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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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神学校へ

 宿は入ってすぐにカウンターがあり、受け付けを済ませると鍵が渡される。

 愛想はないが、丁寧な接客だった。

 部屋は清潔な寝台とサイドテーブルがあるばかりのシンプルな部屋。

 テーブルの上には聖書が置かれてある。さすが、聖国だと思った。

 エルヴィン曰く宿にある風呂は神学校にある物と似ているようで、一回使ってみるといいと勧めてくれた。

 夜も遅いが、お風呂に入らせてもらおう。

 まず受け付けで風呂に入りたいと頼むと、桶いっぱいの湯がもらえる。

 大きめの桶だが、これだけの湯で全身を洗う必要があるらしい。

 この入浴方法について、エルヴィンがコツを教えてくれた。

 ます髪を洗って桶の中ですすぐ。

 そのあと体を洗って、残り湯で洗い流す。

 全身が泡々あわあわな状態だが、しっかり拭いてしまえば気にならないらしい。

 なんでもアインホルン聖国には〝タオル〟と呼ばれる、入浴用の綿織物があるという。

 それで拭いたら、湯上がりの体がサッパリするようだ。

 ここ十年くらいででてきた物のようで、貴族を中心に需要が高まっているのだとか。

 洗ったあとすっきりする洗髪剤と、泡切れのいい石鹸も餞別として贈ってくれた。

 感謝してもしきれない。

 受け付けでタオルが手渡された。

 なんだこれは! と手にした瞬間叫びたくなる。

 折り畳まれたタオルはボリュームがあるのに、驚くほど軽い。

 そしてフワフワで、手触りがかなりいい。

 このような綿織物を手にしたのは初めてである。

 ぜひともセシリアや母へのお土産として買って帰りたい。


 浴室の扉は二つ。女性用と男性用。

 女である男性用に入るのもどうなのかと思ったが、私はこの国に男としてきている。

 男性用を使うしかないのだ。

 夜も遅いので、きっと誰もいないだろう。

 そんなことを考えつつ中へと入った。

 すると、物音はしないので安堵する。

 浴室は扉が五つあり、洗い場は個室となっていた。

 中へと入ると、上のほうまで壁で区切られているので安心する。

 内側にも鍵があって、勝手に開けられることもないだろう。

 扉にはかごが吊されており、着替えやタオルを入れることができる。入浴のさいに濡れることがないように用意されているに違いない。

 念のため、施錠したあともきちんと閉まっているか確認してから、髪を洗うことにした。

 まず、桶の中に髪を浸けて濡らし、しっかり絞る。このときの湯も、一滴たりとも無駄にしないようにしなくては。

 次に洗髪剤を使い、髪を洗っていく。あまり泡を立てすぎると濯げなくなるので、注意が必要だ。

 このやり方で大丈夫なのか、なんて思いつつ、桶の湯で洗髪剤を洗い落とす。

 ある程度濯いだら、しっかり湯を絞る。

 髪をタオルで拭うと、その吸収力に驚くこととなった。

 ひとまず髪はタオルで包んでまとめておく。

 次は体だ。洗髪剤で泡だらけになった湯しかないが、本当に大丈夫なのか。

 石鹸を泡立てて垢擦りで体を洗ったあと、髪を洗った湯で洗い流した。


「……」


 全身、泡だらけである。分かっていたが、衝撃が大きい。

 もう湯はないので、入浴は強制的に終了だ。

 信じがたい気持ちになりつつ、タオルで腕の泡を拭う。

 するとべたつきなどなく、肌もさらさらだった。

  これがアインホルン聖国製の、泡切れのいい石鹸なのか! と感激してしまった。

 タオルでまとめていた髪も、しっかり水分を吸い取っているようだった。

 仕上げに香油を髪に揉み込んで梳り、さらに乾かす。

 思っていたよりも、アインホルン聖国式の入浴方法は悪いものではなかった。


 一日中移動ですっかりくたくたになっていた。

 このまま今日は眠らせていただこう。

 部屋に戻って寝台に横になる。

 目を閉じると、あっという間に眠りの世界に誘われてしまった。


 ◇◇◇


 神学校への入学式当日を迎えた。

 身なりを整え、宿の食堂で朝食をいただく。

 ここでも断食前のメニューが提供された。

 マッシュポテトと野菜スープ。

 ありがたくいただき、平らげた。

 神学校へ行く馬車を、エルヴィンが手配してくれていた。

 宿の前に泊まっていたので乗車する。

 今日はエルヴィンがいないので、なんだか不安が胸を過った。

 神学校で上手くやっていけるだろうか?

