、それどころか技名を言い終わった頃には技が終わっていた。
え?よく見てなかったけど…俺が見逃すほどの速さ?
技名的には、確実に速さ優先なのはわかるが、そこまでとは。
「見ての通り、すごく速いっす。でもその分、威力は微妙…」
見ると、先程、獣拳・爆を使った方と同じような大きさの岩の破壊が、全体に細かい亀裂が入り一部崩れている程度にとどまっている。
スピード重視で、威力はそこまでではない、ということか。
それでも、鎧の上からかなりのダメージを与えれそうだが。
「そ、そうか…見せてくれてありがとう。にしてもお前、ホントに近接戦闘しかないんだな。」
それでも、持ち前の素早さを駆使して、ヒット・アンド・アウェイを使用すればそれなりの強さなのはわかっている。
だが
「うーん、ウィル君は魔術師が天敵ですね。」
「……お、押忍……」
意外にもサラが歯に衣着せぬ言い方でウィルに致命的な弱点を突きつけた。
「ならサラだったらどうやって倒す?」
「……近付かれる前に、魔法の連発で仕留めます。私の魔力量ならギリギリ尽きる前に倒せるかも。」
「サラより魔力量が多い奴が相手だと?」
「一概には言えませんが、ウィル君はなぜか魔法耐性が若干高いですから、ダメージ覚悟で突っ込んでって格闘戦に持ち込めば、或いは。」
なるほどね。無理矢理自分のフィールドで戦うわけか。
「あ、あと、コレはあんまり言いたくないですけど…」
「な、なんすか!?」
更なる弱点を突かれるのを想像したのか、ウィルが泣きそうだ。
「あ、ウィルくんがどうこうじゃなくて。魔術師って、実は『肉体強化魔法』がそんなに得意じゃない人が多いんですよ。理由として、肉体強化、と銘打っているので、そもそもの身体が貧弱だと強化してもそれほど強くならないですし、だいたい魔法で片付けてしまうので…肉体強化魔法を練習する人や、筋骨隆々な人ってのが少なくて…」
サラが少し言いにくそうに、且つ恥ずかしそうにそう話す、つまり
「サラも同じ、と。」
「………はぃ」
俯いて顔を真赤にする。
俺達の中で一番魔法の扱いが上手いのに、魔法アリで走るとめちゃくちゃ遅いもんなぁ。
「わかってるんです…身体をほとんど鍛えなかったので、そのせいでご迷惑をお掛けしていることは…」
「いやいや、別に迷惑だなんて。」
「師匠の言う通りっす!サラ姉ちゃんと戦ったら、ぼくなんて手も足も出ないし!」
ウィルのはあんまりフォローになってないな。
「とにかく、魔術師と戦う場合は、無理矢理にでも近付く。それが第一歩ってことか。」
「あんまり褒められた戦い方じゃないですけど、そのへんの石ころとか岩とかを投げて牽制しながら近付くのが賢明かと。」
「押忍!魔術師と一対一になったらそうするっす!ってことで、サラ姉ちゃん、組み手してください!」
ウィルは正直で素直だ。自分の欠点をしっかり直そうと、人の意見をしっかり取り入れようと、いつも必死だ。
間違いなく強くなる、そう遠くない未来に。
「え、えっと…いいけど………あんまり大きい岩とかはやめて…ね?」
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「…………なぜ……俺が…肉体強化…魔法を……」
「使えないと思ったか、ってこと?」
オルドは息も絶え絶え、まさに虫の息。
対するウィルも、実はかなりヤバイ状態だ。クリスに切りつけられた傷は塞がってるが、その時に失った血と、オルドとの戦いで流した血、決して少ない量ではないのだ。
「何度か、石投げたり岩投げたけど、おっちゃん、少し避ければ簡単に反撃できたのに、全部わざわざ魔法で撃ち落とすんだもん。」
ウィルの足元がふらついている。
「最後の岩だって…肉体強化魔法で、横に避けて躱せば…ぼくのこと見失うことも…なかったしょ…」
「そう…か……そんな…ことで……」
倒れているオルドの腕が、震えながら上がる。
その指先には魔力が宿っていた。
「やめたほうが…いいよ…死んじゃうよ…」
「あぁ……どう……せ……も……」
そう言った瞬間、オルドは口から大量の血を吐き出した。
ウィルの最後の一撃、獣拳・爆と比べて弱い威力でも、それは肉体強化を使ってない生身の人間が受けるには、あまりに威力が高かったのだ。
そして、内臓分の血液を吐き出したかと思うと、段々とオルドの瞳から光が消えていき、腕が落ちるのと同時にその瞳から完全に光が消えた。
「………」
ウィルは何も言わない。
自分が殺した、その事実を受け止めるには幼いかもしれない、だが弱肉強食の世界では、殺さなければ殺される世界では罪悪感なんてものを持つだけ無駄だった。
「……?」
そんな時、ふとウィルに違和感が生まれた。
「(さっきのおっちゃんの指先……ぼくを狙ってたというか、ぼくの上を指差してたような……)」
そしてウィルは自分の頭上を見上げる、いや、見上げてしまった。
「うそぉ………」
その言葉と同時に
空中に作られていた
無数の鉄剣が
ウィル目掛けて
落下してきたのであった
お読みいただき、ありがとうございます!
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