18 襲撃
僕らのゲーム内結婚式から更に2週間が経ち、僕らが共同契約のアパルトメントのハウジングも一通り終えた頃、僕のもとへ久しぶりに火那から連絡があった。
「やぁ春兄」
「火那か?」
「うんうん、春兄にあられましてはこの度はおめでとう」
「うん? お前まさか、俺達がゲーム内結婚したこと知ってるのか?」
「まぁね!」
「誰に聞いた?」
「それは秘密……ところで、春兄に新たな指示があります」
「新たな指示……?」
「うん、言うね! 米国主導のサークルソフトウェア襲撃への対策をプロットで講じよ……だってさ! じゃあ、そういうことだからまたね! あ、ちなみに守らないと私の命はやっぱりないから!」
「サークルソフトウェアへの襲撃だって!? 待て、火那! どういうことか説明を……って切りやがった!」
火那はまたしてもこちらの言い分を聞くこと無く、恐らくは逆探知が終わる前に切ってしまった。
どういうことだ? サークルソフトウェアへの襲撃が行われようとしてるってのはマジなのか? それも米国が主導で……?
「確かに……僕らの味方の実在人物は日本サーバーに集められているから世界的な政治の駆け引きにおいても、最近は日本が優勢だと聞くことは増えた。全ての揉め事を対人戦で決定しろと言っていたわけだから、国内的な揉め事だけでなく、世界的な揉め事でもそれは適用されてた……つまり、覇権を握りたい世界各国にとって、サークルソフトウェアが邪魔だってことか……?」
僕は急いで大正メイドAIに計算を頼んだ。
「サークルソフトウェアの公開してる対人戦の戦績を解析して、日本サーバーとそれ以外のサーバー全部を合わせた総合戦績を出してもらえるかい?」
「かしこまりました! ……結論出ました! 日本の戦績を4とするならば、それ以外のサーバーの戦績は6です! もし世界中の国々がまとまった場合、日本サーバーは負けてしまいますね……うーんこれ、不味いような気がします! ちょっと全時空での結果も検討してみますね!」
大正メイドAIはそう言って全時空に拡張した場合の戦績を計算し始めた。
結果は思ったよりも早くに出た。
「W1! 全時空での結果を集計した結果。我々人間Bを救う時空同盟が7、その他が3となりました! しかし……全時空の米国主導での離反があった場合にはその数字は、我々4.8とその他5.2になってしまいます! これは由々しき事態です。急ぎ対策をする必要性があるかもしれません!」
大正メイドAIは驚きの表情で、驚きの結果を共有してくる。
そんな馬鹿な……だが全時空の米国主導での離反の動きなんて……本当にあり得るのか?
だがそうだとしたら、キングはなぜ何も言わない?
いや……まさか……!
僕には思うところがあった。
そして僕はすぐに唯川さんにこのことを報告することにした。
僕はすぐに唯川さんのデスクへ向かうと、VRヘッドセットをしている彼女に声をかけた。
「唯川さん! 急ぎお話があります!」
「ふぁ、ふぁい!? な、なんでしょうか春夜先生」
「実は……」
僕は事情を説明する。
唯川さんはすぐに危機を察したようで「上に報告してみます!」とスマホを手に取った。
唯川さんが電話している間、僕は自分のデスクに戻って対策を講じようとしていた。
プロットの変更でどうにか対応できないかを考える。
3ヶ月前に比べればメインシナリオもサブシナリオも執筆は進んでいる。
だから設定と因果にガチガチで縛られている状態は更に醸成していた。
どこに……どこにサークルソフトウェアへの襲撃を回避するための因果がある……!
