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リタからの手紙

 数日の旅程を終えて屋敷に帰りついた僕達。


 寝息を立てるネリュを背中に背負う僕は一番に飛びついて来たシュミレに真っ先に肩口を齧(かじ)られる。


「フィルシュお帰りっ! そして、とりあえず噛(か)ませなさいっ!」

「ただいま、ってどうしてさ!? いった、痛い! ちょっとシュミレぇ!」


 凶行に走る女剣士の、宣言通りの行動に僕は対応に困ってしまう。


 両手がふさがってガード出来ないっていうのに……一体どうしたんだ!?

 表情も怒りつつ喜んでいるという良く分からないもので、僕はとにかく理由を問いただした。


 すると彼女は犬歯をむき出しにするようにして耳元で怒鳴る。


「うるさぁい! 聞いたわよ、王都にまで女作ってるって……後何人いるのか白状しろ!」

「はぁ!? ちょっと落ち着いて。 ……どういうことなの、リゼ……っ」


 僕はリゼがシュミレを抑えてくれるのを期待して声をかけたのだが……。


「フィルシュ~。お手紙ですよ♪ 誰でしょうね、こぉんな可愛いお手紙……」


 後ろにいたリゼはニッコリ笑顔で小さな封筒(ふうとう)を差しだす。

 表情とは裏腹な、背中から発散される負のオーラに、僕は思わず戦慄(せんりつ)する……。

 こ、怖い……。


「あ、ありがとう……この手紙は、あー……リタから?」


 なるほど……僕はどうにか右手を出して手紙を懐(ふところ)にしまい、シュミレを引きはがした。甘噛(あまが)みだったせいか血は出ていない。


「ほらそろそろ離してって……僕は食べものじゃないんだから。美味しくないでしょ?」

「仕方ないわね……今回はこれでかんべんしてあげる。でもまぁ意外と美味しかったわよ? アンタもどう? ちょっと試してみない?」

「やめてよ……」


 シュミレが衣服の肩口をずらし、僕に近づけた。

 身体からただよう甘い香りに僕はあわてて顔を背け、ちらりと狐人の少女をうかがう。


「あ、あの……リゼ。今日は止めてくれないの?」

「知りません♪」


 そしていつもなら彼女を制御してくれるリゼも、ピシっと青筋を立てただけでくるりと後ろを向く。


 リゼはそのままの笑顔で冷たい声を出すと、尻尾をピンと立てたままその場を去っていった。ちょっと理不尽だと思わないでもないけど……僕にも非があるような気もするし。強くは言えないな……はぁ。


 仕方なくヨルが、シュミレを後ろから引っぱって遠ざけてくれる。


「ほら、主様がお困りだ。離れろ」

「この位のスキンシップは許されてしかるべきよ。あたしたちはずっと留守番だったんだからね……何よアンタ、フィルが色んな所に女作っててもかまわないの?」

「フン、主様ほどの男ともなれば……行く先の町全てに懇意(こんい)の女性がいてもおかしくなかろう。その程度のことで我が忠誠は揺るがぬ」


 自慢げに言うのはやめてよ……王様でも多分そんなことしないだろうに。


「――おっ、フィルじゃん、おかえりっ!」「待ってましたですぅ!」


 シュミレとヨルが睨(にら)みあっていると、リゼと入れ替わりでポポレポが駆けよってきた。


 彼女達は勢いよく僕に抱きつくかと思いきや、アサの方に進路をかえる。


「うう~……女神が、女神が帰って来たぞ。いつもありがとうな……」

「あっちら、もう家事は当分かんべんですぅ……」

「うふふ、ご苦労様です……今日からまた私が頑張りますから! あ、お二人にお土産のお酒ですよ!」

「「うわ~い!」」


 どうやら、相当大変な思いをしたらしいね……そんな彼女達をアサは柔らかくいたわるとウインクして見せ、二人は涙を流しながら喜んで彼女にまとわりついた。


「――あれ、そういえばラグがいないんじゃない?」


 シュミレの言葉に僕はドキッとして、目を斜(なな)め上に動かす。


「ああ、彼……いや彼女はさ、ちょっと事情があってしばらくここを離れるって」

「彼……女? え、なに……どういうこと? なんか嫌な予感するんだけど……」


 シュミレは目をあわそうとしない僕の前に回りこみながら、表情をどんどん険しくしてゆく。その疑問に答えたのは、一人冷静な無表情で荷物を片付けていたメリュエルだ。


「ラグは特別な一族の出で、強い恋愛感情を他者に表明した時、相手と結ばれる為にはじめて中性から性別が変化し始めるのだと聞きました。それとは別に《継承者》としての使命を果たすべく、今別の場所に旅立っています。おそらく帰って来る時は、完全に女性となっているでしょう」

「……はぁぁぁぁぁぁ!? 良く分かんないけど、元々男でも女でもどっちでも無くて……あぁ、だからフィルにまとわりついてたってワケ? んで、女になって……ええ?」


 シュミレは一通りまくし立てた後、頭をぐるぐると回し……引きつった笑みを浮かべながら一言だけ告げた。


「結局……また、増えんの?」


◆


(ふ~……やっぱりここが一番落ち着くな)


 ところ変わってここは自室。シュミレの糾弾(きゅうだん)をやっとのことでかわした後、僕は椅子に座って久々にゆっくり疲れを癒(いや)していた。


 何だか色々あり過ぎて、頭の中が整理できてない。


 《継承者》とか呼ばれて魔人と戦わなきゃならなくなったり、ラグが女の子になっちゃったり、街の様子もまた見に行かないといけないし、レキドは大丈夫か心配だし、リゼは怒ってるし……あっ、そういえば、リタからの手紙もあったんだ。


