竜人族の魔剣
祠を元通りに閉じた後……竜人たちの村に戻った僕達は、ディーグル族長に事の次第を報告した。
「フィルシュ殿……どうであった? 無事あの子は、精霊界へと旅立ったのか?」
「……ディーグル族長、知っていたんですか!? 試練を受けられるようになるための条件とか、ラグのこととか……そりゃないですよ」
「すまん……だが、あの子が帰って来たと言うことはそういう覚悟があってのことだろうと思ってな。許されよ……ラグにもあなたにも、つらい思いをさせてしまっただろうが……」
僕らを同行させた理由をくわしく話さなかったことについて、族長は弁解しなかった……確かに、事前に言われてどうこうできる類のものではなかったし、仕方がないんだけどさ。
僕のため息に苦笑し、族長はあぐらをかいた体を大きく前に倒しながらラグのことを頼んできた。
「何もなければ、あの子を次の族長にと思っていたんだがな……これもあの子の天命なのかも知れん」
「ラグのことは任せてください。あ、そうだ、彼女の御両親は……?」
「健在だ。他の者と共にもう別の集落に移った。襲撃を受けた時のために、我らはいくつか拠点を用意していてな……あの子もそれは知っている。戦いが終わったなら、またラグと共にゆっくり会いにくると良いだろう」
「……はい。必ず」
族長さんが差し出してくれた手をにぎると、彼は何かを思い出したように、そばに控えていた竜人に呼びかけた。
「そうだ、あれを持って来てくれ……」
「ハッ……少々お待ちください」
少し間があって、竜人の男性が持って来た包みから現れたのは、一本の青い剣だった。
意匠はシンプルだが……重厚な感じがする立派な片手剣。
ディーグル族長は、それを僕に突きだしてきた。
「これは我が村に伝わる宝剣……《青き翼》という銘のものだ。あなたに託そう」
「く、国の管理外の魔剣ですか?」
そんなものがあったなんて……。
へぇ、すごい……刀身はわずかに青く光る金属で形作られ、湖をそのまま剣の形にしたような美しさだ。
でも僕はつい受け取るのをためらう……魔剣にあまり良い思い出が無いから。
こんな物を持っていることを知られたら、またテッドみたいなのがやって来て捕まえられたりしてしまうのでは……?
そんな疑念を察したのか、メリュエルが素早くフォローしてくれる。
「柄を見て下さい……教会の聖印が彫られています。これはおそらくネルアス神教会が製造させ、管理して来たものなのでしょう。恐らく持っていても事情を説明すれば罪に問われることは無いはずです」
彼女の指さす柄頭には確かにそれらしき彫り物がしてある。
それなら一安心だけど……。
「……でも、僕が持っていていいんですか? 本来ならこれは、ラグが扱うべきものなのでは……」
「あやつが目覚めるまではどのくらいかかるか分からんのでな。その間我らが持っておくより、あなたに使ってもらった方があの子も喜ぶだろう。ラグの代わりだとでも思ってくれ」
「……わかりました、お預かりします」
そう言われては断れない。
とりあえず下げてみたけど、普段剣なんて付けないから腰回りに違和感がすごい。
ズシリとくる重みになれるまでは少し時間がかかりそうだ……。
「では、僕らは元いた街へ戻ります。なにかあったらクロウィと言う街の冒険者ギルドまで知らせて下さい」
「世話になったな。本来なら幾日もあげて歓待したい所だが……楽しみは次の機会に取っておくとしよう。竜化して近くの街まで送るので、外に出られ――」
「……お、お待ちください!!」
族長の厚意を悲鳴じみた声でさえぎったメリュエル。
よほどあの空中散歩がこたえたのか、思い出すだけで膝が震えだしている。
彼女は僕の袖をつかんで青ざめ、懇願した。
「フィフィフィ、フィルシュ後生です! 空の旅だけは……私には耐えられません! あれをもう一度行う位なら、私は真冬の山中で滝にでも打たれていた方がまだマシなのです……!!!!!!」
「そこまでなの……? わかったよ。ディーグル族長、お気遣いはありがたいのですが遠慮させてもらいます。移動用の魔法も使えますし……」
メリュエルだけ陸路で帰らせるのも悪いし……ちょっと残念だけど今回は辞退させてもらおう。
「ふむ、それなら仕方が無いが、空はいいものだぞ?」
「ネリュももっかい、のりたかったの。ラグよりおっきい?」
「おや、娘子、話が分かるな……私の竜化はラグの二回りも大きいとも」
「ほんと!? こんどのせてほしい!」
「いいだろう……約束だ」
残念そうに眉を寄せた族長も、ネリュの言葉に機嫌を直し彼女を嬉しそうに高く抱き上げた。僕もあの遊覧飛行は楽しかったから、またラグが帰って来たらお願いしてみよう。
「皆さま、良かったらこれもお持ちください!」
「これは、あの美味い酒ではないか! ありがたい!」
「うふふ……料理と合わすのも良さそうですね! 大切に飲ませていただきます……」
隣ではダークエルフの姉妹が竜人達に《竜の滝》を何本か持たされて嬉しそうにしている。僕は飲めないけど、ポポレポ辺りにあげたらきっと喜んでくれるだろう……良かったね、二人とも。
そして族長は僕達を街道に続く道まで案内し、そこで別れを告げた。
「そこの道をまっすぐ行けば、アルサラという街がある。そこを経由すれば、そなたらの街までの道もわかりやすいだろう。ではフィルシュ殿……そなたの無事を祈っている。他の皆も元気で……またいつでも来てくれ」
「ええ、ありがとうございます……それじゃ、また!」
「「「《継承者》様方……お元気で!!」」」
ディーグル族長ともう一度堅く握手をかわした僕らは、竜人村の人々に見守られながらまっすぐ伸びる帰り道をたどり始め……こうして今回の竜人村への小旅行はさして大きな戦いもなく無事幕を閉じたのだった。
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