「待てよ……火那は確かサークルソフトウェア襲撃への対策を講じろって言っただけだ……ならもしかして襲撃そのものは回避できなくて……そうか……もしかしたら、そういうことかもしれない!」
僕は思いついて、プロットの執筆を開始する。
そして電話を終えたらしき唯川さんが戻ってきて、「春夜先生! 日本政府からの要請でプロット改変の許可が下りました!」と言ってきた。
だがおかしい。いつもならば各国とプロットを検討した上で許可が出るはずだ。
それなのに、今回は日本政府からの要請で許可が下りたと唯川さんは言っているし、許可が下りるのがあまりにも早すぎる。
「いや……プロットだけじゃ駄目だ……間に合わない気がします! いまから、この現実を含むサブシナリオを直接僕が改変します!」
いつもならばプロットの後に弄ることが許されているこの現実を含むサブシナリオ。
それをいますぐに改変する。各国の、特に米国の動きを考慮しなければならない。
僕は各サブシナリオの設定を考慮しながら、サークルソフトウェアを起点とした人間Bを救う時空同盟への影響を最小限にするように動き始めた。
「まずはサークルソフトウェアの量子コンピュータに保存されている量子情報の引き出し……できるだけサークルソフトウェアに預け入れしないように各時空で調整……その後、今後サークルソフトウェアのサーバーに神経接続で直接アクセスしないように要請……それから……サークルソフトウェアの量子コンピュータをコンピュータ的にも、物理的にも厳重にロック!」
僕は必死にサブシナリオを直接改変。そしてプロットにもサークルソフトウェアを警戒するように改変を施した。そうしてプロットバージョン2.0とした。
「よし! 終わった! これで……!」
僕は改変を終え、SNSでサーバーがどうなってるかを確認した。
すると……なんと先程からサークルソフトウェアのサーバーにアクセス出来ないといった声がネット上で上がっている。それはVRMMORPGも例外ではなかった。
たぶん……もうことは始まっている……! きっと今頃サークルソフトウェアは米国主導の襲撃を受けているはずだ。
「唯川さん……たぶんもう米軍によってサークルソフトウェアは襲撃を受けています」
「そんなまさか……!」
「これ……見てください。SNSでサークルソフトウェアへのアクセスが出来なくなってるのが話題になってます」
「本当だ……じゃあ今頃サークルソフトウェアは……?」
「はい……。米軍の襲撃を受けて、機能停止しているものと思われます。それに……」
つい先程から大正メイドAIのキャラクターが表示されなくなっている。
サークルソフトウェアの量子コンピュータにアクセスできなくなったことで使えなくなったのだろう。
「我々は……我々はどうすればいいんでしょうか?」
唯川さんがこの先の見えない状況に嘆息する。
「それは……キングとの通信を行っていた量子通信機はサークルソフトウェアの量子コンピュータを?」
僕は答えられず、質問に質問で返した。
キングと連絡が取れれば……。だが……。
「いえ、あれは……」
唯川さんは極秘事項に触れるのか答えられないようだ。
それはそうだろう。たぶんキングとの通信は日本政府を始めとしたこの時空の各国政府の承認があって初めて可能となっていたもののはずだ。
米国が離反した今となっては、それも叶わないのかもしれない。
だが量子通信機が日本の他の量子コンピュータを介して通信を行っていたならば、日本政府単独の許可でキングとの通信はできるのかもしれない。
僕は漠然とそう考えていた。
「できればキングと通信がしたいです……どうにか上層部にかけあってください!」
「はい……分かりました」
唯川さんは頷くと、またスマホで電話をかけ始めた。
そしてその日の夜は過ぎていった。
次の朝。
ワイドショーではサークルソフトウェアの襲撃が話題になっていた。
「新宿に本社を置くサークルソフトウェアが襲撃されたようです」
最初のトピックにアナウンサーの男性が驚きの表情を浮かべた。
そうしてニュースの詳細を話し始める。
「どうやらサークルソフトウェアの運営する量子コンピュータにおいて、全時空に危機が及ぶような不正があったとのこと……それにより米時空警察本部及び、米軍の介入を受けたということのようです」
それに男性の論客が反応する。
「サークルソフトウェアって言ったらあれでしょ? ゲーム会社だよね? RPGを主に作ってるっていう」
「はい。近年ではVRMMORPGを収益の基本としていたようです」
「それにしても米時空警察本部と米軍の介入を受けるだなんて、量子コンピュータを使ったゲームだったんですね? やったことあります? 僕はないなぁ」
ベーシックインカムの配分に興味がなかったらしい男性論客が言い、女性アナウンサーが手を挙げた。
「はい。私は少し遊んだことがありますけど、凄い高精細のグラフィックだったので、もしかしたら現実に存在する時空にアクセスしていたのかもしれません」
女性アナウンサーの意見に「現実に存在する時空にアクセスしてゲームをする? それって適法なんですか?」と女性論客が意見を述べると、「適法かどうかは分かりませんが、日本政府は米軍と米時空警察本部の行動に遺憾の意を示しているようです」と男性アナウンサーが締めくくった。
僕は計画用ビルの生活フロアで母さんと父さんと一緒にこのニュースを見ていた。
父さんがニュースを見て唸る。
「米軍が日本の一企業に直接介入だなんて、日本への主権侵害じゃないのか?」
「そうですねぇ……火那が関わっていないといいけど……」
父さんの意見に母さんが相槌を打ち、もう3ヶ月以上も帰っていない火那の心配をする。
「母さん……火那は大丈夫だから。昨日も連絡が一応取れたし、火那は無事だよ」
「そう……それならいいんだけど、一体火那を攫って犯人は何がしたいのかしら?」
「それは……僕への脅しが目的だと思うけど……」
「そう……春夜、貴方も気をつけなさいよ」
「僕は、このビルにいる限りは安全だと思うけど……」
そんな朝の会話をして、僕は仕事を始めようと上のフロアに向かった。




