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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第三章 神学校の謎

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脱出

 どうやってここから脱出しようか。

 なんて考えている間に、ユリウスが神へのの言祝ことほぎを口にし始める。

 こういう場でも信仰を忘れないのだろう、と暢気のんきに考えていたら、聖法陣と共に光の球が生まれた。

 どうやらユリウスは聖術で灯りを点してくれたようだ。


「眩しくないか?」

「ええ」

「この灯りを頼りに、どこからか出ることができないか探してみよう」

「わかりました」


 聖職者としての下積み期間が長いユリウスは、いくつかの聖術を使うことができるようだ。


「このように灯りを点すものや、結界、浄化くらいか」


 回復術だけは、神学校に通わないと習得できないという。

 通常、子ども時代から教会に身を寄せる者が神学校に通うことは珍しいことのようだが、どうしてかと聞かれるたびにユリウスは回復術を覚えるためだと話していたそうだ。


「回復術を習えるおかげで、不審に思われることなく入学できたわけだ」

「そうだったのですね」


 私もセシリアから回復術を習得するように命じられている。

 授業はまだそこには至っていない。ひたすら神への祈りと聖書の写本をするように言われるばかりである。


「回復術を実際に習えるのは、二学年辺りからではないのか?」

「習得までまだまだあるんですね」

「ああ、道のりは長いようだ」


 話しながらも、どこかに抜けられそうな場所はないのかと探して回る。


「……んん?」

「アルヴィ、どうした?」

「上からヒュウヒュウと風が通るような音が聞こえた気がしまして」

「なんだと?」


 ユリウスと一緒に確認してみたら、やはり天井から風を感じた。


「天井裏に潜り込んで、外に出ることはできないでしょうか?」

「試してみる価値はある」


 本棚が高い位置にあるので、上って天井裏を覗き込むことができるだろう。


「まず私が試してみますね、ユリウスは光を当てておいてもらえますか?」

「わかった」


 行儀が悪いと思いつつも、テーブルに足をかけて本棚をよじ登り、天井へ手を伸ばす。

 風が差し込む天井板に触れてみたら、横にずらすことができた。


 光の球を天井裏に当ててもらう。


「空間があります。おそらくここから外に出られるかと」


 私の報告を聞いたユリウスも私がいるところまで上ってきた。


「ずいぶん埃とカビ臭いようですが」

「しばしの我慢だ」

「ですね」


 ユリウスが先に行き、私もあとに続く。

 屋根裏は天井が低く、四つん這いで行くしかないようだ。

 風が流れるほうを目指して進んでいく。


 始めはカビと埃の臭いが酷いと思っていたが、なんだかそうではない気がしてきた。

 ユリウスも同じことを考えていたようである。


「ネズミか何かの死骸でもあるんじゃないのか?」

「ああ、そうですね。そういう異臭のように思いました」


 できれば目にしたくない。

 そう思いつつ進んでいたら、こつんと足に何か硬い物が当たった。

 細長い、棒のような物だった。


「ん?」

「アルヴィ、どうした?」

「いえ、何かが当たったようで」

「なんだ?」


 ユリウスが私のもとまでやってきて、足下に光を当ててくれる。


「――っ!!」


 それが何か確認できた瞬間、ゾッと鳥肌が立った。


「なんだ、これは……!」


 それは骨だった。


「どうしましょう……。獣の物ではなく、人骨に見えるのですが」

「私もそう思う」


 どうして人骨が神学校の屋根裏にあるのか。


「詳しい者に見せないと、人骨がどうかわからないが」

「そ、そうですよね」


 獣の骨である可能性もあるのだ。


「どうする?」

「何をどうするのでしょうか?」

「この骨を持って行くかどうかだ」

