花嫁、旦那様の顔が良すぎて限界を迎える
こんにちは! あまはる です!
この物語を手に取っていただきありがとうございます。
※本作は史実を元にしたフィクションです。
実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を
多く含みます。
心に余裕をもってお読みください。
立花誾千代は、領民たちに愛されていた。
それは噂や評判ではない。
日々の積み重ねが、自然とそうさせていたのだ。
本来、一国の姫といえば。
奥御殿で琴や書を学び、静かに育てられるもの。
領民の前に姿を見せることなど、滅多にない。
だが誾千代は違った。
幼い頃から、立花山城の城下へ降りては、領民たちの中に混ざっていた。
畑仕事をしている老人を見れば、
「それ、こっち持つよ!」
と言って、収穫籠を軽々と抱える。
「ひ、姫様!?」
「そんな重たいものを!」
「え? 重くないよ?」
普通ではなかった。
市場へ向かう途中、荷車がぬかるみに嵌まって動かなくなれば。
「せーのっ!」
誾千代が後ろから押し、
ごり、と音を立てて荷車が動く。
「動いたぁ!?」
「姫様、力強すぎません!?」
本人だけが首を傾げていた。
子どもたちと山道を駆け回ることもあった。
「姫様! こっちこっち!」
「待てー!」
誰より速く坂を駆け上がり。
転んで泣き出した子がいれば、
「ほら、大丈夫」
と膝の土を払ってやる。
祭りの日には、屋台へ顔を出し。
「姫様、団子どうです!」
「食べる!」
普通に買い食いを始める。
「姫様! 立場を考えてください!」
と、侍女のたまが頭を抱えるまでがいつもの流れだった。
だから領民たちは皆知っている。
この姫は、“遠い存在”ではない。
同じ山を見て、
同じ風を感じて、
同じように笑う姫なのだと。
だからこそ、領民たちは信じていた。
――誾千代様がいる限り、立花は大丈夫だ。
1582年(天正10年)
立花宗茂、16歳
立花誾千代、14歳
秋晴れの空の下――
立花山城は、祝いの空気に包まれていた。
誾千代と宗茂の祝言の日である。
祝言の日とあって、城内の広場には家臣だけでなく、多くの領民たちも招き入れられていた。
「姫様はまだか!」
「宗茂様、ものすごい美男子らしいぞ!」
「姫様の婿だぞ、そりゃ見なきゃ損だ!」
あちこちでざわめきが広がる。
やがて。
広間へ続く渡り廊下の奥から、二人の姿が現れた。
一瞬、空気が止まる。
まず視線を奪ったのは、立花宗茂だった。
整った顔立ち。
涼やかな目元。
武人らしい鋭さを持ちながら、不思議と威圧感がない。
静かなのに、そこにいるだけで自然と人が目を向けてしまう男だった。
「……本当に美男子だな」
誰かが呟く。
「姫様、大丈夫か?」
「何がだ?」
「見惚れすぎて倒れそう」
その予想は、割と正しかった。
誾千代は隣をちらちら見ていた。
(……やっぱり顔いい)
(なんでこんなに顔いいの)
婚礼衣装の宗茂は、普段よりさらに破壊力が増していた。
身にまとっていたのは、黒を基調とした礼装だった。
深い黒の直垂。
胸には立花の家紋。
白の小袖が黒を引き立て、腰には太刀が添えられている。
華美すぎる装いではない。
だが、その姿には武家としての格があった。
背筋は真っ直ぐ。
無駄のない立ち姿。
長い袖が揺れるたび、洗練された所作が自然と目を引く。
そして何より。
顔が良かった。
婚礼衣装の端正さが、その美貌をさらに際立たせていた。
誾千代は必死に平静を装っている。
装っているだけだった。
そのまま披露宴が始まる。
上座には立花道雪。
その隣には、高橋紹運。
そして仲人席には、大友義統が座っていた。
大友家は北部九州の名門。
立花家も高橋家も、大友家を支える柱石である。
近年、九州は乱れていた。
南では島津家が勢力を広げ、
各地で戦火が上がっている。
立花道雪は“雷神”と恐れられ。
高橋紹運は、岩屋城を守る不落の名将として名高い。
実質、大友家はこの二人で成り立っていた。
やがて、大友義統が立ち上がる。
「本日は、誠にめでたい日である!」
場が静まる。
「立花家と高橋家、両家の末永き繁栄を願い――」
義統は杯を掲げた。
「乾杯!」
「乾杯!!」
一斉に声が響く。
宴が始まった。
酒が進み、空気も和らいでいく。
道雪は宗茂を見ながら、静かに頷いた。
「紹運殿」
「はっ」
「宗茂のような立派なご子息をいただき、大変感謝しております」
紹運は少しうれしそう。
「いやいや。まだまだ至らぬ点もありましょう」
そう言って杯を持ち上げる。
「どうか今後とも、ご指導よろしくお願いいたします」
「うむ」
二人は酒を飲み干す。
周囲の家臣たちは、九州最強クラスの武将二人が並んで酒を酌み交わす光景に、妙な緊張を覚えていた。
だが。
酒が進むにつれ。
「しかし紹運殿」
「なんでしょう」
「大友は、我ら二人で持っておりますな」
「ははは!」
紹運が豪快に笑う。
「いやぁ、上がしっかりせんと部下は苦労します!」
「違いない!」
二人は大笑いした。
周囲の家臣たちは青ざめる。
(それ本人の前で言っていいのか!?)
仲人席に座る大友義統は、笑顔のまま杯を傾けていた。
だが。
(……聞こえてるんだが)
(というか声がでかい)
内心ではしっかり突っ込んでいた。
その頃。
高砂席では。
誾千代が、うっとりした顔で宗茂を見つめていた。
宗茂は次々と酒を勧められている。
「宗茂様! 一献!」
「こちらもぜひ!」
「もう一杯!」
だが宗茂は嫌な顔ひとつしない。
静かに杯を受け、
飲み、
また受ける。
それでも。
まったく顔色が変わらない。
「……強い」
誾千代はぽつりと呟いた。
酒にも強い。
顔もいい。
強い。
優しい。
(なんなのこの人)
誾千代の脳が、処理しきれなくなっていく。
その時。
宗茂がふと視線に気づいた。
「どうしましたか」
そして、わずかに微笑む。
その瞬間。
誾千代の限界が来た。
「……むり」
ふらり。
そのまま後ろへ倒れる。
「姫様ぁぁぁ!!」
たまの悲鳴が広間に響いた。
宴が止まる。
宗茂が即座に立ち上がった。
「誾千代殿!?」
道雪が眉を上げ。
紹運が目を丸くする。
家臣たちが慌てて駆け寄る中。
たまだけが叫んだ。
「旦那様が好みすぎて倒れただけでございます!!」
一瞬の沈黙。
そして。
「ぶっ――!!」
誰かが吹き出した。
次の瞬間、広間中が笑いに包まれる。
宗茂だけが、困ったように静かに笑っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




