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いわゆる、他人事ってやつ 11 ♯ルート:Sf





~シファル視点~



そこまで、ずっと黙って俺たちの話を聞くだけのモブに徹してくれていた二人がソファーの方から近づいてくる。


正直、ナーヴがひなとくっついている姿はいろんな意味で心臓に悪い。


特に心臓に悪いのは、やっぱり瘴気に耐性がないナーヴの体質を知ってるからこそ…直接触れるほど近づくって大丈夫なのか? と思わずにはいられない。


たとえ、影響が出ないために先手を打っていたって、それでも時間がない中で作り上げたものだけに不安の方が大きい。


目の前で、幼なじみを失うかもしれない。


そう思わずに、見守ることが出来ないんだ。


「……ジーク、アレク…」


二人が俺の方に寄ってきて、反対側のベッド横での作業を見守っている。


ひたいをくっつけてまもなく、ナーヴがその体勢のままでジークへ声をかける。


「……ジーク、今は“何人”だ?」


と。


その声に俺はジークを振り返る。俺よりも背が高いジークはすこしだけ前かがみになってひなを見つめ、指を立てる。


「3……いや、4か」


「んじゃ、あとちょっとか」


ナーヴはそう言って、ひなから体を離した。


「これ以上は、現段階では俺が干渉することは出来なさそう。多分、熱上がりまくるかも。とりあえず、あと一日くらいはこの状態キープ。……っと、魔方陣を更新して………ックソ、めんどくせぇな。もうちょっと時間あったら、オートで更新出来るようにしたかったのにな」


ブツブツ文句を言いながら、ひなの頭上に浮かぶ魔方陣へと光を飛ばし、その後に魔石化させたものが出てくる魔方陣の方も同じように魔方陣を飛ばしていた。


「こればっかりは、どうしようもないよ。ナーヴ。浄化のタイミングも、聖女に対して浄化の最終的な情報がどう渡るのかも、誰かが干渉できることは出来なかったんだから」


ジークが腕を組み、ひなの様子を見守りながら言葉を返す。


「シファル。陽向に、解熱と体力回復か何かの薬は準備可能か?」


アレクに不意に聞かれて、「可能だよ」とだけ返す。


「……なるべく、本人が起きている時に、自力で飲ませるように…な」


アレクに念押しされたそれは、多分あの行為のことを言っているんだろうなと分かる。


「あー…うん。まぁ、起きていたら、そうするよ」


なんとなくアレクから視線をそらして、そう返すだけの俺。


「う…ぁ……っっ」


ひなが眉間にしわを寄せて、苦しげにうなされ始める。


「……いいタイミングだ」


ひなが苦しんでいるのに、ナーヴがそんなことを言い出す。


「は? お前なぁ…」


思わずそう声をかけたら、ナーヴがいかにもめんどくさそうな顔つきで俺を見ていた。


「あのな、お前。現状、どんな情報でもいいから集める必要がある。コイツが今、どんな状態なのかを調べるには状態が悪い時に手を出すしかないだろう」


なんて言ったかと思えば、アレクを呼び、ひなの右手を握って「掴め」と差し出す。


カルナークがその場を避けて、アレクが左手でひなの右手を握り、アレクの右手にジークとナーヴが手を重ねた。


ひなのそばを離れたカルナークは俺のそばに寄ってきて、三人の様子を俺と一緒に見守っている。


「……酷いな、これは」


アレクが口にした言葉の意味が分からない。


「情報として入っていくんだとしても、浄化までの光景がここまでひどいものだとは…な」


ジークがキュッとした唇を噛み、黙ってしまう。


(浄化の光景?)


さっきひなから聞いていた話を思い出す。夢で見続けた聖女たちのこれまでのこと。


それと、それが書かれているひなの手帳の存在。


「ま……俺の方にも同じ情報は来てるけどな。なんせ、選ばれちゃったんで。俺。……ただし、ここまで聖女の感情つきじゃなかったけどな。……これ、受け入れるっていうか受け止めるの、コイツが年齢いくつだとか無関係でキッツいだろ」


ひながどこか明るく話すから、どの程度か…想像できていなかったんだと痛感する。


俺が思っていたよりも、きっとひどい光景だったんだろう。


ナーヴも、顔を歪めながらため息をもらす。


アレクがひなの手を離し、後頭部を乱暴に掻く。


「ある程度の時間が来たら、また確認…か」


心底嫌そうな顔つきでナーヴに問いかけると、「2時間後あたりかな」とナーヴが返す。


三人ともひなの方を見下ろし、どこか悲しそうな顔つきになった。


「俺たちはさ」


ナーヴがおもむろに話し出す。いつもより、すこしだけ低い声で。


「ただ、浄化が必要になったから、その浄化に必要な人間として選ばれたから集まった。…だけ、だろ?」


「…あぁ、そう…だな」


返事をするアレクも、声が重たい。


「これまでの浄化についての情報の一部だけが書かれた本を読まされ、それだけを知識として与えられ、聖女が来たらどうかかわっていくかとか、最低限必要なものを揃えていくだけで、どんな魔法とか属性とか魔力の量が必要とかの情報についての詳細がなかなか明かされないまま、結局何をして待ってりゃいいの? って内心思いながら準備してきた。…よな?」