 そもそも、セシリアが掲げた条件に合う王配候補を見つけることができるのか?

 私がいいと思ってスカウトしても、オブリガシオン王国に行って女王陛下と結婚してほしいと頼み込んだ結果、お断りされるというパターンもあるだろう。

 もしも失敗したら、密偵扱いされて終わりだ。

 慎重になって話を進める必要があるだろう。

 考え事をしているうちに、聖都シエルの郊外にある神学校に到着したようだ。

 門の前で下ろされる。

 目の前に広がっているのは、監獄のように脱走を許さないような高い壁と門構え。

 守衛の聖騎士がいて、入学証明書を見せると、すぐに中へ入れてくれた。

 一歩入ると、そこには高くそびえる礼拝堂が見えた。

 白亜の美しい建物で、しばし見入ってしまう。

 しかしながら、ガンガン鳴り響く鐘の音でハッと我に返った。

 まだ時間には余裕があるものの、急いで寮へと向かうこととなった。


 入学証明書と共に送られた書類の中に、校内の地図がある。

 それを頼りに寮を目指す。

 寮の周辺にも塀があり、窓口つきの管理小屋があった。

 中にいた男性と目が合い、手招きされた。

 おそらく寮の管理人なのだろう。


「新入生だね」

「はい」

「入学証明書を見せてもらえるかな」


 提出すると、管理人の男性は眼鏡をかけて何か確認しているようだった。


「ああ、君は太陽寮のほうだね」


 そう言って指差されたのは、目のお前にそびえる立派な白亜の建物でなく、その背後に佇む、少しくたびれた印象のある木造の建物だった。

 地図には月寮と太陽寮があると書かれていたのを思い出す。


「あちらの白い建物が、月寮ですか?」

「ああ、そうだよ」


 明らかに月寮のほうが立派できれいなのだが、まさか優等生シュトレーバーしか入寮できないのだろうか?


「どうした? 何かわからないことでもあるのかな?」

「いいえ、ありがとうございました」


 知らないほうが幸せだろう。そう思って太陽寮のほうをまっすぐに目指した。

 どうして太陽寮と言うのか。

 疑問だったが、目の前に建つ太陽寮を見て気付く。

 太陽がさんさんと差し込んでいるのだ。

 月寮はどこか暗い印象があったので、名前を決定した人は日当たりの違いでつけたのかもしれない。

 扉を開くと、広い玄関になっていて、窓口がある寮母室メイトロン・ルームがあった。

 覗き込むと誰もいなかったのだが、置かれていたベルを鳴らすと、寮母らしい女性がやってくる。


「あら、新入りさんね! いらっしゃい」


 母と同年代くらいの、親しみのある女性が寮母で間違いないようだった。

 入学証明書を提出すると、すぐに部屋に案内してくれた。


「ごめんなさいね、一年生は三階なのよ」


 二階と三階が生徒達の大部屋で、一階が食堂や自習室などの共有スペースだという。

 ギシギシと音が鳴る階段を上がり、奥の部屋につれて行ってくれた。


「あなたが最初みたいね。好きな場所を選びなさいな」


 そこには寝台が十台ずらりと並んでいて、その間には遮るカーテンも取り付けてあった。

 思っていたよりもこぢんまりとしているが悪くない。

 もっとも奥にある、端っこの寝台を確保する。


「うんうん、そこがいいわよね。誰も前を通らないから」

「ええ、そう思いまして」


 寝台の上には神学校の制服が何着か置かれていた。

 灰色がかった外套ローブに、白いシャツ、丈の長い祭服カソックのような服。


「この部屋のルームメイトが全員揃ったら、寮内を案内するわね」

「ありがとうございます」


 寮母が出て行ったあと、ふーーーーーとため息を吐いてしまう。

 ついに、私の神学校生活が始まろうとしていた。 

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