双子の魔人と黒面①
僕とクラウゼンさんはクロウィの街でポポ、レポや「お困りですか?」とどこからかにゅっと出てきた神出鬼没なヨルを拾い、元コーンヒル伯爵城へと発つ。
そして数時間後にたどりついたその場所を目の前にし、惨状に驚愕した。
すでに半壊してぼろぼろで、廃墟と見紛うような状態だ。
「こ、これは一体……」
「……急ぎましょう、生存者がいるかも知れない。皆、周囲に警戒して移動しよう」
遠くからでも感じられる強い魔力が僕に警鐘を鳴らす……人気はないが、何者かが潜んでいる、おそらく。
大きく破壊された門から城内に侵入すると、内部は目をおおうようなひどい有様だった。大勢の兵士達や使用人が倒れているが、一人として息をしている者はいない……。
コーンヒル元伯爵の配下だろうが、フェルマー伯爵の配下だろうが問答無用で殺されている。
「誰が……一体ここまで」
「やだ……」「い、生きてる人はいないですぅ?」
ヨルが青ざめた顔でのどを鳴らし、ポポレポが、僕の体にぎゅっと身をよせる。
血の匂いが鼻を刺激し、嗅覚を奪う。
「奥……ですな。慎重に行きましょう」
険しい顔でクラウゼンさんが杖を握りしめる。
「ええ……三人とも、大丈夫?」
何者かとの戦闘は避けられないだろう。
すくんで動けないようでは話にならない……僕は三人の様子を見回す。
「もちろんです……このような悪辣な所業、放ってはおけません……!」
「あたし達も戦う!」「大丈夫ですぅ……ギルマスもフィルも、あっちらが守りますから」
決意は固いようだ……皆がいてくれれば、僕も心強い。
「生存者の救出を優先しよう。だけど多分敵もそう甘くない……戦いになるのは覚悟しておいて。それに、こんなことをする奴らがもし街にせまったりしたら、目も当てられないしね……」
言っていて背筋に悪寒が走る。
この場だけでも何名の命が失われたかもわからない状態なのに……。
「君の言う通りだ……この何者かは、確実にここで討ち果たさねばならない。ですが、我々は冒険者……生きて帰ってやっと一人前だ。皆、最悪の場合は自らの命を優先して構いませんから、くれぐれも落ち着いていきましょう」
クラウゼンさんが皆の不安を取り除くように笑う。
こんな状況でも余裕を保っているこの人の姿は貫禄がある……僕には真似できない。
頼りになる仲間達と共に、僕は城の奥の階段を目指す――。
◆
――当然ながら、上の階にも生存者の反応は無い。
そして敏感な相手ならば、すでにこちらを察知していてもおかしくはないが……一向に魔力の反応は動く気配も無く、こちらを待ち受けているようだった。
「ヤバそうなのがいるな……」「嫌な感じ……ですぅ」
「禍々しい気配が……ニ、三か? 主様……」
進むにつれ、魔力の気配がどんどん濃くなり皆も警戒を強くする。
竜人村で対峙した魔人たちよりもずっと大きな魔力を隠そうともせず、見せびらかすかのように放出している。
「皆気を付けて……ここだ」
「油断せぬように」
僕とクラウゼンさんはうなずきあうと、扉を開け放ち素早く中へと飛び込む。
その部屋は大規模な催しが行われるホールのようなものらしかった。
広い空間の奥……そこに三つの影が見える。
「おぉっ!? やっと来たじゃ~ん、待ちくたびれたっての!」
「……チッ」
奥の一段上がった舞台の上に座っていたのは、おかっぱ頭の二人の少年だった。
その後ろには異様な気配を放つ黒い騎士鎧がたたずむが、ぴくりとも動かない。
少年達の瞳は、フォルワーグさんが呪眼と言っていたアレと同じ物で、間違いなく魔人だとわかった。
「皆、こいつらは魔人だ……気を付けて」
「おっ、俺らのこと知ってんだ? ってことはぁ……アレかな? なんだっけ、ロガ」
片方の紫色髪の少年は耳障りな咀嚼音をクチャクチャと立てながらもう一人にたずねる……。
「……相変わらずお前は頭が悪いな、キオ。《継承者》とかいう奴だ。左手を見てみろ」
もう片方の青髪の方は、陰気な顔でこちらを睨みつけ……キオと呼ばれた方は、楽しそうに両手を挙げて舞台から飛び降りる。
「こりゃラッキー、ターゲット発見って奴じゃん!? 助かったぜ、そろそろ喰い飽きてきたところだったからさ、雑魚ちゃんは……ペッ」
「げっ……」「気色わるぅ……」
少年は何かを口から吐き出し、ポポレポが口をおさえた。
地面に落ちて転がったのそれは、人間の指だった……。
吐き気をした僕は思わずうめく。
「お前らは……何の為にこんなことを?」
それに対し、彼らはせせら笑う。
「えっ何言ってんの? 兄ちゃんさぁ、俺らのことを全然分かってねぇな……こういうもんなんだよ魔人ってのは……。人間のガキだって蟻とかカエルとかぶっつぶして遊んだりすんじゃんか? それと同じじゃん? 俺らがやってることは」
「……お前ら人間の方が狂ってるんだよ。喰うか喰われるかの世界で、慣れ合いなんて……反吐が出る」
良くしゃべるキオと、陰気なロガ……見た目は少年だが、今の言葉でどちらも人の心などないことが……決してわかり合うことができないことがわかった。
ロガと黒い仮面の人物も動き出し、三人がゆっくりとこちらへ向かって来る。
僕らもそれに応じる構えを取り、両者の間に緊迫した空気が流れだす。
「いい顔になってきたなぁ……さっきまでの奴らはおびえて逃げるばっかしだったから、つまんなかったんだよ! さあ、遊ぼうぜ……仲間を一人ずつ殺してさぁ、どんな顔になってくのか今から楽しみだな! よぉし《継承者》、アンタは俺がもらう! ロガはそいつと他の雑魚共をつぶしてろ!」
「……勝手な奴。死ねばいいのに……行け、黒面」
キオの言葉に陰気なロガは舌打ちをしたが、とりあえずは従うつもりらしい。
そして命令に呼応したかのように、黒面と呼ばれた甲冑の戦士が後ろから飛びだし……腕から生やした強い魔力をまとう黒剣を振りかざす――。
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