レキド潜入
まあ、こんな風にリデルさんが訪れてから、色々なやり取りがあって……僕はこうして、ひさかたぶりにこの街に足を踏み入れることになった。
――レキドの街。
追放され、この街を去ってから……もう三カ月あまりが立つ。
「……こんなにひどかったのか」
「活気がありませんね……」
頭をフードにつつんだリゼが声をひそめて言った。
知り合いとの不要な接触はさけたいので、それぞれ軽い変装をして来たのだ。
僕はカツラに付けひげ、メリュエルは色眼鏡……そしてリデルさんはあろうことか、あの長いお下げ髪を肩口でバッサリと切ってしまった。無理もない……命を狙われているんだから。
しかし、リゼの言葉通りだ……。
住んでいた頃は、これが普通だったのもあったし……正直自分のことで精いっぱいで、街の現状なんて気にも止めていなかったんだけど……。あらためてこうして戻って来ると人々の目はどこか虚ろで、活力が感じられない。レキドの街はそれほどまでに荒んでいた……。
「ここ数か月で、多くの街の人が逃げ出してしまったわ。商店の人も物が売れないから物価をつり上げて、そうすると貧しい人は物が買えないから盗みを繰り返したりして……薬に溺れる人も多いの。ほら、あそこにも」
路地の隙間に、空を見上げてよだれを垂らしている人がいた。
幸せそうな表情だが、やせこけてしまっている。
「本来であれば、国費で公共事業などをして求人を起こしたり、配給が配られたりすることもあると思うのだけれど、それも最低限で……ほとんどがこの地方の領主のふところに消えているって噂だわ。それでも、誰も彼が恐ろしくて反抗できないのよ」
暗い顔をするリデルさんだが、今は目の前のことに集中してもらわないと危険だ。
「……僕達だけではどうにもできません。とりあえず、まず仲間達の救出を優先させてください。リデルさん、案内をお願いします」
街の窮状は目にあまるが、出来ることは少ない……。
彼女の肩に手をそえ、先をうながす。
「そうね……行きましょう。伯爵の屋敷はこっちよ」
さすがに長くこの街で勤めていただけのことはあり、リデルさんはすんなりと裏路地を通り抜け……人目をさけて大きな屋敷へとたどりつく。
ならず者が集まるという話だが、今は見あたらない……あえて人払いをさせているかのようだった。
「おそらく、監禁しているとすればあの屋敷のどこかになると思うわ」
「兵士が多いですね……普通の衛兵ならこんなに必要ないでしょうし……なにか怪しいことをしているのは間違いないでしょう。どこから入ります?」
メリュエルの言葉に、リデルが遠慮がちに手を上げる。
「あ、あの、私にいい考えがあるんだけど……聞いてくれる?」
◆
ほのかな明かりが穴の中を照らしている……。
メリュエルの神聖魔法 《ライトエリア》で、彼女を中心とした小範囲が明るくなっていた。
「出口まであと少しだと思います。皆さん準備を」
「はい……!」
メリュエルの注意にリゼが答え、続くリデルさんと僕もうなずく。
しかし……。
(前を見てはいけない……絶対にだ)
僕はここに入る前から、固く心に誓っている。なぜなら……。
「み、見てないよね?」
「み、見てません!」
「か、顔を上げちゃ駄目だからね!」
「わかってます!」
つい頭を上げそうになった僕は自制する。
なぜならそこにはリデルさんの……こういってはなんだけど、立派なお尻があるからだ。
今、僕ら彼女が得意とする《土魔法》スキルで掘った、地面の下で緩いカーブをえがく洞穴の後半部分を上に向かって進んでいるところ。
リデルさんが街を出る時も、同じような方法で追跡を振り切ったらしい。
彼女のスカートはそこまで短くは無いから多分、見えないはずだけど……警戒にこしたことはない……。
幸いまわりは光源があるとはいえ薄暗く、このまま上がればおそらく何も起こらずに済むだろう。僕は足をすべらせないように一歩一歩を慎重に進む。
「二人とも、無駄口はそれまで……もうすぐ出ますよ」
メリュエルの冷静な声が聞こえ、進行スピードが上がる。
ようやく解放されると僕がほっとしたのもつかの間。
「ひぇっ……きゃぁぁぁっ!」
ズザザザザザ――!
あーっこれヤバいな、と思った瞬間、僕の顔にとんでもなく柔らかいものがのしかかった。
「うゃぁんっ……! ちょっ、フィルシュ君ごめん! ……そこはっ!?」
「……っ、リデルさん、押しますよっ、ごめんなさい! 早く、行って、下さいっ!」
足を滑らせたんだ……。
どこが当たっているのか知らないけど、圧迫してくるリデルさんのずっしりくる体を僕は持ち上げ、彼女は何とか体勢を立て直し前へ進んで行く。
光が……見えた!
「ううっ……うぇ~ん」
(僕が泣きたいです……)
か細い鳴き声を出しながらリデルさんが地面にへたり込み、ぐったりした僕がほら穴から這い出すと……そこで待っていたのは女性たちの厳しい視線。
「……フィル~っ! 私がいるのにどうして他の人ばっかり触るんですか!? 大きければ誰でもいいんですか!?」
「何をしているのですか、あなた達は……フィルシュ、あまり節操が無いのは考え物ですよ? いつの間にそんなに手が早くなったのです……」
「うう、男の人に初めて触られたよぅ……」
「すみません……すみません。事故なんです」
擁護してくれる人は誰もおらず……邸内にはたどり着いたものの、女性たちからいわれのない非難を浴びせかけられる僕の精神はぼろぼろだ。
これならば、正面突破をはかった方がまだ良かったんじゃないだろうか、という気分になった……。
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