035話 アレク
うまくかけないいいいいい
こんな時間になってしまっているうううううう
「下がってろ。」
だいぶぶっきらぼうにサラとクリスに指示を出す。
悔しそうな表情をしたが、かなわないのがわかったのだろう、素直に下がった。
俺も気が立っているな、普通はもう少し優しく言うんだが。
「君一人かい?」
「そっちもお前とそのブサイクな犬っころだけでいいのか?」
キメラと真正面から対峙する。
恐らく、あのキメラには理性とかは殆ど無いんだろう。
瞳には暴力的な炎が宿っており、アレクの指示しか聞かないようだ。
「殺せ。」
その言葉のとおりにキメラが目にも留まらぬ速さで襲い掛かってくる。
あの巨体からは想像できないスピードだ。
魔法でもなく、尻尾や爪でもなく、そのアギトで俺を食いちぎろうと襲い掛かってくる。
だが
俺の一歩手前で急停止した。
その瞳には、先程まではなかった色が浮かんでいた。
『恐怖』
言葉にすれば一言、時間にしても一瞬、だがその一瞬が全てを分ける。
「どうした?来ないのか?」
なんのことも無い一言、そんなものが死刑宣告に聞こえる。
なぜかはわからない、だがキメラの本能が告げる、殺される、と。
だがそれを認めるには、キメラは若すぎた。
生み出されてからわずか二ヶ月程度
その後も改良に次ぐ改良により、他の魔物とは比較にならない力を得た。
従うは己の創造主、それ以外は塵芥。
大した知能も持たず、創造主の名に忠実に従う。
そんな獣に理解しろと言うのは酷であり、無茶な要求であった。
一瞬止まったキメラは、迷うを振り切るように俺に再度襲いかかってきた。
速いし強力な一撃だ。
並のやつなら防御もできずそのまま切り刻まれるか圧死するか、どのみち命はないだろう。
だが俺なら…
「……」
次の瞬間、見ていた者が目を塞ぎたくなるような衝撃が走り、俺は奴の爪を刀で受け止めた。
俺を中心に広がる地面の亀裂が、その衝撃の強さを物語っている。
俺は受けたままの爪を力任せに押し返し、そのまま反撃に転じた。
「せーのっ!」
右下から切り上げる。
かなり力を込めた、多分この戦争で一番。
恐ろしいほどに硬いと思われていた体毛をあっさりと切り裂き、その刃はキメラに肉まで到達した。
「グルァァァァァァァ!!!」
おそらく生涯初の痛みだろう、キメラは聞くに堪えない絶叫を上げる。
「うるせぇな!前足の一本や二本!!」
悪態をつきながら俺は飛び上がった。
そしてそのまま首を切り落とそうと刀を振り下ろす。
---ギンッ!
直前に先ほどの魔法障壁と思われる陣が展開され、刀が弾かれた。
生身では防げないとわかり、障壁を貼ったか、馬鹿ではないらしい。
「こんなもん!」
その障壁を踏み台として、更に高く飛び上がる。
それを追って、キメラの五匹の尻尾蛇が襲い掛かってくる。
それを無詠唱の『サンダージャベリン』で撃退し、さっきよりもずっと力を込めて刀を振り下ろす。
「ぅおりゃ!」
魔法障壁はガラスが砕けるような音をして砕け散り、俺の刀はキメラの背中を深々と切り裂いた。
「ガアアアアアア!グゥルアアアアアアアア!!」
「さっきよりうるせぇな!」
至近距離でこうもやかましく鳴かれると堪ったものではない。
「へぇ、一応戦えはするんだね。他の二人は手も足も出なかったのに。」
アレクが奥から余裕の表情で声をかけてくる。
?こいつ何言ってんだ?
「は?戦えてるって、当たり前だろう。」
「そうかい?結構ギリギリだと思うけど。」
………あぁ、こいつ余裕すぎて気づいてないのかな。
変わらずのムカつく笑みを浮かべるアレク。
「お前さ、俺達がここまで強いとか思ってなかっただろ?」
戯れだが少しこいつの鼻を明かしてやろう。
「俺とクリスのことにしてもそうだ、最初お前は『邪魔者』って言ったよな?
