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選択結果は異世界でした  作者: 守月 結
21/103

020話 胎動

0時に間に合わなかった…

---コッ、コッ、コッ…


完全に闇に閉ざされている廊下に、無機質に床を叩く音がする。

それ以外の音はしない。

音どころか生物の気配もしない。

だが、息遣いが聞こえる。

それも複数。

矛盾であり不自然。

だがここではそれが正しく、自然である。


---コッ、コッ。


音が止まる。

と同時に扉が開く音がする。

床を叩く音は、何か柔らかいものを踏みしめる音となり、開いた扉の中に入っていく。


「やぁ、調子はどうだい?」


「いい感じだぜ。」


気軽に声をかける中性的な声。

それに答える憮然とした声色。

知り合いにしては距離感が近く、友人にしては遠い。

二人の関係性を判断できない。


「八割位かい?」


「いや、回復しなきゃいけなかったから未だに五割がいいとこだ。坊主があそこまでやるとはね。」


「だから言ったじゃないか。"新しいのはそのくらいだよ"って。」


「あぁ、両方とも"そのくらい"だったな。」


何度も言った事を反復するような、呆れるような声だ。

答える声も聞き飽きたかのようにうんざりしている。

だがイライラとまでは行かないようだ。

この二人の部分的な信頼が窺い知れる。


「で?ソッチの方はどんぐらいの進行度なんだ?」


「今のところ順調。計画の七割は通常消化出来てるよ。」


「へぇ…じゃぁもうすぐじゃねぇか。」


「そうだね、次の段階から派手になるよ。」


「そうかい。俺は完全になったらまた出ていこうかね。それまでは観客って立場で楽しませてもらうよ。」


そう言って憮然とした声の主は眠りに入ったようだ。


「おやすみ…きっと次に起きたらもっと楽しいことになってると思うよ。」


中性的な声の人物が悪戯っぽく答える。

それを合図に扉が閉まり、また廊下に足音が響いた。


---コッ、コッ、コッ…


「いやはや、楽しみだなぁ。邪魔者はいたけど、ああいうのも無いとやっぱり楽しくないよね。」


---コッ、コッ、コッ…


「スパイスっていうの?ほら、全てがこっちの筋書き通りっていうのも面白くないじゃない。」


---コッ、コッ、コッ…


「君たちもそう思うでしょ?」


誰に向けての言葉なのか。

だが、複数の息遣いが息を呑むのが感じ取れた。

おそらく自分たちに言っているんだろう。

そう、息遣いの主たちは感じ取った。

それが理解できたのか、声の主は口元に三日月のような笑みを浮かべた。


暗闇の中で、紅い"二つの"三日月だけが光っていた。




********************


「限度がある!!!」


ギルドの会議室に女性の叫び声が木霊する。

声の主は僕のパーティーメンバーです。


「いや…ほんと…すみません…」


壮年の男性、ギルド長たるローレンスさんは額に汗を流しつつ謝罪の言葉を投げかける。

俺たちが異例でCランクに昇格し、ギルドから低ランクの冒険者では難しいとされるクエストをこなすこと一ヶ月。

こなしたクエストの数は優に二十を超える。

おわかりだろうか?