「うう……」


 神学校の屋根裏に人骨があるとしたら、何か事件が絡んでいるとしか思えない。

 このまま見なかった振りをしたかったが、この骨が何かの証拠になる可能性もあるのだろう。


「持って行きましょう」

「わかった」


 ユリウスは外套を脱いで人骨を包む。

 それを脇に抱えて進んで行った。


 屋根裏には窓があり、窓枠が劣化していて隙間風が流れていたらしい。

 そこから外に出て、屋根に上ることができた。

 なんとか脱出できたわけである。


「思いがけない収穫があったな」

「ですね」


 まさか屋根裏に人骨があるなんて、夢にも思っていなかった。


「おそらく、屋根裏にある人骨はこれだけではないだろう」

「でしょうね」


 おそらくこの人骨を隠しているような環境が、異臭の正体だろう。

 骨が一本転がっていた程度で、あのような臭いが充満しているわけがない。

 おそらくいくつかの人骨が屋根裏に転がっているのだろう。

 ため息を吐くと、ユリウスが背中をぽん! と叩いて「でかした」と褒めてくれる。


「アルヴィを兄弟ブリューダーに選んで正解だった」

「その、お役に立てたようで幸いです」


 人骨を発見してしまうなんて、不気味としか言いようがない。

 今晩は眠れるだろうか、心配になった。


「寮に戻るか」

「そうですね」


 寮母になんて言い訳をすればいいのか、なんて考えていたら、太陽寮までユリウスがついてきてくれるという。


「言い訳は私に任せておけ」

「いいのですか?」

「ああ。こういうのは得意だから」


 正面玄関から入ると、すぐに寮母が私達に気付いた。


「あら、どうしたの? ずいぶんと遅い帰りじゃないの」

「すまない、具合が悪くなって、アルヴィに介抱してもらった」

「まあ、そうだったのね。大丈夫なの?」

「ああ、すっかりよくなった」


 寮母はまだ顔色が悪いと言って、ホットミルクを作ってあげるから、管理室に入るように言ってきた。

 ユリウスの顔を見ると、従おうと言ってくる。

 しばしお邪魔することとなった。


「あなたは、ここの寮の子ではないわよね?」 

「ああ、そうだ」


 大勢生徒がいるにも関わらず、寮母は生徒の顔を記憶しているらしい。


優等生シュトレーバーがこうしてやってくるなんて、前代未聞よ。あなた、幸せな劣等生フェアザーガーね」


 本当にそう思える。けれどもユリウスはそれが当然だと答えていた。


「アルヴィは私の兄弟ブリューダーだから」

「そうだったのね。でも、兄弟ブリューダーという関係も普通は平等ではないから」

「他の者は違うのか?」

「ええ、ぜんぜん違うわ。兄弟ブリューダーって言うけれど、実際は主従関係みたいなものなのよ」


 兄弟ブリューダーというのは、劣等生フェアザーガー優等生シュトレーバーの世話をしたり、荷物を運んだり、ブラザーへの連絡役を担ったり。


「あなたたちみたいな、友達関係の兄弟ブリューダーを見たのは初めてよ」


 本来の兄弟ブリューダーいびつな関係だったようだ。

 話を聞いていて、ショックを受けてしまう。

 優等生シュトレーバーの特別扱いは、兄弟ブリューダーという関係にまで及んでいるようだ。


「これではまるで――」


 劣等生フェアザーガーという存在は、優等生シュトレーバーが消費するためだけにあるのではないか。

 そんな言葉を言うことができずに、そのまま呑み込んでしまう。


「どうした?」

「いいえ、なんでもありません」


 それを口にし、肯定されてしまえば、私はここでの暮らしを嫌悪感でやっていけなくなる。だから今は、気付かないふりをしておかなくては。


 寮母はホットミルクと一緒に、スープとビスケットも用意してくれた。


「夕食、食べ損ねていたでしょう?」

「ええ」

「たくさんあるから、お腹いっぱいになるまでお食べなさいな」

「ありがとうございます」


 深く感謝しつつ、ユリウスと共に思いがけない夕食をいただいたのだった。 

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