表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第一章 女王陛下の結婚相手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

アインホルン聖国へ

 神学校では留学生を快く受け入れているという。

 試験も試験官となる聖職者がオブリガシオン王国の王都までやってきて、受けられるようになっているのだ。

 今日までに頭に叩き込んだ知識を、試験用紙に書き綴る。

 結果、見事に合格することができた。

 これでひとまず安心できる。

 無事入学できそうだ。


 セシリアに合格を報告にいくと、とんでもないことが明らかになった。


「陛下、なんとか合格できました! 聖書を丸暗記したかいがあったようです」

「あら、あなたそんなことまでしたの? あの試験は名前さえきちんと書いていれば合格できるのに」

「そ、そうだったのですね」


 知らなかった……。膝から崩れ落ちそうになるも、寸前で耐えた。


「まあ、聖書の内容は聖術の基礎になる知識もあるようだから、無駄にはならないと思うけれど」

「それを聞いて安心しました」


 男装についての相談も持ちかける。


「その、陛下、髪は切ろうと思っているのですが、どれくらいの長さがいいと思いますか?」


 髪の毛をすべて剃り落としたら、さすがに女性と気付かれることもないだろうが。

 せめて短く刈るくらいに止めておきたい。

 ただセシリアに命じられたら、髪を剃り落とす覚悟もできていたのだが――。


「必要ないわ」

「よろしいのでしょうか?」

「ええ。あなた、髪を切らなくてもきちんと男に見えるから」

「は、はあ、さようでございましたか」


 喜んでいいのか、悲しんだほうがいいのか。

 私にうってつけの任務なのだ、と思うようにしよう。


「ああ、あと連絡の手段だけれど」


 セシリアはテーブルを指先でとんとん叩くと、窓から純白の美しい鳩が入ってきた。


「伝書鳩、ですか」


 すると、鳩はカッと目を見開いて私に物申してきた。


『伝書鳩なんかではありませんわ!! わたしは〝エリザベータ〟! セシリア女王陛下の忠実なるしもべでしてよ!』

「は、はあ、どうも。騎士のアルヴィエ・ド・ヴァロアと申します」


 セシリアはこのエリザベータと共に、アインホルン聖国に行くように命じてきた。


「この指輪にある呪文を摩ったら、この子を召喚できるから」

「かしこまりました」


 神学校では指輪を着けていたら注意されそうなので、チェーンに繋いで首から下げておこう。

 エリザベータは気に食わない任務なのか、つんと顔を逸らしている。

 そんな彼女に騎士の礼をしながら、言葉をかけた。


「エリザベータ様、どうぞこのアルヴィエをお助けください」

『まあ、そこまで言うのであれば、力を貸してやらなくもないけれど!』


 どうやら許されたらしい。

 エリザベータは主人であるセシリアに似て、高貴な使い魔であるようだ。

 扱いには注意しよう、と心の中で誓った。


 その後、元王配候補で、現在はセシリアの近衛騎士であるブリヤックがやってくる。


「ヴァロア卿、聞いたぞ!! 大変な任に就くようだな!!」


 セシリアから私の任務について聞いたらしい。


「男所帯に潜入するならば、我に命じるように言ったのだが、無理だと言われてしまってな!!」


 それはそうだろう。ブリアックのように筋骨隆々で、いちいち声が大きい聖職者見習いなんているわけがないから。


「ジョアンノ卿、陛下のことを、頼みますね」

「ああ! この命を燃やしても、陛下のことは守ろうぞ!!」


 大げさだし暑苦しいとしか言いようがないのだが、彼なりに私を激励したかったのだろう。

 感謝し、この場をあとにしたのだった。


 ◇◇◇


 ついに、アインホルン聖国に行く日を迎えた。

 他の兄弟には黙って出発するので、こっそり裏口から出ていく。

 国境まで父が送ってくれた。

 王都から竜が引く車体――竜車にに乗って八時間ほどで到着する。

 ちなみに母は、寝込んでしまったのだ。


「父上、母上は大丈夫なのでしょうか?」

「心配いらない。儚いように見えて、これまで病気の一つもしたことなどないし、八人も子を産んだ健康な者だからな」

「それはたしかに」

「お前が旅立つことが、寂しかったのだろう。単に拗ねているのだ」


 任務から帰ってきたら、たっぷり母親孝行をしようと心の中で誓った。


「もしも危険を感じたら、すぐに帰ってくるように」


 父はそう言って、竜笛を渡してくる。

 これを吹けば竜を召喚できるようだ。


「くれぐれも、密偵と勘違いされないように」