 思い出した僕が手紙の封を切ると、そこから出てきたのは可愛らしい字で文字がつづられた……薄紫色の便箋(びんせん)だった。とてもいい香りがする。


 僕はぼんやりと内容に目を通してゆく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 親愛なるフィルシュへ……。


 王都をあなたが去ってから数か月が経ちましが、元気でお過ごしでしょうか。


 私は大じじ様や宮廷魔法士の皆と相変わらず魔法の研究にかかりきりになっています。とはいえ、きちんと体には気を使っていますからこちらの心配はしなくても大丈夫です。

 

 大じじ様も年甲斐もなく張り切っていますが、体の方がついていかないようで……でもブチブチ文句を言いながらも、楽しそうにしています。ラクアやドガンスさんも、要素結晶抽出器の作成のかたわらこちらに良く顔を出してくれていて、大じじ様とすいぶん仲良くなったみたい。


 アルティリエはいつもあなたの顔をみたいと私に泣きながら愚痴(ぐち)って来るので、面倒で仕方ありません……私だって同じ気持ちなのに……。あの人の方がお姉さんなのだから、ちゃんと威厳のあるところを見せて欲しいものです、全く。


 そういえば、そちらは安全ですか? あれからこちらでも、数体の魔人が国の魔剣使い達に倒されたと聞いています。フィルシュがいるから大丈夫だとは思いますが、少し心配で……。


 大じじ様はあの時の魔人の核を調べましたが、あの黒い結晶は私達人間の体で例えると、頭部にある魔臓(まぞう)と非常に近い構成をしているそうで……それがあるせいで彼らは膨大(ぼうだい)な魔力が操れるのではないかと聞きました。現状で判明したのはそれだけなので、なにかわかればまた知らせますね。


 私の研究のほうも着々と進んでいて……魔導炉の方は年単位で時間がかかりそうですが、魔導飛空機の方は、試作品の方は年内には建造できるかもしれません。その際にはあなたの名前をどこかにいれたいなと思っていますが、いかがでしょうか……。嫌ならもちろん止めておきますので、またお手紙でも下さると嬉しいです。


 ……本当に私の夢をかなえる為の道を示してくれて、ありがとう、フィルシュ。

 日々あなたのことを思い出さない日は無いくらいに、会いたい気持ちはつのっています。けれど、やっぱりあなたに会う時は、あなたにふさわしいと周りから認められる位素敵な人になっていたいので、今は我慢の毎日です。


 でもあなたは今度会う時にはきっともっと先に進んでいると思うから……楽しみなのと、不安とで半分ずつ位の気持ちで……リゼリィや、ポポ、レポ達に置いて行かれてないか、とっても心配。


 どうか私のことを忘れないで、また会ったら優しく抱きしめて下さいね。

 私の一番大切なあなたと、またお会いできる日を楽しみにしています。


                            ――リタ・チェック




 追記)愛するフィルシュへ……。


 ああ、フィルシュ。いかがお過ごしだろうか……私もリタ同様、あなたの顔を見たいと願いながら毎日枕を涙で濡(ぬ)らしている。画家に依頼してあなたの肖像画(しょうぞうが)を描いてもらっておくべきだったと後悔しているくらいだ……。


 王都にもあなたの噂(うわさ)は届いていて、悪行を行っていた貴族を排斥(はいせき)し、一つの領地を救い上げたと聞きおよんでいる……普通なら信じがたい話ではあるが、あなたのことなのだから、真実に違いないのだろう。


 日々、あなたのことを思うだけで胸が切なく、張り裂けてしまいそうだ……。あなたの胸の中に私の姿は少しでも、とどめていただけているだろうか?


 可能なことなら、こんな仕事など放りだして今すぐあなたの住む街へ飛んでゆきたい。


 だがリタは、自分の責任を放棄して他に迷惑をかけるような人間をフィルシュは好まないなどと言うし……立派になったのはいいけど、ちょっと最近生意気なんだ。前みたいにもう甘えてくれないのかなぁ……少し寂しい。


 おっと、話が逸(そ)れてしまったけど……本当に私もあなたが来るのを心待ちにしているんだ。次あなたが来るときにはもっともっと、お互いのことを分かりあえたらと思っている。あなたがもし望むなら、あんなこともそんなことも、なんであろうと受け入れる覚悟は~~~~~~……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 これ後半部の追記、アルティリエさんなんだろうけど、途中でリタが取り上げたんだろうか、文章がぐちゃぐちゃになっていて読めないや……。


 喧嘩(けんか)している姿が頭に浮かんできて……。

 う~ん、相変わらずで安心できるようなできないような……そんな終わり方だった。


 一番大切な人かぁ……誇らしいけど、今の状況を鑑(かんが)みると少し胸が痛いかも。

 僕も彼女を見習って、しっかりしなくちゃな……。


 ともあれ皆の近況が知れたのは嬉しかった。しばらく忙しくなりそうだから二人に会える日はまだ遠いと思うけれど……また王都に行ける日を楽しみにしつつ、今日一日はゆっくり羽を伸ばそうっと。

・面白い!

・続きが読みたい!

・早く更新して欲しい!


と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。


作者のモチベーションにつながりますので、なにとぞご協力よろしくお願いいたします。

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