呪
虫が涼やかに鳴く声で意識が浮上した。ちくりとした痛みが首に走り、とっさに手を伸ばそうとしたがガチャリと耳障りな音がして腕が動かないのに気付く。なんとか腕の状態を確認しようとしたが、首を動かすと痛くて諦める。
寝かされていたベッドはふかふかとしていた。逆に腹立たしく、低く唸るが舌を噛み切るのは無理だった。
(また失敗した)
猿ぐつわに手足もがっちり拘束され寝返りすらうてない。危惧していた状態に忌々しい気分が悪化する。このまま動く事も出来ずに生かされるならあの場で死にたかった。
(痛いの嫌いなのに)
精神状態がおかしいから出来た自傷はしばらく出来そうにない。血が抜けて頭が冷えてしまった。基本的に痛いのも怖いのも殺されるのもごめんである。あの場で深く首を斬った時は本気で死ぬつもりでやったのだ。思い出しても痛い。何故死ななかったのか。
殺害、暗殺防止で打った策が最悪の方面で裏目に出た。これからのことに夢も希望ももてない。
(うそつき……)
つらつらと考えていると涙が溢れた。涙ににじんだ邪神の力が小さいながら力をもち、黒く小さい獣となって流れた涙を舐める。
邪神の力は母体であるこの身体を傷付ける事はない。憎むべき原因が今この場で一番優しかった。すべてが不自由な身体で慰めてくれた小さい獣にすり寄る。邪神の力で生まれた獣は禍々しい様子を潜めて従順だった。
もはや何を憎めばいいのか。唐突に連れてこられたここで、唐突に与えられた使命は命と精神を疲弊させた。憎み恨み呪っても帰れるかもしれない最後の希望にすがって使命を果たしたが、望みは叶わない。
そう、帰れないのだ。
すべての賭けに負けた己の末路を思えばあの場で死ねなかった後悔ばかりが募る。恨むのも憎むのもこの十年でやり尽くしたがそれでも尽きなかった。
わかってる。ただ、平和が欲しかったのだ。この世界の人々は。
納得させようとした。仕方ないのだ。でも、それでも。
どうして私だった?
何故自分たちでどうにかしなかった?
なんで、私ばっかり?
そんな気持ちがずっと消えない。奪われた私の平穏は誰が取り返してくれるの? 私が歩むはずだった未来はどうなるの? なんで、どうして、私ばっかり!
私を犠牲にしてこの世界は平和になるのだ。私という意思は殺されたのだ。ひとりの命よりみんなの平和? 関係ない人から見ればちっぽけな石のような感謝をささげられるだけのために、私は……そんなの納得出来ない。私だって関係ない人でいられたら感謝しただろう。だからわかるのだ。犠牲は忘れてただ平和だけが残ると。
そこに私の泣き叫ぶようなこの気持ちは存在しないのだ。そんなのは、許せない。いやだ。私は聖人君子にはとてもなれない小さく矮小で、弱い人間なのだ。卑怯で卑屈で、本当は世界なんかどうでもいい、十年経とうと無責任なただのガキだ。
私を、私を返して!
私の声なんか誰にも届かない。みんな虚像の御子をみて願う。だから、わたしは、もう、せかいをのろうしか、おもいつかなかった。
私はみんなのお願いを怖くても泣いても震えても叶えたんだ。
今度は私のワガママを聞いてくれたっていいよね?
世界全員分の願いの対価は何が相応しいかな、どうしたら私のこの行き場の見つからない憤りと憎しみを晴らせるだろうか。
私は憎むがゆえに答えの出ない問いかけを残す。
世界全員が、罪悪感に潰れて、いつ邪神がよみがえるのかわからない恐怖に怯えればいいんだわ。
どうせ、私の本当の願いは、叶わないのだから。
さっそくのお気に入りありがとうございます。
続けられるように励みにいたしますが、この話がお気に入りで本当に大丈夫か?
執筆はかなり不定期となります。今後のプロットなどはありませんので悲劇のヒロインぶってる御子が潰れるのか幸せになるのかは決めていませんが、少なくともかなり愚痴愚痴言い出す事は確定なので今回のヒロインの心情を読んでだめだと思った方はそっと引き返してくださいませ。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。よろしければ次回もよろしくお願いします。