「それはもう、わかっております」


 密偵疑惑なんかかけられた日には、二度と国へは帰れないだろう。

 アインホルン聖国とは古来より国交があったものの、そこまで友好的なわけではない。

 怪しい行動を取らないように注意しなければ。


 最後に父は私を抱擁してくれた。


「アルヴィエ、大きくなったな」

「もうすぐ生まれて二十年ですので」


 母が私を健康に産み、父が強い体に育ててくれたおかげである。

 父は背中を痛いくらいバンバン叩いて、気をつけていくようにと言葉をかけてくれる。 そんな父に手を振って、しばしのお別れとなった。

 これから先は、アルヴィエ・ド・ヴァロアではなく、アルヴィ・フォン・バルテルとして出国及び入国する。

 出国審査では、アルヴィ・フォン・バルテルと書かれた旅券を提出した。

 オブリガシオン王国の女王陛下であるセシリアが直々に作成した偽造旅券である。

 問題なく通過できた。

 続いて入国審査を行う。

 ここでは入国目的を伝えるのだが――。


「旅先からの帰国です」

「かしこまりました。どうぞ、お通りください」


 驚くほどあっさり通過することができた。

 国境を通り抜けると、そこはすでにアインホルン聖国である。

 白を基調とした建物が並び、街のシンボルであろう礼拝堂から鐘の音が鳴り響く。

 忙しなく行動する者は一人もおらず、時間がゆっくり過ぎているように思えた。

 しばし、オブリガシオン王国とは異なる街並みに目を奪われていたら、声がかかった。


「アルヴィエ、久しぶりだね!」


 やってきたのは、純白の鎧にマントをなびかせて登場する美丈夫。

 金色の毛並みを持つ大型犬を思わせる人なつっこい雰囲気を振りまきながらやってきたのは、私の母方の親戚、八歳年上の従兄エルヴィンだった。


「久しいですね、エルヴィン。何年ぶりえしょうか?」

「五年ぶりくらい?」

「ああ、それくらいですね」

「アルヴィエはまた、男前に……と、〝アルヴィ〟だったな」


 注意しようかと思っていた矢先に思い出してくれたようだ。

 エルヴィンは昔からうっかりなところがあった。


「どうする? 先に食事にしようか?」


 顔に〝お腹が空いた〟と書いてあるような気がしたので、聖都へ移動するよりも先に腹ごしらえをすることとなった。

 食堂に入ると、皆静かに祈りを捧げるか、会話もなく食べているようだった。

 こういう光景も、オブリガシオン王国では見られないものだろう。

 アインホルン聖国の人達は食事を神聖な儀式の一つと認識し、騒がず黙食に努めるという。

 ただ、エルヴィンのような例外もいるようだ。


「うわあ、もう断食前のメニューになってるよ!」


 断食というのは、体にある不浄な物を排出し、神様への信仰心を高めるのと共に、ありとあらゆる欲を節制するという大きな目的がある。

 断食については母が今でも独自でやっているらしく、教えてもらった上で実施してみた。

 アインホルン聖国で定められた断食期間は半年に一度、十日間。

 太陽が出ている時間帯は、飲食、喫煙、飲酒を完全に禁止する。

 夜間のみ肉や魚を避けて食べてもいいようだが、空腹だからと暴食したら、翌日が辛くなる。

  辛くてたまらなかったが、母は慣れだと話していた。


 そんな断食前は、食堂のメニューもその仕様になるらしい。

 肉料理、魚料理はなく、健康的な野菜中心のラインナップとなっていた。


「断食のときの料理って、力がでないんだよねえ」

「わかります」

「アルヴィも断食していたの?」

「はい、一度だけ、母に付き合って」

「それはそれは、大変だったねえ」


 生まれてからずっと断食を経験していても、辛いことだという。

 母は慣れだと言っていたが、体力が資本となる騎士はそうはいかないのかもしれない。


「それで、どれにする?」

「エルヴィンと同じ物を注文します」

「だったら――」


 運ばれてきたのはパン粥と野菜スープ、ゆで卵。


「ああ、茹で卵! 断食が始まったら、この子すら食べられないんだよ!」

「味わうとしましょうか」

「そうだね」


 エルヴィンと共に神への祈りを捧げたのちに、いただくことにする。

 母が料理長に作るように命じていたのは、茹でただけの野菜としか言いようがない、味のないスープだった。

 それに比べたら、とてつもなくおいしく感じる。


「ここ、おいしい食堂なんだよ。でも断食期間前のメニューって、あんまりおいしくないんだよねえ」

「そんなことないですよ。おいしいです」

「あれ、そう? よかった!」


 神と食材に感謝しながら、断食前のメニューをいただいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