こっちの世界の一ヶ月は全て三十日だという。

つまり三分の二をクエストに費やしてることになる。

だが、一日で終るクエストなどそうそうない。

それでも(主に俺の)規格外のステータスで高速でクエストをこなしているのだ。

いや、それが良くなかったのかもしれない。

ギルドからのクエストは加速度的に増えていった。


「流石に俺たちも、特例としてCランクにあげてもらったんで恩返しの意味もあって、頑張ってこなしてきましたよ?」


「いや、もう、ほんとに…そのことには感謝を…はい…」


「でもね、この数は異常でしょう。もう一ヶ月働きっぱなしですよ?」


この件には微妙に関係ないが、最初の一週目で功績が認められBランクに昇格した。


「聞いたら、『あんた達がいるならここは大丈夫だな!俺達もガイレン山脈に行くわ!』って残ってたCランク以上のパーティーもいなくなってるじゃないですか!」


「すみませんすみません!!」


そう、そのせいで俺達がやらなきゃいけないクエストが増えている、異常に。マジで異常に。


「明後日!明後日に王都から軍が来るから!それまでです!」


受付のお姉さんも必死になだめてくる。

クエストの依頼主からも詰められているんであろう、必死だ。

どう頑張ったって俺たちは身体が一つしか無い、故にクエストも一つずつしかこなせない、後回しにされるクエストも多い。


「明後日までですよ!それ以上は好きにやらせてもらいます!!」


クリスがそう言い切って、今回のクエストの書類を鷲掴みにし部屋を出て行く。

いや~、クリスさんマジパネっす。

相当イライラが募ってたんだろうなぁ。

一ヶ月休み全くなしってのは…ちょっとねぇ。


「ほんとこき使いすぎ!あたしらだってやることあるんだっての!!」


この一ヶ月、俺たちはひたすらクエストをこなした。

その御蔭で強くなれたし金も貯まってきた。

同時に情報も集めていった。

まず、バロックさんのことを知っている人に片っ端から話を聞きに行った。

だがクリスが知っている以上の情報は得られなかった。

次に黒ローブの人物について聞いて回った。

しかし、黒ローブを着て、中性的な声で、転移魔法が使える人物、こんな程度の情報ではそこから何も広がる様は話はなかった。

それほど時間を掛けれなかったとはいえ、全く収穫無しという残念な結果だった。

そのせいもあってクリスがイライラしているんだろう。


「仕方ないよ…そもそもの情報が少なすぎる。」


「…そうよね。」


「でも明後日には王都の軍が来てくれるんだから、そこからもうちょっと詳しく調べて…」


でもきっとほとんど情報はないだろうなぁ。

そう思った時。


「そう言えば…バロックって、昔は王都の軍にいた事があったって聞いたことが…」


ん?俺もバロックとやりあってる時に、王都の衛兵が云々って言ってたような…


「もしかして、軍の人に聞けばなにかわかるんじゃ。」


「それもだし、いっそ王都に向かったらどうかな?ここよりバロックの情報も、黒ローブの情報もあるかもしれないじゃない。」


確かに。

もしかするとお尋ね者としているかもしれないし、人が多い分情報もたくさんある可能性があるな。


「そうと決まれば、まず明後日まで乗り切って、軍の人に軽く話を聞いて王都に向かうってことにするか。」


「それが一番ね。」


ここでいつまでも調査してても仕方ないだろう。


「それより…差し迫った問題として、この束を片付けないとダメね…」


クリスが紙束をめくる。


「…『キラービーの異常繁殖の原因調査と巣の壊滅』『グレイグリズリーの討伐』『鉱山で出現したキメラモドキの討伐』『疫病の治療』…ってこれ、あたしらも魔法たいして使えないから最後の依頼無理じゃん!」


