クラウゼン救出
リデルさんの作った穴を抜けた先……ここは厩舎の一角だろうか。
幸いなことに馬はいない……出払ってるのかな?
僕は《リファレンス・エリア》で周囲の構造や魔力を感知し、大まかな人の位置を把握する。
「少し攪乱しますね……《神出鬼没の幻像》」
「私も……《クリエイト・ゴーレム》!」
《ウィスパリング》と《ミラージュ》の合わせ技で分身を大量に作り、辺りにばらまくと、瞬く間に騒ぎが広がり出す。リデルさんの作ったゴーレムも暴れ出したようで、辺りにさけび声が響いた。
「よし、行こう!」
タイミングをはかって僕らは飛び出し、屋敷内に突入する。
「ぐわっ!? 貴様ら一体どこから!?」
「外があわただしいかと思ったら……げふっっ!!」
数名の兵士達が残っていたが、《急加速》だけで十分な位だ。
またたく間に叩きふせる。
「多分、地下だと思う! 階段は……奥か?」
「……あれです!」
メリュエルが扉を開けて確認した廊下の先を指さす。
急いで僕達は螺旋階段を降り、先にいた番兵を殴りたおす。
そこにはいくつかに区切られた牢屋があり、一番奥に僕達は見慣れた人物の顔を発見した。
「クラウゼンさん!」
「……おぉ、フィルシュ君。すまない、不覚を取りました……」
牢屋の鉄柵をウィンドブレードで断ち切ると、僕達は中へ入る。
クラウゼンさんの顔は腫れており、あちこち身体を痛めているようだ。
メリュエルがすぐさま神聖魔法で治療に入る。
クラウゼンさんの腕には《吸魔の封環》という、スキル封じの魔道具が取り付けられている。
これはここで取り外すのは難しい……専用の鍵がいる。
「ふぅ……ふがいない。若い方々に迷惑をかけて心苦しい限りですが、フィルシュ君……お願いします! ポポとレポを助けに行ってやって下さい!」
クラウゼンさんが、痛めた体を引き起こして僕の肩をつかむ。
僕も不審に思っていた……彼女らの姿が見当たらないことに。
「一体、二人はどこへ?」
「伯爵の本宅です……私をとらえた男が自慢げに話していました。あの二人はこれからそこに移送され、奴隷として売られるか、伯爵の慰みものにされてしまうと……」
「そんな……!」
リゼがふらりとよろけて壁にぶつかる。
彼女達は姉妹のように仲良くしていたから当然だ……。
クラウゼンさんが悔しそうに床を叩いた。
「冒険者ギルドだけではなく……この街の有力者達は全員伯爵に取り込まれていた……油断していたとはいえ、あんな会議の場で……」
クラウゼンさんの記憶によると、コーンヒル伯爵のそばに控えていた、燕尾服をまとった男がいきなり目にも止まらぬ速さで背後からなにかを突きさし、一瞬で意識を失った彼は……気づいたらこの場所に監禁されていたらしい。
「おそらくそれが、伯爵の側近のビガーニいう男。侍従頭でありながら、超一流の暗殺者……奴は今も屋敷で目を光らせているはずよ」
リデルさんが肩をぶるっとふるわせる。
話を聞いた時のことを思い出したのかも知れない。
そんな手練れ……出来るなら相手にしたくないけど、おそらく戦闘は回避できない。
なにしろ、ポポとレポが助けを待っているんだ。
「行かないと。あの二人がそんな風に扱われるなんて、許せるもんか……」
「ええ……早く行きましょう!」
リゼも迷いなく言いきる。
「……彼女達がここを連れ出されてから、まだ二日しか経っていません……急げば、間に合うはず」
「ご老体、肩を貸しましょう」
メリュエルがクラウゼンさんの歩行を助け、僕達はうめく番兵を強引に引き起こして鍵のありかを吐かせる。乱暴に壁に押しつけ、顔の隣に風の刃で穴を開けてやると、男はすなおに話した。
「か、鍵は……ハンセル様が持ってんだ! どこにいるかは知らん! う、嘘じゃねぇ……し、死にたくねぇんだ、命だけは助けてくれ!」
数度脅しても同じことを言ったので、ひとまずハンセルとやらを探そうと屋敷の入口へと戻った時だった。
耳障りな哄笑と共に、表から一人の男が姿を現す。
「フフフハッハッハッ……外が騒がしいと思ったらいつの間にかネズミ共が入り込んでやがったか……。おーおー、こいつぁ女連れで結構なこった! わざわざそんな老いぼれを助けに来たって訳か……さぁてはテメェが隣町の新しい副マスだなぁ!?」
顔の上半分を隠すビークマスクを被った奇妙な男は僕らの前に立ちふさがり、その後ろから次々と兵士や冒険者がなだれこんで来る……!
「――こいつが……ハンセル・アヴィン。今のレキドの街のギルドマスターよ」
「おやおや、その声はリデルちゃんじゃねぇのかぁ? 姿をくらましたと思ったが、わざわざ帰ってくるたぁ賢明だなぁ……くくく、褒美にちゃぁんとしつけて二度と逆らわないようにしてやろうナァ……」
「ひっ……」
舌なめずりする男に嫌悪感をあらわし、リデルさんは僕の背中にかくれた。
こんな奴が……。
ギルドマスターは、冒険者ギルドと、そのメンバーを守る屋台骨だ。人をモノのようにしか見ていない、こんなゆがんだ精神の男が務めていい職じゃない……!
「お前にギルドマスターの立場はふさわしくない。今すぐ手枷の鍵を渡して、この街に二度と戻るな……!」
奴に貴重な時間を使うのもわずらわしく、僕は冷たい視線でにらみつけた。
すると男は何かがひっかかったように首をひねる。
「あぁん……? まぁてよぉ、その声どっかで聞き覚えが。気のせいかァ……? まァいい。大きく出たが、どれ程のもんか見せてもらおうじゃねぇの。そうでないと、そこの女共は俺達の晩のおやつになっちまうからなぁ! 行けァ、野郎ども――!」
男の下品な号令に兵士達が沸き立ち、一気に向かって来る。
それらを前に僕は、怒りが度を越すとひどく冷たいものになるのだということを、強く感じていた……。
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