Dresser
入店すると、ドアベルが「カランカラン」と軽い音を立てた。
「うわあ…」
思わず吐露が漏れた。
だって、まるでアトリエ。芒やドライフラワーが天井から少し目上の方からこちらを見下げているかの如く、垂れ下がっている。
店に入ってすぐ真ん中に大きな丸テーブルがあって、それも何とも言えないモニュメントというのだろうか、造形美をしているが、そこに無数の花や木が植わっているように飾られている。
そう、まるで御伽噺に出てくる魔法使いの秘密の小屋のようだ。
「どうぞ、こちらへ。」
大きな丸テーブルの輪郭に沿って弧を描くように奥へ進むと、奥にカウンターとその隣くらいに腰掛ける用だろうか、ロッキングチェアが2つ向かい合うように置いてあった。
促されるままそのロッキングチェアに座る。
「おぁ、ああ」と格好悪い声を漏らしながら何とかロッキングチェアの揺れに慣れて座ることができた。
「久しぶりのお客様なので、お茶でもしようかと思うのですが……何がお好きですか?紅茶?珈琲?それとも他のドリンクがいいです?」
幼女が腰掛けた私に向かって、店の奥から声を掛けている。
「あ、いえ、お気になさらず!」
(少しの間だけだし、真夜中になる前に帰らないといけないからなあ……しっかしこんな幼い女の子が、こんな夜更けまでこんなとこにいるのか…親御さんのお仕事のお手伝いか?)
幼い某女子に迷惑をかけまいと思った私は、すかさず遠慮をした。
だが女子にはどうやらその受け答えが宜しくなかったようで……
「飲んで行かれないんです…?」
と、憂うような目でこちらに踵を返して視線を送ってきた。
「……じゃあ戴きます。」
とそう、諭されて思わず私が返すと、女子はさっきとはまるで別の仮面を着けたかのように、満面の笑みでお茶を淹れ始めた。
「あの…ここはお花屋さんですよね?」
女子がお茶を淹れ、ロッキングチェアまでカップを持ってくる途中、私は思わず尋ねた。
「ええ、そうです。表の看板に『Fleuriste de minuit』(フルーリスト ドゥ ミニュイ)、『真夜中のお花屋さん』って書いてあるんですよ。」
カチャリと音を立ててレジなのか作業机なのか、カウンターにティーカップを並べて女子は受け答えた。
「今更ですが、私の名前は葵です。貴方のお名前は?」
ロッキングチェアに座りながら、やっと女子は自身の名前を告げた。
「私は、直です。舘脇直。……失礼ですが、葵さんはお幾つなんですか?」
「私?私は25ですが……。」
そう言ったあと直ぐに彼女は顎を摘むようにして考え込んだポーズを取ったか、と思えば「あぁ、なるほど」とでも言うようににんまり微笑んで、「私見掛けが見掛けだから、そんな風には見えませんよね。」と笑った。
「大変失礼なことを訊きましたね…すみません。」
「いえ、このことについては慣れているもので、一応この歳でこの見た目ですが、ここの店主です。」
ふんわりとしたレース状の袖口から取り出して、葵さんは名刺を一枚、私に渡した。
『水城葵』と書かれた文字は何だか美しく透明に光って見えた。
ほうっと、また眺めていると、葵さんがポツリと言った。
「舘脇さん、すみませんが少しだけ…私の話に付き合って貰っても宜しいでしょうか?」
不意に名前を呼ばれて「はいっ」と返事を勢いよくしてしまったが、取り敢えず話を聞くことにした。