ローレンスさん…マジで切羽詰まってるんだなぁ。

こういう、俺達ではどうすることもできないクエストは他に回してもらってるんだが…そのチェックすらおぼつかないのか。

俺たちにできるのは『討伐』『採取』と言った力でなんとかなるクエストばかりだ。

パーティーとしてかなり偏っている。


「…魔術師…僧侶…パーティーに入れないとダメだよなぁ。」


そんなことをつぶやいてしまった。

このままだと何処かでぶつかるだろうし。


情報もたいしてない、休みもない、パーティーメンバーも少ない、先が思いやられるなぁ。




********************


それからまたしても二日間。

俺たちはクエストをがむしゃらにこなした。

そして約束の日。

クエストを終えてギルドに向かうと。


「待ってたわ!ささ、こっちに!」


受付のお姉さんが急いで俺たちを奥に招く。

奥には一際豪華な鎧に身を包んだ金髪長身のイケメンと、同じような鎧に身を包んだ人たちが数名、あとみすぼらしいローブに身を包んだ女の子がいた。


「君たちか、我々が来るまで街を守ってくれたのは!」


イケメンは爽やかな笑顔を振りまいて声をかけてきた、


「えーとすみません、あの、どちら様で…」


「これは申し訳ない!こちらの自己紹介がまだでしたね!私はシルベルト王国騎士団第五中隊隊長マキシム・ルーンバイト!」


「あ、どうも。僕はBランク冒険者のシンです。」


「同じくBランク冒険者のクリスティーナ。」


「シンにクリスだね!いや、君たちがいてくれたおかげでこの街は守られた!我々が来るまでの時間稼ぎ、本当に有難う!」


マキシムとやらはやたらと声量がでかい上に常に満面の笑みで握手を求めてきた。

その握手に答えながら「こいつはウザイケメンだな」などど思ってしまった。

というか言い方が若干イラつく。

時間稼ぎって…

更にナチュラルにクリスをクリスティーナじゃなくて愛称で呼びやがった。

距離感が近ぇよ。

クリスも同じことを思ったのだろう、自己紹介がいつも以上にぶっきらぼうだ。


「シンくん、この方たちが以前お話した王都の軍の方々だ。」


だろうな。

てか軍?騎士団とか言ってなかったか?同じようなものか。


「ローレンス殿!我々は軍などといった野蛮な奴らとは違います!規律を重んじる部分は同じかもしれませんが、王と国民への忠誠と騎士たる礼節・忠義を持って誇り高く騎士団に属しているのです!」


マキシムはうっとりとした表情で、全くの悪気なく、全力で訂正した。

やっぱりウザイケメンだ。


「そ、それは申し訳ない。」


「いえ!一部でそのように誤解されていることは心外ではありますが、我々の活動がまだ足りぬ証拠!これからも一層努力していけば、国民の皆様の認識がきっと正しくなるはず!」


うざい上に熱血スポ根系の思想の持ち主か。

悪い人じゃなさそうだが…駄目だ、うぜぇ。


「それで、これからの何度の高い依頼とかはマキシムさんの騎士団がやってくださるので?」


「もちろん!我々に任せていただければどのような依頼もこなしてみせましょう!」


「ならこれからよろしく。でこれは何?顔合わせ?じゃあ、あたしたち帰っていい?流石に疲れてるんだけど。」


「そ、そうですね、お疲れのようですし、また話は後日…」


「おぉ!依頼の帰りでしたか!それは申し訳ない!後のことは我々に任せてごゆるりと休まれよ!」


「あ、はい。」


ウザイケメンから解放されると思った時。


「サラ!この方たちを宿まで護衛するんだ!」


「は、はい!」


護衛?何だそれ?


「いえ、結構です。」


クリスがはっきり言った。


「いえ!見たところ、かなりお疲れの様子!万一のため私の部下を護衛として付けさせていただきたい!」


まじうぜぇぇぇぇぇ!

そのドヤ顔!

国民を守ってます、大切にしてますよって顔がめっちゃうぜぇ!

ありがた迷惑だよ!

この街で俺たちを護衛する意味なんてねぇよ!

質が悪いのは、それが完全に善意からの申し出だということだ。

断られたせいか、サラと呼ばれたローブを着た女の子は泣きそうな顔をしている。

…仕方ねぇ。


「あー…じゃぁお言葉に甘えて。」


「そうか!やはり国民を守るのは義務なのでな!サラ!確実に宿まで護衛するように!」


「は、はい!」


やっぱりそう思ってたか。

任務をできるとあってサラとやらは泣き顔から真剣な顔になった。

女の子の泣き顔はなぁ…


「…女には優しいんだ。」


クリスがぼそっと恨み言を言ったのが印象的だった。

お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ・感想等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!


ちなみにシンの呟きは私の心の声でもあります…

キャラが少なすぎる…

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