091話 アレク対クリス(前編)
連休前は仕事が山積みで…すみません…ペースあげます…
無機質な剣の応酬
お互いに思うところはほぼない
一人は心を封じ込められ、一人はそもそも興味を持ってない
「やっぱり強いね。」
「………」
「うーん、ここまで反応がないとどうしていいものやら。」
今、アレクの手にある剣は以前にシンと戦った赤黒い剣ではなく、特に何の変哲もない剣。あれは魔力消費が激しいため、封印状態から解放された直後では扱うのに少々苦労する。
「いや~、僕も弱くなったと思うけど、クリスも強くなったよねぇ。僕とシンが戦った時のシンくらい強いんじゃないかな?」
「……………」
「無視されるのはあんまり好きじゃないんだけどねぇ。」
クリスは一言も発せず、表情も変えず、ただただ目の前の敵に冷たい殺意を向けるのみ。
人格がない、いや、感情がない。バロックの言い方だと、術者から距離を取れば効果が弱まる、だけど『空間固定』が発動されているので、この中庭から出ることはできない。
かといって、考えなしに戦っても今の自分だと正直勝てる気がしない。
「(時間がたてばたつほどこっちが不利、単純に僕の力が持たない。)」
アレクは内心かなり焦っていた。
自分は封印を解除してもらった、それ自体はいい意味で予想外だった。
そして『シンたちを連れて』逃げようとしたのだが、悪い意味で予想外に『空間固定』を発動されていた。
「(万が一の可能性を考えて、逃げれないようにしたのか。あのオルドって奴、結構切れ者かな?)」
事実その策は腹が立つほど的確だった。
アレクの力が戻ったといっても、今この時に限った話だが、厳密にはほとんど力は戻っていない。
理由は、封印状態が解除されても魔力までは戻らないし、戦闘時の勘や鈍った体の動かし方等が瞬時に封印前まで戻るわけではないからだ。
魔力に関して言うと、五割ほどしか回復していない。
「『アイスショットガン』!」
水魔法を変化させた氷魔法、それを小さい粒にし散弾銃の如く放つ魔法。
元の世界の知識を元に発想したオリジナル。
無数と思える氷の小粒、それを自分に当たるもののみ器用に叩き落とすクリス。
「うわぁ、剣技はもう完全に上回ってるね。」
だが別にそれを防がれることは織り込み済みだった。
「『転移』」
クリスの隙が出来たのを見計らい、死角に『転移』し斬りかかる。
アレクにとってクリスを救う義理などない、それ故に本気の、殺すつもりの一撃を繰り出す。
が
------ギンッ
「………」
「コレを防ぐかい!」
クリスはこちらを一切見ずに、剣だけでこちらの攻撃を防ぐ。
「ほんと『気配察知』を使われると、こっちもかなりやりにくいなぁ。」
クリスに以前の記憶というか、戦い方ができるのかは分からなかったが、これまでの幾つかの応酬により、クリスが本気の場合の、だいたい八割り程度の強さだということがわかった。
しかも、それに加えてある程度のスキルも使える、少なくとも今の動きから『気配察知』は使えるようだ。
「(こっちは病み上がりに魔力切れ…飛車角落ちってところかなぁ)」
なんとも日本的な感想が思わず漏れてしまう。
アレク自身は、自分をそれほど強いとは思っていない。『転移』スキルという、異世界モノで定番であるチートスキルを使えるから、勝てない戦いは逃げてきたのだ。
それでも紛いなりにも魔の大陸で生き抜いてきた自負はあるし、自身が勇者候補だからかなりステータスが高いこともわかっている。
ではなぜ自分が弱いと思うのか。
それは自分自身の実戦経験、もっと言えば自分よりも強い相手との殺し合い、という点が致命的に足りていないのだ。
普通に戦う分には、『転移』スキルと勇者候補としてのステータスでゴリ押しできる。
だが、強者との戦いにおいてはそんなものは通用しない。
一瞬の判断ミス、一瞬の選択ミス、ほんの少しの経験の差、それが勝利に大きく影響することは知っている、そしてそれが自分に足りないことも。
「って、あぁ、魔力でガワだけ造った剣じゃこの程度か。」
見るとアレクの手元の剣は、刃こぼれしてボロボロになっている。
そもそもの剣技がクリスのほうが上手、更に剣のスペックもまるで及ばない。むしろ数合打ち合えていたのが奇跡だ。
そして、それは今のアレクの状況から言って、あまりいいことではなかった。
「魔力は心許ない、相手は剣技も強い、武器もたいしてない、更にこっちのスキルは直接攻撃系じゃない、魔法も通じない。なんだ、飛車角落ちじゃなくて、詰んでるじゃないか。」
自嘲気味に笑ってしまう。
謙遜でもなんでもなく、冷静に戦況を分析したらこうなったのだ。
他の人が相手を片付けて、こちらに助けに来てくれるのを待つのが一番かな?などと消極的なことを考えていた時
「………して」
「ん?」
声のする方、クリスを見ると、黒剣が小刻みに震えていた。
「ころ…して……」
操られているクリスから、予想外の声
そしてその表情は、先程までとは異なり苦悶に満ちて、今にも泣きそうな顔をしていた。
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