双子の魔人と黒面②
大地を分かつような斬撃が地面を揺らし、僕らは左右に飛んで回避する。
「先にこっちを片付けるから! クラウゼンさん、指揮をお願いします……無理せずあいつらの攻撃をしのいで!」
「俺達がまだ固有の邪術を使えないからってなめてくれんじゃんよ! 《闇爪撃》!」
それに合わせるように走り込んで来た紫髪の魔人が右腕を振りかざす。
こないだ会った奴らと同じような魔力を宿した爪での攻撃。
《ウィンドブレード》を握りつぶされそうになりながら受け止めると、キオと言う魔人は癇にさわる笑い声を響かせた。
「すげーコイツ! 中級魔人の中でも高位のオレの魔力を普通に受けやがった! アハ、アハハハハハハ! 楽しー!」
ガッガッガッガッ……!
連撃が続く……彼らはダルマンタやリオが使っていたような独特の技は使えないようだが……それでも前の中級魔人とは大違いの攻撃力だ。
しかもこちらのスピードに合わせて来る……すぐには勝負がつきそうにない。
気がかりなのは向こうだ。
四対二とはいえ……こいつと同等の力の魔人が二体だとすると……。
「おいおい《継承者》、よそ見してっと風穴開けちゃうぜ! ギャハギャハギャハ! 《闇散弾》!」
「うるさいなッ!」
少年はもう片方の手に力を集中させ、黒い魔力弾を僕の周りにばらまく。
僕がトルネイドで一か所に巻き取り後方へと逸らすと、それらは壁に大穴を開けてどこかへ飛び去った。
「やるじゃん、たかが人間のクセに……」
カウンターで放ったウィンドカッターがキオの肩を傷つけたが、すぐにそれはふさがりダメージにはならない。
……一方で向こうでは……大剣を振りまわす黒い仮面の男を三人が牽制しているのが見える。
「……ジジイ、首を突っ込まなきゃ静かな余生を送れただろうにな」
「いやいや、魔人と戦うなど……かつて散った戦友への土産話にこれ以上はありませんよ!」
遠距離から攻撃して来るロガという魔人の片割れの攻撃はクラウゼンさんが重力波で叩き落としている。それをしつつ、三人に適宜支援を行う視野の広さと判断力はさすが僕らのギルドマスターだ。
「フィルシュ君、こちらは大丈夫です! 全力で自分の相手に集中して下さい!」
(ありがとうございます……!)
こちらが攻めあぐねていたのを感じ取ったのか、クラウゼンさんからの大きな声が飛ぶ……その声に僕は叱咤される思いだった。
僕は改めて魔人キオに向きなおり、深く身を沈める。
「ケケケ、やっとで本気かよ……どんだけのものか見せてもらおうじゃん」
あくまで余裕の態度をくずさないこいつの軽口に付き合っている暇はない。
――今度はこちらから攻める。
「《残映の転舞》」
「……ギッ!?」
目の前を残像に取り囲まれ、魔人の動きがにぶる。
「チッ、こんなもんがなんだっての……?」
奴は自分に向けて迫ってくる残像の一つに対処しようとした。
――バシュッ!
「なんだぁッ……ぐはっ!?」
だがそれは寸前で搔ききえ、元の姿を取り戻した風の刃が体を切り裂く。
と同時に僕も背後から一撃を加える。
「小細工かよ……」
《残映の転舞……《ウィンドカッター》+《ミラージュ》の合成。分身に偽装した風刃が相手を惑わせ斬りきざむ。
「お前らの遊びに付き合うつもりはない……どんどんいくぞ」
ぐるぐると周囲を回って攪乱する分身体の姿を追い切れず、魔人キオはその体にダメージを蓄積させてゆく。
「いづっ……ちっくしょ、なめんなァッ! ……《闇球爆》!」
状況をまずいと見たのか、奴は両手を交差し魔力を集中。
そして次の瞬間、自分を中心に広範囲を巻き込む爆発を起こす……。
巻き込まれた残像たちが消失し、煙が辺りを包んだ。
「主様――!?」
「こうしちまえば、一気につぶせんだろーがっ、バーカ! 奥にいるテメエが本体だっ! 死ねぇ!」
爆発の余波に反応したヨルが悲鳴を上げ、キオは一人残った僕の方へと突進し、鉈のように腕を振るう。
ザバン――!
「…………ッ」
勝利を確信したキオの表情がそこで変わった。
最後の一体――それもぼやけて消え、傷を負ったのは魔人の方だ。
「ウゲェ!? なんでだよ、おいィッ……!?」
「それが本体じゃないからに決まってるだろ……」
ストン……!
ずいぶん間抜けな音がして、空中から飛び降り様の一撃でキオの首が落ちる。
「……そんな、どこから」
僕は人差し指で空中を指し示した。
「上だよ……相手を見下してばかりいるから、そんなことになるんだ」
《エアロック》による光の屈折で姿を隠していたものの、お粗末な結果だ。
魔人にも老化現象があるのかは分からないが、精神年齢が幼く未熟な相手で助かった。
「ひ、卑怯だぞ! 《継承者》……! おいロガ、助けろ!」
卑怯もクソも無いだろうに……命懸けの戦いなんだ。
キオは地面に落ちた状態で、必死の形相でさけんでいるが、すでに切断した部位の近くから崩壊は始まっている。
「チ……馬鹿が油断しやがって! 黒面、やれ!」
舌打ちする片割れのもう一人が指示を下した、黒面とやらの黒い剣が振りかぶられる。凝縮された魔力が闇の斬撃を作り出し、広範囲を黒い三日月が薙ぎはらう。
「うきゃぁっ!」「やっば……!」
「グラビティウォール……! 今のうちに移動を!」
かなりの規模で……皆クラウゼンさんの重力魔法が押しとどめる間に避けるのが精一杯だった。その隙にロガは纏った魔力を伸ばし、キオの首を掬い上げる。
「おい、ロガ……どうにかしろ! 死んじまう……」
別れの言葉をたむける位の情はあるのだろうか……生首だけになったキオが焦った様子で話しかけるのを見て、青い髪のロガは微笑んだ。
「ククク、どうにもなんねーよ……だが、一つだけ方法がある……」
「本当かよ! は、はやくしてくれよ……頼むから。何でもいいから……」
だが、泣きそうな顔で懇願する兄弟の顔を見てロガは楽しそうに顔を歪め、言い放った。
「……嘘・だよ」
「……は!? オマエ……」
「んな都合のいい方法あるわけないだろうが、バーカ……」
一瞬喜びを浮かべたキオの表情はすぐに凍りつき、兄弟の片割れの口が笑みの形のまま大きく開かれた。
……そして。
「や、やめろ! 兄弟だろ!? やめ、テメェ! ……ウ、ウァァ、アァァァァァッ!!」
――バキ、バキ、ゴリュッ……。
キオの頭は吸い込まれ、ひどい音をして咀嚼されていった。
(……自分の兄弟を、喰いやがった)
あまりのことに、皆声を失い……そして魔人の体から濃密な魔力が噴き出し、ドロリと奴を包みこむ。
「……ヘマしたのはこれでちゃらにしておいてやるよ、馬鹿兄貴。ハハハ、やったぞ……ついに上位魔人に登り詰めてやった! ヒヒヒヒヒハハハハハ……。ありがとうよ、あんたのおかげだ《継承者》ァ!」
心からの喜びをぶちまけ、姿を変え始めた魔人を前に……僕らは人々の倫理でこいつらを推しはかるのは無意味なのだと、この時まざまざと思い知らされていた……。
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