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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第三章 神学校の謎

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放課後の奉仕活動

 ヨハンは一見して愛想がないような印象があるものの、話してみると素直で、かわいらしいところがある。

 きっとセシリアも気に入るはず。

 自信を持って、王配候補としてオブリガシオン王国に連れて帰りたい。

 しかしながら、一族性の疾患というものが引っかかる。

 あの赤い錠剤はオブリガシオン王国でも手に入る物なのだろうか。

 定期的な医者の診断が必要であれば、オブリガシオン王国での暮らしは難しいように思えるのだが……。

 この辺もセシリアに相談してみよう。

 アインホルン聖国出身の男性と結婚するならば、ヨハン以外の男性でも直面する問題だろうから。


 教室に戻ると、次は移動教室のようで誰もいなかった。

 ふと、ハインツが赤い錠剤を捨てていたことを思い出す。

 ひとつ拝借し、セシリアの侍医に送って同じ薬が用意できるか調べてもらおう。

 赤い錠剤をハンカチで包んだあと、ポケットにしまう。

 次の授業は礼拝堂で祈りを捧げる時間だったか。

 聖書を手に取り、教室を出ようとしたところでホィンがやってくる。


「ああ、アルヴィ、よかった!」


 なかなか礼拝堂にやってこないので、心配して迎えにきてくれたようだ。


「あれ、髪、どうしたの?」

「忘れていました」


 予備のリボンを取りに行き、ひとつに結ぶ。


「他のクラスの友人がピルケースをよく紛失させるみたいで、そうならないようにピルケースにリボンを通して、ベルトと繋げてあげたんです」

「そうだったんだ」


 それでもまだ落とすようであれば、鈴などを付けて音が鳴るようにすればいいのかもしれない。今度、ヨハンに提案してみよう。


「アルヴィって髪を結んでいたらきりりと引き締まってかっこいいけれど、髪を下ろしていたらきれいなお姉さんって感じだね」

「お姉さん、ですか? そういうふうに言われたのは初めてです」

「そう? よく言われるのかと思ってた」


 余裕がたっぷりに返したように思わせておいて、内心心臓がバクバクだった。

 女性に見える、なんて言われたのは初めてかもしれない。

 髪を下ろしただけでそう思われるのであれば、他人の前で見せるべきではない。


「僕達ルームメイトだけど、アルヴィが髪を下ろしたのを見たのは初めてだったね」

「長いと邪魔なので、いつも結んでいるんです」


 騎士として叙勲されたときも、神学校に入学する前も、髪を切るつもりでいた。

 けれどもそのたびにセシリアから必要ないと言われて今に至るのだ。


「友人から切るなと言われていまして」

「そのほうがいいよ! アルヴィの髪、すっごくきれいだから!」

「ありがとうございます」


 授業開始十分前を知らせる鐘が鳴る。

 私とホィンは同時にギョッとし、のんびりお喋りしている場合ではなかったと気付く。

 ブラザーから注意されない程度の早足で、礼拝堂に向かったのだった。

 礼拝堂の席に座った瞬間、授業開始を知らせる鐘が鳴る。

 急いできたので呼吸が乱れ、鐘の音が頭にガンガン響く。

 まだブラザー・マテオは来ていない。なんとか間に合ったのだ。

 ユリウスは職員室からまっすぐ来ていたようで、大丈夫かと聞いてくる。


「な、なんとか……!」


 そう返した瞬間に、ブラザー・マテオがやってきた。

 思わず背筋をピンと伸ばし、遅れてきたことを悟られないようにした。


 一日の授業を終え、校内での奉仕活動を行う。

 奉仕活動は掃除と畑の世話、蔵書整理などがある。

 私達のクラスは今日、初めて畑の世話を行うこととなった。

 雑草を毟り、水をやり、収穫もする。

 泥だらけになりながら作業をする中で、クラスメイトの一人が話しかけてきた。


「お前、ユリウスの兄弟ブリューダーなのに俺達と一緒の奉仕活動をしているのかよ」

「どういう意味ですか?」

「気付いていないのかよ。ここでの作業や汚れる清掃活動は、優等生シュトレーバー様方は免除されているんだよ」

「ああ、言われてみれば、優等生シュトレーバーは一人もいませんね」

「今まで気付いてなかったのか?」

「ええ、まあ」

「あれだけユリウスと一緒にいたのに」


 別に四六時中ユリウスと一緒にいるわけではない。

 過ごす時間は彼よりも、ルームメイトでもあるホィンのほうが長いだろう。


優等生シュトレーバーの奴らは蔵書整理だとか言って、特に作業せずに寮に戻るらしい」

「まあ、彼らは持病を持つ者も多いですから、無理をしないように学校側が配慮しているのかもしれません」

「持病ってなんだ?」

「一族性の疾患らしいですよ」

「へー、初めて聞いた」


 どんな症状が出るのかと聞かれたものの、センシティブな問題だろうから、詳しく話すのもどうかと思った。

 申し訳ないと思いつつも、あまり詳しくないと答えておく。


「上流階級の奴らは青い血筋が何よりも大事だ~~とか言って、結婚相手を選り好んでいるみたいだからな。神様から罰が下ったんだろうよ」

「罰、ですか」


 そういうふうに捉えるのはどうかと思ったが、私は他人に物申すことができる立場にない。

 クラスメイトの話は聞かなかったことにした。

 農作業を終え、井戸で汚れを落としたあと、ユリウスと落ち合う。

 彼は真面目に蔵書整理をしていたようで、ブラザー・マテオに遠慮なく酷使されたという。


「私に持病がないからと、雑に扱ってくれる」

「人手不足でしょうからね」


 なんでも学年にいる優等生シュトレーバーのうち、奉仕作業に参加するのは三分の一以下だという。


「次からアルヴィも手伝ってくれ」

「いえ、そうしたいのは山々なのですが」


 劣等生フェアザーガーのクラスメイトが優等生シュトレーバーは楽をしていると思っている、という話をそのままユリウスに伝えた。


「だったら次はその者と代わってもらうよう、ブラザー・マテオに言っておこう。私は畑を耕すから」


 一人でやるには気の毒なので、複数の劣等生フェアザーガーを送るように頼んでおこう、とクラスメイト達への優しさを見せていた。


「アルヴィから優等生シュトレーバー劣等生フェアザーガーの扱いの違いについて話を聞けば聞くほど、腹立たしい気持ちになる」


 ユリウスはどちらかと言えば、これまで劣等生フェアザーガー側の待遇だったので、悔しい気持ちはよく理解しているという。


「この国にいる限り、どうにもならない問題だろうが」

「ええ……」


 こういう環境に身を置いていると、それが当たり前となり、心がすり減って次第に気にならなくなるようだ。


「けれども私は不当な扱いを受けたらその度に怒って、おかしなことだと感じられるようにしておきたい」

「私もそう思います」


 絶対に慣れたらいけないのだろう。

 区別される中でも、自分が持てるはずの権利は主張しなければ。

 ユリウスと話していて、改めて思ったのだった。


「そういえば、リボンの色が変わっているように見えるのだが、どうしたんだ?」

「ああ、これですか?」


 まさかリボンの色の違いに気付くとは。


「友人がよくピルケースを紛失するようで、落としてしまわないように、ピルケースにリボンを通して、ベルトに繋いでおいたんです」 

「友人? ピルケースを持ち歩いているということは、優等生シュトレーバーなのか?」

「ええ、そうなんです」


 そう答えるや否や、ユリウスの表情は少し不機嫌になった。

 

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