「…そうだね」


ジークはいつものように、微笑みをたたえているような顔つきなのに、無理に笑っているような今にも泣きだしそうな、何とも言えない顔になっている。


そこまで話をしてから、三人は黙ってひなの様子を見続け、すこししてから俺たち二人へ顔を向け。


「ひなが、今、苦しんでる」


と、ジークが告げる。


そんなもん、見たまんまだろ? と内心思いつつも、言葉の続きを待つ。


「これまでの聖女の浄化までと浄化の時の状況を、情報として取り込んでいる状態なんだ。たった一人の頭の中に、15代目までの聖女の“それ”を記憶として入れられている。多分…全員分がひなの中におさまった時、今回の浄化についての方向性やその他諸々が見えてくるはず。……その状態になるまで、ひなに無理を強いなきゃいけなくなっている」


ジークが、辛そうな顔つきになる。


「ひなの目の下、ひどい隈があるよね。……多分だけど、俺たちが知らなかっただけで、ずっと聖女の情報を夢という形で見てきたんじゃないか?」


眠れるための薬が欲しかったひな。


そんな夢ばかりなら寝たくないだろうけど、眠らないと体がもたないことも気づいていたんだろうか。


俺はベッドから離れて、ひなの手帳の場所へと向かう。


「…シファル?」


ジークが不思議そうに俺を見て、手渡した手帳を困った顔つきで開く。


ジークを挟んでナーヴとアレクも、その手帳を覗きこんでいる。


「ひなからこの手帳について明かされていた。さっきナーヴに認識阻害の魔法について相談したのは、この手帳にかけたかったから…なんだ」


俺が説明している間にも、三人は手帳の中に書きなぐられた文章を読んでいる。


「そっちが把握していることと、合致するんじゃないか?」


あまり明かしていい情報じゃないようだから、他人がこれを開いてもわからないようにしたかった。


そのための、認識阻害…だったんだ。


「あー……まぁ、これは……見せてもいいやつは限られるな。確かに」


ナーヴがまたひとつため息をつく。


「さっきも、夢を見ていたんだろうタイミングでうなされて、モヤが出た。きっとこの状態になるまで、人数分みてきて、すこしずつ体調を崩す原因を溜め込んでいたんじゃないか? 頭痛がひどいとか眠れないとかで、俺に薬を出してほしいって相談されてたから」


ジークが最後まで読んだのか、読むのが辛くなったのか、勢いよく手帳をパタンと閉じて目を閉じた。


眉間には滅多に見ないほどの、深いしわが刻まれていて。


「……ジーク」


アレクがジークの肩に手を置きつつ声をかけると、ジークはパチッと目を開いてから勢いよく顔を上げ。


「みんな……」


順に俺たちを見渡して、顔を引き締め。


「もう、これで終わりにしよう。こんなの、ただの悪習でしかない。俺たち含めて、これまでの国民が努力をやめた結果、たった一人の女の子がこんなにも苦しむ羽目になってる。それを看過することは、他の誰でもない…俺たちが許してはいけないことだ」


顔を赤くして、ふうふう言いながら夢の中の何かに涙をこぼしているひな。


「こんな表情(かお)、させちゃダメだ。……陽向には、笑っててほしい」


カルナークが、手をこぶしにしてジークたちへと思いを告げる。


「そう…だ。陽向にとって他人事のはずなのに、渦中にいさせておいて、俺たち国民が楽して浄化()の時を待っているだけなんて…おかしい」


アレクもその思いに言葉を重ねる。


ひながこんな状態になってからだなんて、本当に今更だけど……。


「俺たち自身が、もっと向き合わなきゃならなかったんだ。どこか、まだ先の話みたいに思っていたのかもしれない。……浄化が必要な時期が来たから、ひなが召喚されたのに。何より俺は……この国を背負う人間なのに、まだまだいろんなものが足りていなかったんだ」


ジークは、ひなのひたいにかかる髪を指先で避けつつ、涙をひとつこぼした。


「ごめんね…ひな」


そういいながら、苦しそうな顔つきで。


それぞれに今までとは違う気持ちを抱えはじめ、浄化に備えはじめることになった。


一番やることが増えたのは、ナーヴ。


短時間だけの魔方陣を使いつつ、時間を見ながらひなの様子を確かめる。


頭から出ているほぼ瘴気を魔石化したものを、空間魔法で避けておき、暇を見つつ魔石の属性転換の研究を進めていく。


俺は…というと、薬のことしか手を出せないかと思っていたのに、俺はまたあの場所にいる。


元の距離に近づきつつある、弟と一緒に。



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