てことは俺達は、最初お前の計画にはなかった存在なんだ。」
刀を振り回して弄ぶ。
「それにサラの件。
お前はそろそろ本格的に邪魔になってきた俺たちをサラを使って消そうとした、だけど失敗した。
まぁ、そこまではお前も楽しめる程度にいい障害だったんだろう。
魔物の軍勢が物凄い数がいるからな、街を襲うついでに俺たちも一緒に殺せるとか思ったんだろう。
だけど開戦直後、俺の魔法が予想を遥かに超える損害を、魔物の軍勢に与えた。」
少し力を込めて握る。
「そこでわかっとくべきだったな、俺たちをなめちゃいけない、最大限に警戒しなきゃいけないって。
でもお前は勘違いをした。『自分が出て行って本気で戦えば、こんな奴らたいしたことない』って。
お前みたいな奴、よく知ってるよ。」
刀を下段構えにする。
「そして今も舐めきってるだろう、俺がこのキメラに勝てないって。
他の仲間がなにもしないでこの戦いを見てるだけだって、勝手に思ってるだろう?」
そこで何かに気付いたのか、アレクがサラをクリスの方を向く。
「?何をして……」
「あぁ、ちなみにもう遅いぞ。時間稼ぎも十分だったしな。」
そして俺は一気に力を解放する。
溢れでた力にキメラもアレクも一切動けないでいた。
神速でキメラとの間合いを詰め、解放した力を全て刀に乗た。
そのまま一気に下段より全力で斬り上げる。
特にスキルでも技でもない、ただの全力の斬撃。
その一撃を受けたキメラは、今度は叫び声一つ上げず、静かに絶命した。
「……は?」
アレクは目の前の事態が一切理解できていないようだった。
「わかったか?キメラもお前も、純粋な戦闘力で言えば俺の敵じゃないんだよ。」
俺は『成長促進』により、本来の成長スピードではない。
初めてアレクに会った、あの死にかけの状態と一緒にしてもらっては困る。
今俺に出せる最大級の殺気をアレクに直接ぶつけながら話す。
その殺気と今の一撃で、俺の強さが部分的にわかったのかアレクが後ずさりする。
「……くっ!今回は一旦…」
「さっきの話聞いてたか?このまま逃がすとでも?お前が転移のスキルだか魔法だかを使えるのに、対策もせずのんびりしてるとでも思ったのか?」
そこでやっと気付いたようだ、『転移魔法が使えない』ということに。
「な!なんで!」
「俺もよく知らないけどさ、『空間固定』の魔法を使えばスキルでも魔法でも転移を防げるんだとか。」
「それくらいは知っている!いつそんなものを使ったのかって……!?」
「お前が余裕ぶっこいてる時だよ。」
そう、アレクと戦う際に転移魔法が一番厄介だった。
恐らくそんな好き放題は使えないだろうが、最後の手段としていつでも使えるようにはしているだろう。
追い詰めても逃げられては意味が無い。
そう考えて、転移魔法・スキルの対策をサラとマキシム聞いていたのだ。
結果、『空間固定』の魔法を使えば可能、だが発動に時間が掛かる上に空間を固定するため、良くも悪くも空間からは逃げられない、とのことだった。
助けにも入れないし、中からも出れない。
だがそこは俺達が押し通した。
「あいつは死んでも俺とサラが倒す。」
「えぇ、絶対にあいつを逃しはしない。」
最終的に、キメラなんてもんが出てきてこれが予想外にサラもクリスも刃が立たなかったもんだから、流れ的に俺が一騎打ちの形になっただけだ。
その隙にサラが『空間固定』の魔法を頑張って張ってくれてたわけだ。
「さぁどうする?さっきみたいな転移系の魔法も使えないぞ?」
「……いい気になるなよ……」
アレクの口元がどんどん歪んでいく。
「お前は最大の障害だったってわけか。認識を改めるよ。」
「もう遅いっての、こっからどうやって……」
そう思った瞬間。
「お前も僕を舐めているようだな……」
今までとは全く異質の"剣気"を感じる。
「お前…魔法だけじゃないのかよ…」
「……お前と"同じ"なんだよ…」
そう言ってアレクはローブの下から赤黒い剣を取り出した。
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