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連戦開始 《side mythology》

ミソロジー、ヴィット、ザイネロの三人が辿り着いたのは、巨大な城門の前だった。赤茶色のレンガで組まれた城には、ところどころ豪華な彫像や装飾が施されている。空はオーロラのような光りを放っており、大地は平坦である。


「ふむ……?」


ミソロジーはその城から放たれる覇気を感じ取る。ザイネロやヴィットも同様に、何かを城から感じているようだ。


「何だろうな、これは」

「少し見てみます」


ミソロジーは空高く瞬時に移動した。すると、自分達の立っていた大地が、途中で途切れている。その先には海ではなく空がある。ぐるりと周りを旋回して見てみると、どうやら巨大なボウル状の大地が、空中に浮かんでいるようだ。


「ここは天空に浮いた大地です。一見したところ、ここにこの城以外の建造物はありません」

「ふむ、ならば入ってみるしかないか」


ヴィットは改めて、城門を見上げた。どういう仕組みで開くのか不明だ。あまりにも巨大で、手では開きそうにないうえに、飛びこえようにも高すぎる。ミソロジーに移動してもらうしかなさそうである。


「はい、では行きますよ」


ミソロジーは指を鳴らした。ザイネロとヴィットの身体が一瞬で分解され、別の座標で再構成される。しかし、その座標は扉の向こうではなかった。


「悪いが、それは不可能だ」


彼女たちは門のギリギリ手前で止まってしまった。代わりに、彼女達の背後に男が現れた。赤髪の、眉目秀麗の長身の男である。古代ギリシャ人のような白い衣服を着ており、その下には彫刻のような美しく逞しい肉体がある。


「俺は戦徒クロゥフ。先ずは説明させてもらおう」


不用意な行動を避け、まずは三人はこの男の様子を伺うことにする。


「さて、俺たちは諸君を過小評価していない。戦神が認める来訪神の娘、そしてその第一の配下、さらには……『アレ』の息のかかった腕なし娘。うむ、戦うに足る娘らだ」


クロゥフは空を見た。


「だが時間はさほどない。いつ、どの神が何をするか今は分からぬ。そこで俺たちは、まず事前に厳正な戦いを行ったうえで、残ったのが五人。それが順に、お前らと戦う。まずは、俺だ」


そして彼は、懐から大きな宝石を取り出した。それを彼は、自分の顔の前に構える。


「さて、ルールを決めよう。俺のは簡単だ。というか、そちらの勝利条件だな。俺からこの宝石を奪う。それだけだ」


ミソロジーは念の為、クロゥフの手元の宝石を自分の手元に瞬間移動させようとする。しかしできない。幸運の影響を勝敗へ集中させることで、宝石を幸運の影響下にしているようだ。

単純ながら、幸運を使いづらいルールである。

必ず、手で奪い取るしかない。


「あなたの、勝利条件は?」

「お前らを足止めし、下界の殲滅を完了させる。おっと、殲滅はどのように、とか、具体的にあとどれぐらいで、とか、そんなことを聞いても無駄だからな。敵にそんなことは教えない」


ミソロジーは頷いて、構える。


「いいでしょう。始めましょう。お二人も、隙があればお願いします」


そしてミソロジーはクロゥフの手元の座標を正確に把握する。瞬時に移動して、掴み、クロゥフの手の表面に潤滑液を配置し、奪う。その流れを頭に思い描き、実行した。


「おっと、危ない」


しかし、クロゥフは少し離れた位置に移動している。ミソロジーはその動きの正体を見極めようと、もう一度同じ試行を行った。クロゥフはまた、ミソロジーの手を逃れ離れた位置に移動している。


「これは……瞬間移動ですか」

「はは、どうかな」


クロゥフの動きは、ともすれば瞬間移動に見えるが、実際は単純なジャンプに近い運動である。ミソロジーが消えたのを視認した瞬間、地面を蹴っている。

本当にただそれだけのことだ。


「おかしいですねぇ。私が消えたのを確認してから動いているはずなのに、私が指を動かすより速く動いています」

「まあ、お前は確かに豪運であるが、あくまで一人の少女だからな」


旧文明人のクロゥフは、今回のルールを聞いた際にミソロジーに対する策として、速さを極めることにした。単純に、神経の伝達速度を速くなるように改造したのだ。目が光を認識し、その信号が脳に伝わるまでのスピード、さらには、脳から足へ信号が伝わる速度を、神経の構造を変えた。


