混ざる心
甘いにおいのする体を押し付けられて、僕の心臓がはね上がる。
「ちょっ! ち、近い……取りあえずもう少しはなれよう、ね?」
「やぁだ……」
彼女は首筋に顔をこすりつけて来る……猫が甘えるような仕草で。その身体は風邪でも引いているんじゃないかと思う位に熱くて……僕は額に手をやる。
やっぱり熱いな……。
「ほら、ベッドに運んであげるから。だめだよこんなことしちゃ」
「ダメなの? どうして……だって、なんか、胸の奥がぎゅっとしてつらいの……」
とろんとした瞳で見上げて来る少女に、僕は頭が痛くなる。
「こういうのはさ、好きな人同士でないと……よくないよ。ほら、どいて」
僕は彼女を押しのけようとしたけど、どうもその時は失念していた……彼女がまだ腕をあまりうまく動かせないことに。
「きゃっ!」
「危ないっ!」
身体がぐらりとかたむき、地面へと叩きつけられる寸前で、なんとか体を抱きとめて入れ替える。
「ったた……!」
「ごめんなさい……あ」
自然と僕らは床の上で抱きあう状態になり。
「「…………」」
そのままの態勢でしばしじっとしていた。
めまいがしそうな位、頭が熱くなるのがわかった。
彼女が退いてくれない……いや、僕がどかさないといけないのに、
なぜか力が入らなくて押しのけられない。
その後彼女はふぅふぅと荒い息を吐き出し、ゆっくりと顔を動かすと、僕の肩口を……舐める。
「ひぇっ!? ちょっと……いっ」
そして、嚙む。
薄く流れた血を、ぴちゃぴちゃと舐める音が耳元でひびく。
「シュミレ……! 止めて!」
「んふふ……血……。血だ……キレい。美味し、んくっ」
「シュミレ!」
さすがに僕も怖くなって彼女を押しのけた。
彼女の頬を弱く叩く。
「シュミレ、正気に戻って! どうしたの!?」
「え? ……だって、あなたの血が見たかったの……アタシ。……!!」
体を起こした彼女はぼんやりと頭をふらつかせた後、驚愕に目を見開きぼろぼろと涙をこぼしだした。
「ご、ごめんなさいっ……何で私こんなことを!? い、痛かったでしょ?」
「だ、大丈夫だけどさ、これくらい」
さいわいそこまで強く噛まれたわけでは無いので、すぐに治るだろう。
取りあえず正気に戻ってくれて良かった。
「調子が悪いんだろう? メリュエルを呼んで来るから……」
僕はそう言って彼女を抱えあげベッドへと戻す。
「本当にごめんなさい……気持ち悪いことしちゃって」
「大丈夫だから……あんなことがあったから疲れてたんだよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
鼻声であやまる彼女の頭を撫でながら、僕は《リジェネレイト》を発動する。
自己治癒力が増進され、すぐに傷は塞がった。
「ゆっくり休んで……何も心配はいらないから」
僕は彼女の細い桃色の髪を梳くように撫でると、安心させるように笑いかけ、扉の外に出る。
(以前と記憶が、混ざり始めてるのか……?)
未だ肩口には、柔らかい唇と舌の感触が、生々しく残っている気がして……少しの間その疼きは治まらなかった。
◆
「ということなんで、僕達がいない間、ギルドの方を任せたいんだけど……二人に」
「それは……主様の頼みとはいえ、承服しかねます」
「そ、そうです……フィルシュだけをあの人達と一緒に行かせるのは、ちょっと心配です!」
ここはギルドの執務室。そして今僕はリゼとヨルに頭を下げている。
クラウゼンさんと、ポポ、レポは大事を取ってまだ静養中だ。
数日もすれば彼らも復帰してくれると思うので、よって僕が《ハブラ族の古代神殿》へとおもむく間、彼女達にギルマス代理の代理を任せたかったのだけれど……予想以上に抵抗が強くて困っていた。
「頼むよ……二人にしかお願いできないんだ。こんなことを頼めるのは一番信頼できる君達だからこそなんだよ」
「い、一番信頼……ですか。それならば」
その言葉に、ヨルがちょっとだけにへらっと口元をくずした……いけるか!?
しかしリゼは彼女の肩を揺さぶり、その承諾に待ったをかける。
「ヨ、ヨルさん駄目です! いつもフィルはこういう風に私達を喜ばせて、言うことを聞かせようとするんですから! 可愛い顔してあざとい方なんです!」
「ぬ、そうか……主様も存外したたかであるのだな」
あざといってさぁ……二人の疑いのまなざしに、僕はおおいに辟易した。
いやぁ、そんなことあったかな……?
多分ない……はず、だと思うんだけど。
「はー……わかったよ、二人がそう言うなら仕方ないね。誰か他の人を頼むしか無いな」
根負けした僕は、しょんぼり肩を落としながら扉へと向かってゆく。
副ギルドマスターなのに、在籍期間が短いせいであまり個人的に親しくしているギルドメンバーがいないんだよね。となると……適当に腕が立つ人に任せるしかないかな? 後で受付係のシャーリーさんにでも聞いてみようか。
まぁ僕も代理だし、良く分からない仕事は置いておいてもらえれば後でクラウゼンさんが何とかしてくれるはずだ。
しかし、それは二人から待ったがかかった……。
「し、仕方ないですね……そんな悲しそうな顔をされる位なら……私がやります! ……未熟者で僭越ですが」
「本当!? 助かるよ、リゼリィ! 後で何でもして返すから!」
「え、何でも……?」
リゼリィがぽわっと頬を染め、あわててヨルが身を乗りだした。
「リゼリィ、お前あんな事を言っておいてずるいぞッ!? あ、主様、任せるのなら我にッ! 我もぜひ、あざと可愛い主様へお願いしたきことがあるのですッ! どけリゼリィ、主様の愛は我がいただく!」
「どきません、早い者勝ちです! ヨルさんは私とフィルが仲良くするのを陰でハンカチでもくわえながら悔しそうに見ててくださいっ!」
「あ~もう、それじゃ一日ずつ交代でお願いできるかな!」
二人がまたぎゃいぎゃい騒ぎ始めるので僕は耳を閉じる。
しかし腑に落ちないな……そんなに彼女達の機嫌を損なうようなこと、してたかな?
他人からどう思われているかって案外自分ではわからないものだよね……気を付けよう。
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