涙と笑顔
蒼太との決別を下した俺はアテもなく学校を彷徨っていた。
蒼太の、最後の笑顔が目に焼き付いて離れなかった。どうして、どうして俺は……
「先輩…」
小鳥遊の声が後ろから聞こえたが、取り合う気にならなかった。小鳥遊も同じ経験をしたとはいえ、俺は小鳥遊のように振る舞うことは出来なかった。
俺は何をするでもなく、どこに行くでもなく、廊下をただ歩いているだけだ。
角を曲がると、前にZONEの集団がいるのが見えた。だが、もうどうでもよかった。俺は人殺しだ、なんの罪もない蒼太を殺めてしまった。生きてる意味も、価値もない。
いよいよZONEの集団が目の前に来たが、俺は腕をだらりと垂らしたままで、闘う気なんて無かった。このまま喰われても良いとさえも思った。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、ZONEは俺を無視するように進んでいった。
ZONEが見向きもしない。それは喰う対象ではない、つまり俺はアイツらに人として見られていないということだ。
やはりそうか、俺なんて、もう人じゃない、いや人でいてはいけない存在なんだ。
ZONEが向かった方向から悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声だ。でも、もう関係ない。
背後から抵抗しながらも「助けて」という音が絶え間なく飛んでくる。
それを聞いていると、だんだん心の中から何かが湧いてくる感じがした。罪悪感に似た、でもまた別の感情。
俺はそれに耐え切れず、背後で襲われている人のもとに走った。そこに近付くとさっきは俺に見向きもしなかったZONEたちは俺に襲いかかって来た。
俺は手にある木刀を強く握り締め、とにかく目の前の頭を潰すことに没頭した。蒼太のことはなるべく考えないように努めた。
しかし、ZONEの頭を潰す度に蒼太の顔がちらついた。蒼太の笑顔が、最後の笑顔が頭から離れなかった。
くそっ、なんでだよ。なんで……。声にならない声が心の中で反響する。
すべてのZONEを倒し終えた後、俺の息切れが木霊する廊下に一つの声が俺の耳に届いた。その声を俺の脳が理解するより早く、俺の頬に衝撃が走った。
「痛っ」
「遅い!!!!死んじゃったらどうするの!!!」
「はる…か?」
目の前に、怒りを顔全体に映した幼馴染が立っていた。清水 遙。蒼太と同じくらい古い仲だ。
「なんでもっと早く来てくれなかったの…」
怒りの表情から一転、その場に座り込み泣き出してしまった。
その姿を見ながら俺は感慨に耽っていた。蒼太の死に際の笑顔、遙の死の淵に立った時の涙。俺はどっちを救いたいんだ。
そんなの考えるまでもない
「ごめんな遙、もう泣くなって」
俺はもう、誰の涙も見たくない。だからお前も笑ってたんだろ、蒼太。