「勝つためなら何でもするよ。それが俺の戦う理由だ」

「ふむ、勝利を求めるのですか」

「いや、『勝つ為に努力をしたい』のだよ。楽しいからな」


正直なところ、ミソロジーについて得ている情報を整理したところ、勝ちようがないのは確かだった。恐らく彼女は予想しうるあらゆることが『できる』。だからこそクロゥフの取った手段は、なるべくミソロジーに気付かれずに、装うことである。

ミソロジーが解決法を思いつかないように。


「例えばお前は幸運だ。俺よりもかなり。だが、俺は捕まえられない」


ミソロジーは直感でクロゥフの次の出現場所を予測して瞬間移動する。しかし、また避けられてしまう。ザイネロやヴィットは、傍から見ている限り具体的に何が起きているのかが理解できない。しかし、ミソロジーがクロゥフに触れられないという異常な状況は理解できる。


「ふむ、直感では不可能、ですね」


そう、クロゥフは見て避けている。どんなにミソロジーが直感で移動しても、その指が触れるのを見てから、移動している。その移動先を当てられても、結局は宝石を掴まなければならない。


「さあ、時間は経っている。どうする、来訪神」


ミソロジーは少し考える。クロゥフは必ず指を掴むその瞬間に、移動してしまう。


「試行しますよ」


再び瞬間移動を行うと同時に、クロゥフの周囲に金属の壁を出現させた。左右上下、どこにも避けられない状況にしたうえで、宝石を掴もうとした。しかし、クロゥフはわずかに手を下げ、ミソロジーの指を躱す。

幸運の影響下にある宝石に直に密着はできないため、わずか数ミリでも宝石から離れたところに指は現れる。だからそれより少し離れたところに宝石を動かす。本当に単純だが、最強の作業である。


「むう……」

「そら、時間がないぞ」


ミソロジーは少し考える。この戦いが始まってから数分が経過した。速く宝石を手に入れなければならない。


「次で決めます。お覚悟を」


ハッタリではなく、ミソロジーは言った。クロゥフも警戒する。見てから避ける、その方式は崩せないはずである。

予想されるのは、視界を潰されること。一瞬でも目の前に物を出現させ、宝石を掴む瞬間を見逃せばアウトである。そのためにクロゥフは視界を潰された瞬間反射で動かす準備は出来ている。

絶対に崩されることはない。クロゥフは集中して、ミソロジーと宝石を見据えた。


「はい、ゲットです」


次の瞬間、クロゥフの指先から宝石の感覚が消えた。


「…………………………は?」


クロゥフは記憶を辿る。ミソロジーは一切移動していないし、さらには自分の手元にはまだ宝石がある。


「簡単な、騙し絵です。あなたの目の前にあなたの見ている景色と同様の色の粒子を配置しました」


ミソロジーが指を鳴らすと、視界が割れた。クロゥフの手元に宝石はない。さらに、目の前には宝石を持ったミソロジーがいる。


「あなたはこだわり過ぎです。本当に、勝つ為に準備するのが好きなのですね。ですがあまりややこしくすると、破綻している部分が見えなくなりますよ」


ミソロジーが瞬間移動するということに気を取られていたクロゥフは、ミソロジーが幻覚じみたことを行うことが予想できていなかった。


「……そうか」


ヴィットは何が起きているのか終始訳が分からなかったが、何回かミソロジーが瞬間移動をして、最終的に宝石を取ったことは分かった。


「さあ、開けてもらいましょう」

「ああ」


負けたクロゥフは潔く、扉を手で開け始める。すると、巨大な扉はいともたやすく開き始めた。


「次の奴は厄介だぞ。相手の負けた顔を見るのが好きなやつだからな」


ミソロジーは開いていく扉を見据えつつ、その奥を見た。

誰かが立っている。


「さあ、行け。どうやらお待ちのようだ」


ミソロジーとヴィット、ザイネロはその奥にいる人物に視線を注ぐ。開きながら見ていたクロゥフは、その奥に立っている人物が、戦徒のウィグゥだということを予想していた。

しかし、そこに立っているのは褐色の肌の銀髪の少女だった。


「あ……? 誰だ、お前」


少女は口を開く。


「┯┝」


そしてクロゥフは、一瞬にしてその場から消えてしまった。

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