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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第四章 断食の夜に

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はじまりの日

 ついに断食が始まる。

 半年に一度実施され、期間は十日間。

 断食と言っても、まったく食べることができないわけではない。

 簡単に言えば太陽が出ている間だけ、飲食を断つのだ。

 夜間のみ、肉や魚を避けたメニューを食べることができる。

 食事を断つことによって体内の不浄なものを排出し、神様への信仰心を高める、神聖な儀式だという。

 神学校では校内の食堂が閉鎖され、飲食の持ち込みさえも禁止される。

 朝食の時間は日の出前ならば食べてもいいようだ。

 しかしながら食事の提供は二時間も早くなり、起きられない者は朝食は抜きとなる。

 パウウルとホィンは絶対に起きられないと嘆き、フィンは起こすのは一回までだと宣言し、ヘィンは起きられたら食べると言っていた。

 私は可能であれば食べたいが、正直なところ早起きは自信がない。

 ヘィンと同じく、起きられたらいただこう、という精神で断食一日目を挑む。


 朝――鐘の音が容赦なく鳴って目覚める。

 外は真っ暗だが、これは断食が始まった日の朝らしい。

 のっそり起き上がるも、体が眠たいと訴えている。

 昨日は図書室に閉じ込められる話で盛り上がり、消灯後も会話が止まらなかったのだ。

 私達は十九歳。大人に分類してもいいはずなのに、精神年齢はいつまで経っても少年なのである。

 フィンがヘィンとホィンを起こす声が聞こえた。

 さすがフィン、早起きもお手の物のようだ。

 私も爆睡しているであろう、パウウルに声をかける。


「パウウル、朝ですよ! 朝食を食べ損ねたら、夜まで食事抜きになってしまいますからね!」

「うううう~~~んんん」


 パウウルはもぞもぞと動き、反応するも目は固く閉ざされている。

 起きなくてパウウルが後悔するのはわかりきっているので、心を悪魔にして起こした。

 ブランケットを剥いで、耳元で叫ぶ。


「パウウル、起きなさい!!」

「わあ!!」


 飛び起きたパウウルに早く準備をするように言ってから、顔を洗いに洗面所へ向かった。

 今日は一番乗りだったようで、誰もいない。

 急いで顔を洗い、歯を磨く。

 私から少し遅れてフィンとヘィン、ホィンがやってきた。

 ヘィンはホィンに引きずられるようにしてやってくる。


「もう~、ヘィン、しっかり歩いてよ~」

「まだ夜だろうが」

「だから、今日から断食なんだってえ」


 パウウルは大丈夫だろうか。なんて考えていたら、遅れてやってくる。

 目は半分以上閉まり、よろよろとおぼつかない歩みを見せていた。


「パウウル、大丈夫ですか?」

「うん、アルヴィ、起こしてくれて、ありがとう」


 平気だから、と言うので頑張れと応援し、混み始めた洗面所をあとにするのだった。

 食堂に集まった一学年の生徒は、三分の一くらいだった。

 やはり、いつもより二時間早く朝食を食べるというのは無理がある。

 点呼にやってきたブラザー・ジェイと名乗った青年は、初めて顔を合わせた。

 彼もそうとう眠いようで、何度も欠伸を噛み殺している。

 食前の祈りを終えたあとは、そそくさといなくなってしまった。


 断食一日目のメニューは、豆と野菜のスープのみ。

 ひそひそ声で「これだけ?」みたいな声が聞こえる。断食前のメニューは二品あったので、物足りなく思っているのだろう。

 断食期間中でもこうして食事をいただけることに感謝し、平らげたのだった。


 部屋に戻ると、ルームメイト達は各々違う行動に出る。

 フィンは角灯の頼りない灯りで聖書を読み始め、ヘィンは寝台に寝転がる、ホィンは「一回起きたら眠れないよお」と嘆いていた。

 パウウルはすでに寝息を立てて寝ている。あまりにも早い入眠だった。 

 私はユリウスと約束している時間まで、セシリアからの頼まれていたことをやっておこう。

 それは、ヨハンの似顔絵を描くこと。

 眠気覚ましのために窓を少し開けて挑む。

 紙を広げ、ペンを手に取り、ヨハンの顔を思い出しながら描いてみた。

 無駄な肉などない輪郭に、つやつや輝く漆黒の髪、ルビーみたいな赤い瞳は鋭く、口元はきつく閉ざされている――。

 完成した絵を眺めてみたが、子どものらくがき以下のクオリティだと思った。

 そういえばと思い出す。

 こうして絵を描くなど、子ども時代以来だな、と。

 あれは七歳くらいの頃の話だったか。

 母がお絵かきセットを贈ってくれたので描いてみたのだが、上手くできなくて腹を立てて、二度と描かないと宣言していたような。

 私が完成させた絵を見た母も、そのほうがいいとか言って、反対しなかったような。

 よほど酷い絵だったのだろう。

 描写力が七歳で止まったまま、今に至っていたようだ。

 こんな絵をセシリアに送った日には、絶対にやり直しを命じられるに違いない。

 絵を運ぶエリザベータも、いい迷惑だろう。

 どうしたものか、と考え込む。

 ヨハンの似顔絵が欲しいと言うなんて……困った。


「アルヴィ、勉強しているのか?」


 声をかけてきたのはヘィンだった。


「ヘィン、登校時間まで眠るのではなかったのですか?」

「眠れなかったんだよ」


 逆に、眠れないと嘆いていたホィンは、現在爆睡しているらしい。


「まったく、ホィンはいい性格をしているよ」

「ええ。本当に羨ましくなります」


 ちなみにフィンも聖書を手にしたまま、座った状態で眠っているようだ。

 皆、器用なものだと思ってしまう。


「俺だけだよ。眠れないなんて」

「私も似たようなものです」


 窓から風が吹いて、机の上にあったヨハンの絵がヘィンのほうへと飛んで行く。


「おっ、なんだこれ」

「そ、それは……!」


 ヘィンはヨハンの絵を拾い上げ、手にしていた角灯で照らしながら、まじまじ見つめる。

 大笑いされてしまうだろう。そう思っていたが――。


「これ、アルヴィが描いたのか?」

「ええ、そうなんです。下手……ですよね」

「そうかぁ? 絵の勉強をしているわけじゃないから、こんなもんだろう」


 驚いた。いつもふざけたことばかり言っているヘィンが、冷静に絵を見ることができるなんて。


「この絵、何を描いたんだ?」


 どこからどう見ても人物画でしかないと思ったのだが、ヘィンには人の姿に見えないらしい。


「その、なんの絵に見えますか?」

「うーーーーん、悪魔の苦しみ、とか?」


 そんな抽象的な絵を描くわけがなかった。

 ヘィンはからかうつもりなんて欠片もなく、真面目に私の絵を見て答えたのだ。

 まだ、冗談で言われたほうがマシである。

 がっくりうな垂れてしまったのは言うまでもない。

 

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