016話 おかいもの
武器屋に着くと、昨日とはうってかわってガラガラだった。
やはり昨日までが異常だったんだろう。
ちなみにここは防具屋も兼任している。
店内を軽く見渡してみると、壁や机の上に多種多様な武器や防具、はたまた明らかに高級品と思われる豪華な武具もある。
それを見渡してクリスの瞳は輝いていた。
「いらっしゃい!」
朝から元気な店主だ。
「何が欲しい?武器か?防具か?」
「適当な剣を二振りくらいと、安い防具を見せてもらいたいんだけどいい?」
クリスのテンションが高いから、ここは全部任せよう。
「オーケー、ちなみに予算はいくら位だ?」
「剣は合わせて金貨二枚くらい、防具はものによるけどあたしたち二人で金貨一枚かな。」
え?クリスさん、そんなにお金持ってるの?
さっきこっそり聞いたらだいたい
銅貨一枚=十円、銅貨百枚=銀貨一枚=千円、銀貨百枚=金貨一枚=十万円
ってレートだったはずだけど
合計、日本円換算三十万くらいの予算ですよ。
俺が予想してるよりもあの村って裕福だったの!?
「それくらいとなると、いい剣はねぇぞ?それに防具も気休め程度だな。」
店主の顔が曇る。
「その場しのぎ程度だから別に構わない、あたしたちはガイレン山脈に行かないから。」
「なるほどね、普通の冒険者か。この辺の魔物程度ならそれくらいでも十分だわな。」
店主は壁に立てかけてある幾つかの剣を指差した。
「あの辺のはだいたい一振り銀貨八~金貨一枚くらいだ。その中から自分に合うのを探せば問題ねぇだろ。
防具はそうだな…いま着てるのの革を少し強い魔物の革に変えるって形なら、それほど金額もかからず頑丈になるぞ。まぁ魔物の素材を獲ってくるって問題はあるがな。」
魔物の素材か。
某ハンティングゲームのような感じだな。
「わかったわ、とりあえず剣を見させてもらう。」
クリスはそう言って剣が立てかけてある場所に行き、無造作に剣を鞘から取り出して感触を確かめている。
「うーん、今の剣もそうなんだけど、初心者用だから軽いしクセがなさすぎるのよね。」
どうやらクリスは純粋に今使っている剣に不満があるようだ。
何本も何本も剣を取り替え、感触を確かめている。
クリスは壁に立てかけてある剣を全部握ってみたが、どれもしっくりこないみたいだ、首をひねっている。
「なんだい、いまいち気に入らねぇか。」
店主が苦笑しながら聞きに来た。
「…もう少し重くて頑丈で、刃渡りが長い剣はない?」
今使っている剣は特に特徴の無い普通の剣だ。
一番近いのだとショートソードのちょっと長い感じの剣だ。
全長が一メートル行かないくらい、一キロ程度の重さ、両刃。
村にあった武器は全部こんな感じだ。
ここにあるのもそれよりは大きかったり重かったりはするが、気に入らなかったらしい。
店主は少し考えて
「…ちょいと値は張るが、心あたりがある。見るだけ見てみるか?」
「お願い。」
そう言って店主は、壁にかかっている剣を取ってきた。
「黒鉄で作られた剣だ。
黒鉄自体が重い上に頑丈だ。
刃渡りも普通の剣よりちょい長い。
こいつはお前さんの剣より細身だが、重さと頑丈さは折り紙つきだ。」
クリスは恭しく剣を受け取った。
鞘から抜くと、黒光りした刀身が光を反射する。
黒曜石のような刀身に細い樋、全体的に若干細いせいか切っ先もかなり鋭く感じる。
「………」
クリスは無言で感触を確かめている。
「…素人判断だけど、こういうのってすごい貴重で珍しいものなんじゃ…」
それに応じてお値段も。
「いや、別に珍しくもない。」
きっぱりと言い切った。
「黒鉄自体の加工が難しくてな、そんな本数を揃えれないだけだ。実際うちの店でも十振りくらいあったが、ガイレン山脈に行くってんでかなり売れてそれが最後の一振りだよ。」
黒い刀身とか、RPGだと結構後半になって手に入るもんなんだけど、この世界では違うのか。
「………気に入った、いくら?」
クリスの目がさっきよりもずっと輝いている。
「金貨二枚!!」
店主がVサインをして答える。
これ一つで予算いっぱいいっぱいだ!
「………………………」
クリスが眉間にこれまでにない皺を刻んで悩んでる。
仕方ない、助け舟を出そうか。
「あー、俺の剣はいいよ。クリスがその剣を買えばそんなに予備はいらないだろうし、今持ってる剣でも俺は問題ないよ。」
「ホントに!?ホントに買っていいの!?」
ちょっ!近い近い!!
しかもまだ剣を抜身で持ってるよ!危ないって!
「あ、あぁ、いいよ。だから剣を収めて…近いよ…」
「ありがとう!ありがとう、シン!!」
クリスははしゃいでて聞きやしない。
まぁそのお金もクリスの財布から出すからぶっちゃけ俺に許可を得る必要はないんだが。
実際のところ、どの剣も俺にはしっくり来ず、適当に予備の安い剣を買おうかって思ってたから何も問題はない。
「話は決まったみたいだな、んじゃ防具はどうすっか?」
店主が話を切り替えてくる。
「魔物の素材って何がいいんですか?」
「一概には言えねぇが、強ければ強いほどいい。」
ふむ。
「今まで狩った魔物の素材なら、あらかたあるんですが。」
でも覚えてないしなぁ。
「ほぅ、ギルドカードを見せてもらってもいいか?」
なるほど!!そういう便利なものをつい最近手に入れたんだった!
「あ?Eランクか……って、Eで狩れるレベルじゃねぇだろ!この履歴は!」
店主がやけに驚いている。
やはり村での狩猟が活きているんだな。
「これだけあれば…ビッグボアとロックスネイクの素材はあるか?」
ビッグボアってそんなに強いのか?
今の俺達なら一人で狩れるぞ?
ロックスネイクってのは…あぁ、下山途中で狩ったあの蛇か?
「よし!これだけあれば十分だ!代金はまけて銀貨七十枚でいいぜ!!」
…高いと思うのは、元の世界でそんなに服に金をかけなかった故の金銭感覚なのか。
いや、命を守るものだからそれくらいするのか。
あ、クリスに現金残高を聞くの忘れてた…まぁいいか、後で聞こう。
正味、二十七万円の買い物が終わったが、クリスのほくほく顔が見れたのでよかったとするか。
調整が必要なかったので剣はその場で渡され、防具は明日受け取りに来ることになった。
装備していた皮の鎧は預けてしまったが、暴れうさぎの狩りだと伝えると代替の安い鎧をレンタルさせてくれた。
「さ、暴れうさぎを狩りに行きますか。」
剣を両手に抱えてニヤニヤしているクリスの話しかける。
「え?え、えぇ、そうね!初クエストだしね!」
こいつ絶対忘れてただろう。
「確か街を出て東に半日くらい歩いた森にたくさんいるんだっけ?」
ギルドで教えてもらった情報だ。
「今から行っても、私達の足なら日が落ちる前に戻ってこれるわね。」
準備も万端だし特に問題もないだろう。
東門から街を出て、森に向かうことにした。
物語がなかなか進まない…




