神学校の夜
あれはいったい誰なのだろうか?
背が高く、ひょろりとしたシルエットである。
ユリウスは同じ学年の生徒ではないだろう、と言う。
二学年の生徒なのか。
相手にバレないよう、気配を、足音を殺して追跡する。
私も夜闇に慣れたからか、周囲の状況がわかるようになった。
人の姿も、ぼんやりだが捉えられる。
本当にいた。
何か重そうな物を麻袋に入れて、ずるずると引きずっている。
かなり重たい物なのか。地面には引きずった跡が残っていた。
土嚢か何かを運んでいるのだろうか?
どこに向かっているのかも気になる。
農園で使う物を運んでいるのかと思いきや、通り過ぎていく。
工房がある方向でもない。
鐘塔に続く道も、見向きもしなかった。
ここから先は、木々が鬱蒼としていて、視界がいっそう悪くなる。
木々が生えるほうへ逸れてしまえば、追跡も難しくなるだろう。
この先にあるのは――ユリウスは立ち止まって、ぽつりと呟くように言った。
「霊廟だ」
気付いた瞬間、ぞくりと肌が粟立つ。
そうだ、そうだった。
神学校にはどうしてか、霊廟があるのだ。
しかしどうして、麻袋を引きずって霊廟なんかに行こうとしているのか。
いいや、あまり理由について深く考えたくない。
「ユリウス、どうします?」
「霊廟に麻袋を運ぶ者を、見逃すことができない」
ここから先は付き合わなくてもいい。ユリウスはそう言ったものの、彼を一人で追跡させるつもりなど毛頭ない。ここから先も、付いていく。
一歩、慎重に足を踏み出したら、こつんと足先に何か当たったことに気付く。
しゃがみ込んで持ち上げると、劣等生の十字架飾りであることがわかった。
銀と宝石でできた、兄弟になった者が与えられる物ではない。
入学式の日に与えられた、銀鍍金と青いガラスでできた十字架飾りである。
チェーンが切れたので、落としてしまったのだろう。
軽い素材で作られているので、落下のさいに音はしなかったし、落とした者も気付かなかったのだろう。
ユリウスの腕を引き、見せてみる。
「先を行くのは、劣等生か」
「そのようです」
何かやらかして、ブラザーから罰を与えられたのだろうか?
重たい物を霊廟に運ぶなんて、まるで処刑人の仕事のようにしか思えないのだが……。
ここから先は草花が生えているので、足音を鳴らさないよう慎重に進まないといけない。
ただ麻袋を引きずる音が大きいので、枝を踏んで物音を立てない限りは大丈夫そうだが。
追跡を続ける。
霊廟に向かい始めてから、嫌な感じに胸が脈打つ。
額からは汗が噴き出て、呼吸も苦しく感じていた。
最悪な考えが脳裏を過るも、そんなわけない、そんなわけない、と何度も打ち消す。
ユリウスは迷いのない足取りで進んでいた。
背中から、これから起こることに対して目にしようという強い覚悟が読み取れる。
腰に剣を佩いていないのが心細い。
何か得物になるような棒でもあればよかったのだが……。
ついに、霊廟に行き着く。
そこにはもう一人の人影があった。
「――ッ!!」
体格が立派なシルエットしかわからないものの、その人物に心当たりがあった。
レオン・フォン・ホフマン。
麻袋を引きずる劣等生の生徒と落ち合ったように見える。
「遅い!!」
レオンは空気がびりびり震えそうなくらいの大声で叫ぶ。
「いったいどれだけ、この俺を待たせる気なんだ!?」
「す、すまない。睡眠薬の効果がすぐに現れなくて」
「言い訳するな!!」
レオンはそう叫んだかと思ったら、劣等生の生徒を殴りつける。
「ぐはっ!!」
目をそらしたくなるくらいの、酷い殴りっぷりだった。
ダメージが大きいのか、動かなくなる。気を失ってしまったのか。
「ふん! 軟弱者が!」
レオンは劣等生の生徒がここまで運んできた麻袋を蹴り始めた。
「大丈夫のようだな」
そう確認するように言ってから、麻袋をひっくり返して中身を外に出す。
転がるようにして出てきたのは――人だった。
先ほどの会話からそうなのではないか、と思っていた。
けれども実際に目にしてしまうと、ショックが大きい。
神学校の制服に身を包んでいるので、生徒に間違いないだろう。
白目を剥いているが、胸が上下していた。
生きた人間を麻袋に入れて引きずるなんて、酷いとしか言いようがない。
「なんだ、こいつ。あいつではないじゃないか。おい、どうなっているんだ!?」
「……」
「チッ! こんなときに眠りやがって!」
レオンはあの麻袋に入っていた生徒に、いったい何をしようというのか。
ハラハラしながら見ていたら、思いがけない行動に出る。
レオンは生徒の胸ぐらを掴んだかと思えば――首筋にがぶりと齧りつく。
ヒッ!! と悲鳴を上げそうになったが、喉から出る寸前でごくんと呑み込んだ。




